東京月記8712

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EDβが取り敢へず揃った。あなめでたやな。

待ってゐたのは廉価ヴァージョン5000番(EDV-5000;\189,000)の方,超高級機9000(EDV-9000;\295,000)を買へる人がゐるんでせうか,と思ったら物が足りずに市場が混乱しつつある,どころか数箇月の待ちが出てゐる有り様だ。これを見越して僕は発売数週間前から5000番を押さへに掛かったが其れでも入手に1箇月近く要してゐる。

現時点で量産型のEDβを手にしてゐる人は数百とゐないだらう。何しろ近所のソニー のお店にも届いてゐない。そ・れ・は・な・ぜ・か・と・た・づ・ね・た・ら(これベンベンの捩り,判ってね)本当は訊きもしないのに店員が教へてくれたのだが,韓国(台湾だったかな)で作ってゐるシリコン_チップが当地のストライキの為に揃はないのださうだ。やな品薄だなあ。

僕がVデッキを選ぶ基準は前にも書いたがβでタイマ連動の外部コンセントを持ってゐて一番安いこと。EDを除いて唯一これを満たすβプロ3000(SL-HF3000;\288,000)は近く製造中止になるが新古品なら20万円を割らない。結局5000番が条件に沿ふ最廉価になる。EDに拘はってゐる訳ではないのだ。

とは言ふものの観まひたか,あんた,EDβ(EDV-5000)のTVCF(此処を書いてゐるのは12月4日)。ちとギラギラして輪郭過鮮明,ザートラシさが感じられるものの業務用1in. VCRに見劣りしないぢゃないでふか。ショッキングなCFである。ソニーの意地が実ったね。

実際の録再ではどうか。実を言ふと試してゐない。だってED用のメタルテイプを未だ見た事すら無いんだもんよ(9000番にはED録画されたデモ_テイプがお負けに附いて来る)。TVCFと同じだと信じよう。

EDに依らない録画では,使用テイプの差が恐ろしい程モロに出て来る。安物を使へば正直にヴィディオ臭い絵になり,本質的な優秀さを窺はせる。ハイバンド(5.6MHz)回路はスヰッチひとつでジャンプもできるのだけれど,実のところ録再共じぇんじぇん見分けが付かなかった。FEヘッドは無くとも繋ぎ撮りは見事,サーチ・スティル・スロウは固形揮発メモリを使ったデジタル処理でノイズレス,操作性もルックスも非常に良い。でも(ストップ_モウションはともかく)フラッシュ_モウションは余計な気がせいでも無いな。ついでにインデクス_スキャンが欲しかったなあ。

とにかく全ての面で旧愛用機を遥かに上回る。旧愛用機で録ったソフトの再生でも画質が向上する。驚いたのはPCMソフトの再生で,ビットが1か0かを拾ふだけだからテイプや装置でそんなに差は出ない筈なのだが此れが全然違ふ。信号が通過するパーツの差であらう。

しかしまぁそれも当たり前と言へば当たり前なのだ。いかんせん前のVCRが悪過ぎる。何しろ旧愛用機はステレオでもハイファイでも,いはんやハイバンドでもスーパ_ハイバンドでもないノーマルβである(今となっては滅多に見られない規格が「ノーマル」とはね)。糅てて加へてメイカがサンヨーである。
サンヨーと言へばNの字が上下に突き出した間抜けなロゴに1億円も支払ったタハケ会社であるが,タハケも昔はβを手掛けてゐたのだな。現在はちょい録り用として然るべき位置に納まって余生を送ってゐる。

5000番はPCM専用機にするつもりでゐたのだけれど,惜しくなったので簡単な手間でTVも録れるやうにしてある。近近『INDIANA JONES』と『ALIENS』を放映するらしいから,これを録ってみよう。

所でEDヴァージョンになったら最初のハイバンド化でせっかく復活したβIがまたしても消滅してしまった。βIはテイプ走行速度が毎秒4cmと速いので録画時間は短い。長時間録画を売り物にした初期VHS(当時は其れしか誇る物が無かった)との対抗上βIは次第に省略されて行ったのだが,再装備したんなら無くすこたぁないぢゃんよ。今βを手に入れる奴は圧倒的な質を求めて敢へて買ふのであって,メタルテイプの高いのを気にしてちゃあいけねえ。

9.3MHzハイバンドにメタルテイプにβIを加へれば,S−VHSなぞ末端の裏ヴィディオ(これは誰がどうやって入手するのかね,不思議で仕様が無いよ。流通を牛耳ってゐるのは誰だ,君か。僕が友達から借りる奴は500回くらゐダビングを経て来た物ばかりで,陰毛なぞ朦朧としてゐる)の絵と大差無いと思へる程の勝利を手中に収めただらうに。

