冠省
７月３日にちょっと遅く（20時頃）帰ったところ，電話の架設工事を７月３日にやるから必ず居ろと云ふ葉書が来てゐた。葉書は１階管理人室の脇にある，マンション全戸の郵便受けの集まるコーナに配達される。そして部屋まで戻ると，おめーせっかく来てやったのに居ねえぢゃんかようと云ふ主旨の連絡票が，今度はおれの部屋のドア_ポストに突っ込んであった。阿呆か。俺は天狗様ぢゃないんだヨ（意味無し）。３日の日に仕事に出て３日の日に着いた３日の日の工事予告の葉書に間に合ふやう３日の日に待ってゐる事はできない。どうも世の中には愚か者が多いのであって，やはり愚か者でない者以外は全員愚か者であると断ぜさるを得ない。
ただし当の葉書は６月29日午前の消印が捺されてゐた。従ってＮＴＴの職員を責めるのは筋違ひ，＊＊＊郵便局の怠慢であらう。＊＊＊局は土曜日は休みらしく１日が日曜日だったとは言へ，29日世田谷発が２日に着いてないのは酷い。僕は毎日ポストを見るのを楽しみにしてをり何も這入ってないと社会に見放された気持ちになるくらゐで，ちゃんと届いてゐたのを見落とした等と云ふ事は地を打つ槌が外れようともありはしない。だのに，５日に来てちょとＮＴＴに電話をしたら，僕を非難するやうな口調で応対しやがった。何だい，俺のせゐぢゃねえや。
５日の日，10時前と言ふのにふたり掛かりでＮＴＴは来た。
室内工事ったって此の部屋にはローゼットがもう設けてある。単なる回復手続きであって，実際の作業も局に通じるかどうか電話して確認しただけだった。10分足らずで税込み5665円も取る，いい商売だな。
工事完了と同時に使用可能である。
器械は東芝のＰＦＸ−30
P・U・B・L・I・Cで，電話とファクシミリの一体型，半分業務用だ。留守番電話の機能は無く，また僕としても別に留守電を買ひ足して接続するつもりは無い。
通話とファクシミリとの切り替へ方法はＰＦＸに選択肢が幾つもあるのだが，基本的に自動とした。まづ普通の通話状態で掛かり，僕が10秒以内（コール音４・５回）に受話器を取らなければ無警告でファクシミリ受信モウドに繋がってポーポーとかギュリリキュゴーとかコール音が変はる。このとき10円は落ちる。此処でファクシミリの用意をしてなかったら振り出しに戻ってちょ。
ＰＦＸのスタンバイに依っては10秒経っても通話呼び出しが続けられるかもしれないけれど，最長25秒が過ぎてなほ僕が出ない場合は在宅モウドのまま（居）留守をしてゐると云ふ事なので，やはりファクシミリで掛け直してちゃうだい。
オノレの声なんぞ聞きたうないわいと云ふ向きには，最初からファクシミリを送ってくれればこちらの選択肢に関はらず自動的に受信する。
ＰＦＸはＢ４版まで受け取れ，通信はＧIIないしＧIII（どう云ふ内容だ）または東芝機間専用の規格を使ふさうだ。ファクシミリ通信網や新電電とは契約してをらず，勿論ＰＢＸも通してゐない。要するに単なる電話回線である。
ただ一応プッシュ回線にはしといた。プッシュフォンのトーンを作ってダイヤル回線に送り込む事ができるから大抵のプッシュ_サーヴィスは行けるが──だから殆ど無駄遣ひである──伝言ダイヤルだけはプッシュでなきゃ駄目なんだな。全くＮＴＴもあざとい。
アースを落とさないと感電すると脅し文句がマニュアルにある。何にもしてない時でもＰＦＸは発熱が結構あって不気味だ。カセットの収納キャビに載せといたら９mm厚のベニアを隔ててもテイプがほこほこと暖かい。恐ろしいからアースしとかう。
消費電力が最大130Ｗはともかく待機中でさへ10Ｗの大飯喰らひである。こりゃ参ったね。
