天平初年頃、防人司佑として大宰府に仕えていた(万葉集)。天平十年(738)四月、大和少掾。同十七年十月、雅楽助正六位上行助勲九等。万葉集巻三に二首、巻四に二首、巻八に一首入集。名は四縄ともある。
やすみしし我が大君の敷きませる国の
【通釈】我が大君がお治めになっている国――その中でも、私には都が思われてなりません。
【語釈】◇やすみしし 「我が大君」の枕詞。
【補記】大宰府にあって防人を管理する職にあった時の歌。
藤波の花は盛りに成りにけり奈良の都を思ほすや君(万3-330)
【補記】ここ大宰府では藤の花が盛りになりました。奈良の都を懐かしく思い出されますか、あなた様も。
【補記】「君」は大伴旅人をさす。旅人はこの歌に「我が盛りまたをちめやもほとほとに奈良の都を見ずかなりなむ」と応じた。
大宰帥大伴卿、大納言に
【通釈】月夜は美しい、川音も清らかだ。さあここで都へ旅立つ人も筑紫に留まる人も、思う存分遊んで参りましょう。
【語釈】◇蘆城の駅家 大宰府の東南、福岡県筑紫野市にあった駅家。
【補記】天平二年(730)冬、大伴旅人は大納言に任ぜられて京へ向かった。その時の送別の宴で詠まれた四首のうち最後の一首。左注に「右一首、防人佑大伴四綱」とある。
【他出】玉葉集
【主な派生歌】
日ざかりはあそびてゆかん影もよし真野の萩はら風たちにけり(*源俊頼)
月夜よしおふの浦梨かげもよし涼みて行かん綱手ゆるべよ(俊恵)
風は清し月はさやけしいざともに踊り明かさむ老のなごりに(*良寛)
大伴四縄、宴に
こと繁み君は来まさず
【通釈】忙しくてあの方はおいでになれない。時鳥よ、せめておまえだけでも来て鳴いてくれ。そうしたら朝戸を開けよう。
【補記】夏相聞。宴席で女の立場になって詠んだ歌。朝まで待ちぼうけを食い、時節柄時鳥が鳴きでもしたら、朝戸を開けて、男を迎え入れる代りにその声を迎え入れよう、ということ。時鳥は恋の思いを媒する鳥と考えられたところから、その鳴き声が男の訪問の代償となり得たのである。
最終更新日:平成15年10月11日