それにしても画質・音質・スペイス ファクタ・機能・機動性・価格,どれを採っても上回るβがVHSに敗れたのは何故だらう。民生VCR黎明期の有力な(TV電波を除いて殆ど唯一の)ソースにアメリカン_ポーノがあった。合州国では既にVHSが席捲してゐたので(この理由も知らん)其れを再生する為には当然VHSのが都合が良ろしい。それで均衡が崩れたと云ふ説があるにはあるのだが,ちょっと弱いよね。

僕がVHSを嫌ふ最大の理由はレスポンスの悪さにある。VHSでは操作の度にいちいちテイプ_ローディングを解いてしまふので,絵が出て来る迄に何秒も掛かる。その数秒間を待つのがどうしても嫌だ。だから東芝の新製品で,パッと絵が出ると言ふCFを観た時にはちょいとドキリとした。日頃嫌ってゐる女がうまい化粧をして来てはっとするやうな,違ふか。

まぁMローディングの儘ならβの機敏さに敵ふ筈がない。安心して良いだらう。

どうでも良いけど東芝のCMに出て来る最近のひろ子ちゃんは不細工に撮ってあって気に入らねえな。ありゃ無いよなあ。それよりもいかんのはルーカスだ。あんたともあらう人がパナソニック のCMなんかに出ちゃあいけねえ。あれではスターウォーズのメカが皆ナショナル製みたいではないか。C3POを作ったのは松下電工か。失望させるぜ,ったく。映画の金が無くなったか。


偶然か星回りかただの癖かは知らないけれど,僕の買ひ物は型番が新しくなった時に集中してゐるやうだ。マークIIやタイプIIIを付けた製品はひとつも無い。大抵すぐ後に改良機が出てちょいとブルーな気分になる。画期的な商品が発売された所をさっと買ってしまひ数箇月間いひひと笑って過ごすと云ふパタンだな。

また電器屋のDMになっちまふが,ワープロがね,最近動きが激しいので書かずにはゐられない。僕の専門分野だもんね。焦点は印字の品位で,32ピン(この字がさう )を飛び越して48ピンが売りになって来た。こりゃ参ったね。全角で48ピンと云ふ事は,ルビを24ピンで振れると云ふ事だ。大変な高品位である。48ピンではまだドットを感じるけれども,もう少しマルチヘッドが進化すれば活版印刷は壊滅する。さう遠くない将来だらう。

プロの作家を除けばキャリアと言ひ頻度と言ひ僕は最もワープロを利用してゐる個人だと思ふが,かくあるべしと考へる形をしたワープロは未だ市場に出現すらしてゐない。編集・作図・グラフ・デイタ処理・画像入力・通信と云った機能はもはや云云する必要の無い所まで各社とも来てゐる。

何とかして貰ひたいのは形状だ。まづプリンタ部を独立させる。これと長めの脱着コードで結ぶ。キーボードとスクリーンは一体化,はやりのラップトップ型(多分主流になる)が良い。こっちはバッテリーとACの両用電源でとにかく軽く持ち運びが楽なやうにする。一時記憶容量はA420頁くらゐで実際に印字する迄の記述・推敲・編集を此れで済ませ,フロッピイのドライヴ装置はプリンタ部の方に任せてしまふ。セイヴやシステム_フロッピイの読み取り・プリント_アウトの時だけ両者を繋ぐのだ。オプションでも良いから10キーは欲しいね。スクリーンはカラー液晶で,少なくとも40字×20行・バックライト付き・縦書き対応。至れり盡くせりだな,かう云ふのを作ってくんないかしら。

日立はまあだ24ピンに甘んじてゐるくらゐだから望み薄である。キヤノン富士通が有望だ,富士通の親指シフト(公開してるけど)は好きぢゃないが。

僕が今買ふとしたらやっぱりキヤノンのαを選ぶ。48ピン10.5ポを中心に7ポと12ポも使へ作図も自由自在である(今のところ僕は現用機で不自由してゐないが,丸を描けないのは悔しい)。19万円台の高級品だが現用機のヴァージョンアップなので苦労して整備したフロッピイを其のまま利用できる。

「ニュースステーション」に拠るとワープロが売れるのは11月から12月に掛けてださうだ。そ・れ・は・な・ぜ・か・と,もういいよ,年賀状を大量に作るのに使ふらしい。成程ね,でもそんなんぢゃ何だか勿体無いなあ。

道具の中でもワープロは極めて強靭な意思を持ってゐる。こいつを使ひこなすには,完全に嘗めて掛かり莫迦にし切って自分の文体をゴリゴリに押し付けねばならない。さうでないとワープロの用例に負けて,まるでおもろない文章になる。