電話番号は普通いくつかある空きから好きなのを選ばせてくれると聞いてゐたのだけれど，僕の場合は否応無く決められてきた。横浜045(21)7015である。
目下の楽しみはいついたづら電話や商売電話が掛かってくるかと云ふ事なので，人に漏らしたりしないでね。誰もそんな事はせん。
新規格ＳＣＭＳでＤＡＴ再発，狂瀾を既倒に廻らす事ができるか。
現在ディジタル出力を持つオウディオ機器と云ふと，まづＣＤ，それからＢＳ，誰も知らないＰＣＭプロセッサ，そして当のＤＡＴがある。
ＰＣＭはアナログ入力しか適はず──本当はちょっと違ふ。それに就いては後述──つまり高級カセットデッキと同じで問題は無い。ＤＡＴが揉めに揉めたのは，音質劣化を起こさない（と云ふ事になってゐる）ディジタル_コピイが可能だからである。
ＣＤからのダイレクト_ダビングが売りなのに発売前からソフト側のクレイムが付いた。日本のメイカは何とかなるサと高を括ってゐたが一向に調整が付かない。仕様が無いからＣＤからのディジタル入力は諦めて見切り発売したものの，よく考へたらＤＡＴはディジタル信号でダビングする為の器械だ。肝心な機能が無くて20万円もしてソフトが無くて，そんな木偶の坊が売れる訳が無い。
この初期型ＤＡＴを買った奴の気が知れない。音質その物もカセットデッキに負けてゐたのだ。
ＳＣＭＳって何だ。
巷間流布してゐるのは「ＣＤから１回だけディジタル録音できる」と云ふ説明だが，これは誤解を招き易い。前のＤＡＴでも「ＣＤからディジタル録音はできない」としか言ってないのに「ＤＡＴでＣＤを録音する事は不可能」と拡大解釈した人は少なくなかった（今でも居る）。勿論アナログ入力なら100万回でもコピイできるのである。
やり直し。ＳＣＭＳって何だ。
確かに此れ，ややこしい。ＤＡＴの一般的な使途で正解となるやう定義するなら「ディジタル入力を使って録音したＤＡＴテイプを親にして更に（Serial）ディジタル_コピイ（Copy）する事を禁じた（Management）システム（System）」である。
ｎ世代をディジタル_コピイで作ればｎ＋１世代以降ディジタル_コピイは一切できない。録音時ＤＡＴはディジタルコピイ禁止符号を一所に打ち込むのだ。従ってソースがＣＤやＰＣＭ・市販ＤＡＴソフト（僅かながらある。輸入品）ならば其れをディジタルコピイした第１世代で終はり，マイク入力やアナログのライン入力で録音した場合は此れをディジタル_ダビングした第２世代でおしまひだ。
多くのディジタル_ソースには既にディジタル_コピイ禁止符号が埋め込まれてをり，有体に言ってＳＣＭＳとは其れを１回だけ無視するシステムなのである。
何だ，単純明快ではないか。否，例外があるのだ。
ＢＳのディジタル出力だけはディジタル禁止符号を設定してゐない。ディジタル_ソースが禁止符号を含んでゐなければＤＡＴも敢へて此れを付加せず，つまりディジタル_リンクを続ける限りＢＳの音声は何世代でもディジタル_コピイが可能なのである。尤もＢＳの画像を抜いてダビングする奴など居ないが。それに今後発売されるＢＳチューナは禁止符号をセットするやうになるだらう。
ＳＣＭＳ搭載以前からＤＡＴは生録にしか魅力は無いと言はれてきた。
カセットは既にコピイ機として実力充分，孫世代・曾孫世代までのダビングは通常しないものだし孫世代の劣化した音でも平気な人はカセット以上の機械を必要とせず堪へられないマニアは端からダビングなどしないしカセットも使はない。操作性もスペイス_ファクタもカセットと同じである。ソフトは無きに等しい。ハードとＤＡＴテイプへ20万円近く割くのなら，其の金でＣＤが60枚買へる。
