だから言はんこっちゃない，コガタナのバックミラーを盗まれちまった。
日曜日にシートを剥がしてみたら何だかステアリング周りが恰好良い，すっきりしてゐる。はて俺はハンドル替へたかな。げっ，やられた。ったくよぉ，何処に行っても情けねえ奴がゐやがんなあ。志が低いぜ。嫌になっちまふ。バックミラーだけで済んで良かった？ 否，不快と不安と憤りが込み上げてくる。おらあ此の世を慷概するね。余りにせこいや。莫迦野郎。
ミラー代でまたしても預金を消耗したおいらだが（また盗まれねえだらうな），引越してからと言ふよりも上京してから最も高額の買ひ物を既にしてゐた。此れ此れ，此れでんがな。新しいワープロでっせ。例によって今は大変な苦労をしつつ此の文章を綴ってゐる。
買ったのは何か。CanoWord mini α10と云ふキヤノンの新製品だ。広告を珍しく派手に打ってプッシュしてゐる。仕事がら連日キーボードをぶっ叩く僕は──しかも日立の最新鋭機を操ってゐるので──昨日まで使ってゐたPEN-24の変換効率の悪さにはすっかり愛想を尽かせてをり，こいつが来るのを楽しみに待ってゐた。手紙の頻度が落ちてゐたのも其の為だ。日立のワードパルでも良かったんだけどさ，キヤノン・シャープ・リコーのＯＡ合戦を利用した方がハイＣＰの商品を入手できる。
αは最大50桁×13行のスクリーンを持ってをり，これが上下左右にスクロールする。推敲がさすがに楽だし禁則処理も整って，嫌ひなぶら下げ組みを避けるのに気を遣はなくて済む。この頁７行目なんかをよく見ると，微妙に印字が摺れ込んで行末を揃へてゐるのが判るだらう。印刷の様子を観察したところ，とても不思議な書き方をした。スクリーンは自発光しない液晶表示だから眼に優しい。採光の加減に因っては反射光が煩さいけどね，消費電力の点でも有利だらう。
編集機能その他はまづ何でもできると言って良い。オプションでイラスト_リーダ・グラフィクス・毛筆書体・オンライン_インタフェイス等が付くけれど，まぁ使ひはしないと思ふ。ナショナルの毛筆体を見た事があるけど，確かに美しいが何だか厭らしかった。あれで手紙を書くのは恥づかしいね。
ヘッドは32ピンだ。少しは印字の品位も上がったらう。ＰＥＮの書体には情け無いものがあったが，24ピンで12ポを狙へばあれでも止むを得まい。字面についてはどのメイカにもちゃんと専門のデザイナがゐる。そ奴の技量で格も決まるわけだ。今回キヤノン氏は32ピンをレターフェイスとしてまるまる使へた。今はオリヂナルの10.5ポをさらに36ピンに拡大して印字してゐる。此の字の大きさが12ポだよ。10.5ポだと手紙文にはちと小さ過ぎる。因に新潮文庫の活字が概ね８ポくらゐ。
仕事がら連日キーボードをぶっ叩くおいらはキーボードの出来にも敏感だ。慣れてゐると云ふのを差し引いても日立のキーボードはうまく作ってあるが，こいつはまぁ並の作りだらう。それでも工夫して10キーを実現してゐる。キイの配列がＪＩＳ規格に従ってあるのは難有い。
この手紙と並行してヒット_パレイドの曲目も表形式で作成中なのだが，こっちではソート・セレクト・関数計算ができる。ついでにペイジ検索のコマンドも欲しかった。画面単位のスクロールではかったるいのだ。
４万数千語の辞書をもってゐながら歴史的仮名遣ひには冷たい，当たり前か。余計な操作が必要になるんで面倒臭いんだよね。でも旧仮名のままでワープロが開発されてゐれば同音異義語がかなり少なくなるから，もっと便利な機械になってゐた筈だ。
此処までの文章で１字だけだがＪＩＳ第二水準の漢字を用ゐてゐる。どれでせう。
さんざ使ひ込んだＰＥＮを悪く言ふ事は無いけれども，日本語ワープロとしての実力はαに遠く及ばない。僅か１年半前の製品だが雲泥の差がある。英文タイプライタの性能を買って取ってあるが，君が欲しければ売る。ＡＣアダプタ込みで１万円。送料そちらでどうかな。商売するな。
２日経って，だいぶ操作に慣れて来た。初代ワープロのピコワード・２代目ＰＥＮに比べて上達の早いのは当然だが（仕事がら連日キーボードをぶっ叩くし），ＦＭｆａｎ２冊分くらゐの操作説明書を読むのはしんどい。
αと同じ日に新しいスピーカの板が切り上って来たのでさあ大変。欣喜雀躍，手の舞ひ足の踏む所を知らず，と言ひたいが実際は部屋がとっ散らかって僕のゐる所すら無い状態だ。ニュー_リファレンスは10cmフルレインヂ１発の背面開口バックローディド_ホーンで，設計は例に依って長岡鉄男大先生。Ｄ−１０１と云ふ型番にスワンなるペット_ネイムが付いてゐる。製作と試聴の報告はまた次の機会に。
ふぅ，疲れた。
今一はっきりしない予定ではあるけれども，おいらまたしても＊＊に行く事になるかもしれねえ。言はずと知れたリクルートよ。ったく詰まらねえ仕事をさせるぜ。今さら＊＊なんて面倒臭いから抵抗してゐるが，う〜ん，どうかな，まあ，立ち寄る羽目になったら泊めてくんねえ。頼むよ，ひとつ。
不一
1987年５月吉日