先の17日に地震があった。震央は茨城沖で午前11時頃だったから僕は**町のビルにゐた。ゴンゴンゴンゴーンと誰かが竿で床を突き上げたやうな縦揺れが来て,う〜ん,地震ですなと言ひ掛けたら,ゆさらゆさらと長いストロークのローリングに移る。
*******は13階建てのどちらかと言ふと横デブの古いビルだ。倒壊は無くとも下の階を上が潰して乗っかると云ふ事はあり得る。僕のゐたフロアは8階で一番揺れさうな所ではあるが,いつまでも止まらないし窓の外ではパラボラの付いた鉄塔がわざとみたいにブラブラしてるし,さすがに怖かった。脱出経路を想定しちまったぜ。

エレヴェイタも電車も止まったけれど,オンラインが切れなかったのは幸ひである。体感からすれば発表された震度4では不満だ。あ,やばいかな,これでおしまひかしらんと正直思った。いやー,怖かったなあ。


愚かなる犬吠えてをり除夜の鐘 【詠み人僕が知らず】

てな訳で今年もおしまひ。気違ひのやうに込む帰省列車に乗るのがどうしても厭で,今年も帰らない事に決めた。

年末年始はTVしか無いですな。昔は長尺の落語番組が1本はあったものだが,ヴァラエティばっかりでもう全く駄目である。お楽しみはエイリアンズばかりなり。こないだターミネイタもやったんだから観たくて観てない映画は無くなったも同然。2010年も近く放映されるしね。

僕の職場にも年間80本の映画を(勿論映画館で)観ると豪語する人があるが,よく莫迦莫迦しくならないものだ。TVに出さうもない珍品・げてもの・超マイナ・ポーノばかりを選んでるのかと思ったら,ロウドショウ中心らしい。ひょっとしたら莫迦ではないか。僕が映画館で観た最後の作品は4年前の新作ゴジラである。その前が戦メリ。あ,観たい映画あったあった。ずうとるびのイエロー_サブマリン。でもこいつはヴィディオを買ふつもりだ。

正月や冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし
御慶!御慶!御慶!」
「何だい」
「あれっ,御慶ったんでえ」
「ああ,恵方参りによ」

う〜ん,さうか。弟君は***に這入るのか。でも僕がしてあげられる事なんて何も無い。今後勤務地が一所になれば勿論テクニカルな質問や業務上の困惑には惜しみ無く助言もできるが,処世は自分の思ひ通りにやって行くしかない。不安なのはよっく解るけれども──解るなあ──這入っちまへばこっちのものだ。責任は選んだ方にある。要は気持ちの良い方角を目指せば良いのだ。前にも書いたやうにコンピュータについては全くの無知で構はない。予備知識も無く研修中は居眠りこいてた僕の実感である。白痴でなければプログラマくらゐ誰でもなれる。これを読んどけと会社から渡された本があると思ふが,それをやっつけておけば沢山だ(あとペン字の練習帳を上げさせられるだらうな)。大切なのはむしろキーボード操作の習熟ではないか。JIS配列のアルファベットを空で打つ。これとて必修ではないけれど,10本で運指できると楽しいからね。キーボードに当たりを付けとけば,ちったあ気も紛れるだらう。4月から6月の半ば迄は研修で恐らく**の寮である。君も新しく住所を憶えなくて済むので便利だ。配属先はいつ決まるのか知らんが研修の最終日に知らされる。希望を訊かれた者があるんだか無いんだか僕にはそんな覚えが無い。日本ぢゃなければ辞めるつもりだったけど,海外に事業所は無い。**にはある。しかして出身地はさほど考慮されないやうだ。僕は布団とラジカセだけで1年間過ごした。TVや冷蔵庫は同期の誰かが必ず持って来るので要らん。これさへあれば退屈しないと云ふお気に入りの本とカセット数巻で充分である。寮生活が厭なら意識して金を貯めること。退寮時に50万円は無いとたちまち破綻する。研修中はふたり部屋で,相棒は専門高卒の年下の筈だ。年下の同期はおろか年下の先輩すらゐるが,気にしない方が良い。僕は年下との付き合ひが多かったのでちったあ楽だった。君の賢弟のキャラクタや歴史を全く知らないので(顔も名前も知らん)これ以上言っても詮無いね。僕が勤まってゐる会社である,何とでもなるさ。どうだい,説得力あるだろ。

不一

1987年12月吉日

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この字がさう

この頃の月記はワープロ(キャノワード)で書いてプリントアウトしていた。そのプリンタのヘッドが32×32dot2の熱転写素子で構成されていたのだ。(02.5/25記)

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愚かなる犬吠えてをり除夜の鐘

誰の歌だったかねえ。忘れました。すみません。

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正月や冥土の旅の一里塚めでたくもありめでたくもなし

一休禅師のひねくれた歌。

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御慶

古典落語『御慶』のサゲの部分。借金だらけで首の回らなかった一家が年末ジャンボで一発あてておめでたいという勧善懲悪どこ吹く風な噺である。

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written by nii. n