唯一有力な生録も，いまＳＬや小鳥の囀りを録りに行く人が居るだらうか。プロの演奏会は絶対とらせて貰へない，アマの発表会はもはやムーヴィの世界である。
以前のＤＡＴなら，僕はアマチュア_ミュージシャンがオリジナル_アルバムを作るのに最適だらうと思った。ＤＡＴ間はディジタル_ダビングが無制限にできたからピンポン録音でも劣化が著しく少ない。４ch.か８ch.のＤＡＴミキサなら文句無く，２ch.でもまぁ構はない。それがＳＣＭＳのお陰でパーである。
今回10万円前後のＤＡＴ機がどっと出てきたが，売れるかどうか。僕は欲しくない。オウディオ_マニアがせっせと買ってコスト_ダウンが進み６万円を割れば俄然魅力が出てくるけれど──今日のＣＤの隆盛もマランツが598のＣＤ−34を出してからだ──いま10万円あれば８mmVCRが買へる。
８mmなら８bit ＰＣＭを持ってをり（ディジタル入出力は無い）絵も録れる。８mmはムーヴィが好調で日立が今度参入するくらゐだから死に体になる可能性はぐっと低くなった。ＤＡＴにできる事は８mmにも当然可能な筈で，それをやらないのはメイカの都合に外ならぬ。
ユーザは好い加減こんな物要らないとはっきり言ってやるべきではないか。
ＤＡＴの将来は相変はらず，明るいが多難である。
βカセットの余りの大きさに辟易し，８mmVCRの導入を考へる。
言ふ迄も無くHi８がベストであるが，引っ越し及び家財道具の刷新の為さすがに預金の疲弊が酷くて思ふに任せない。取り敢へずノーマル８mmでも良い。ＥＤβ7000番が値よく売れれば予て懸案のＬＤ／ＣＤコンパチ_プレイヤと合はせて苦し紛れに買ふ。かうなりゃとことん金遣ふたろ。
と思ったが，前段ＤＡＴの件を書いてゐて気が付いた。
僕の持ってゐるＰＣＭプロセッサは２台のVCRを繋いでディジタルコピイができる。ディジタル入力端子は無いから第１世代はＡ／Ｄコンヴァータを通るけれど，第２世代以降は無制限にディジタル_ビングを繰り返せるのだ。ＣＤをコピイしたのは禁止符号が効くかと恐れたが，第２世代へのディジタルコピイもできた。うむー，ＤＡＴより優れてゐるではないか。
Hi８は水平解像度400本以上とＥＤβに次ぐ高画質フォーマットでＳ−ＶＨＳに優る。ただHi８用のテイプはＥＤの其れより高価だしHi８を使ふ程のソースはざらには無い。保存用としてもノーマルの８mmが主力となる筈だ。
先般ひさし振りにＶＨＳの絵を観たが此れはβを観慣れた眼には極めて貧弱に映った。βでダビングを繰り返した孫テイプか曾孫テイプくらゐの再生画でしかなく，こんな物にβは負けたのかと思ふと落涙に堪へない。そして８mmの画質はＶＨＳとどっこいどっこいなのださうだ。導入は見合はせようよ。その方がお金かかんないし。
本当の電話番号を書かうかな。ちょっと憶え難い。045(***)****である。未だ知る人は少なく，会社にも内緒にしてある。もちろん電話帳に載せるやうな莫迦な真似はしてゐない。
東京では来年から局番の頭に３が喰っ付いて４桁になるのだけれども，横浜には暫くの余裕があるやうだ。
申請時に電話帳は要らんと言ったが横浜市版のハローページとタウンページ（上下２冊）とテレホンガイドは持ってきた。置き場所に困る。
不一
1990年７月14日
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