八代女王 やしろのおおきみ 生没年未詳

天平九年(737)二月、無位より正五位上に叙せられる。この頃、聖武天皇の嬪となったか。聖武天皇崩後の天平宝字二年(758)十二月、先帝に幸せられたにもかかわらず志を改めたため、従四位下の位記を破棄された。万葉集4-626に聖武天皇に献ずる歌がある。続日本紀には矢代王・矢代女王とある。

八代女王の天皇に献る歌一首

君により言の繁きを故郷(ふるさと)の明日香の川に(みそぎ)しにゆく(万4-626)

【通釈】あなた様のことで世間の噂がうるさいので、その穢れを落としに、故郷の明日香川に禊ぎをしに参ります。

【補記】聖武天皇に奉った歌。

題しらず

みそぎするならの小川の河風に祈りぞわたる下に絶えじと(新古1376)

【通釈】禊ぎを行なう楢の小川の川風に吹かれながら祈り続けています。二人の仲が人に知られぬまま絶えないようにと。

【語釈】◇ならの小川 ふつう京都上賀茂神社の境内を流れる川を指すが、この歌の作者は奈良朝の人であるから、平城京内の小川とも考えられる。◇下に絶えじと 恋がひそかに続くようにと。

【補記】『古今和歌六帖』では「八代王女」作とする上記「君により…」の次に載っている。この排列をもとに新古今集では八代女王の作として採録したものらしい。

【他出】古今和歌六帖、定家十体(幽玄様)、定家八代抄、色葉和難集

【主な派生歌】
風そよぐならの小川の夕ぐれはみそぎぞ夏のしるしなりける(藤原家隆[新勅撰])


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成15年03月21日