updated Nov. 3 1999
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3135. 私の登録している派遣会社では、今年8月19日付で、私に11日間の有給休暇が発生しているます。ところが、社内のきまりでは「1ヵ月と1日以上のブランク(派遣就労していない期間)が出来ますと、継続勤務の条件からはずれ、有給休暇に関する資格は全て消滅する」となっています。
 派遣元や派遣先の都合でブランクが空いてしまった場合、この後この会社で派遣就労するなら、「そっちの責任だから消滅は取り消せ」という要求はできるでしょうが、仮に就業しない場合、損害として金銭等を請求できるものでしょうか?

   これまでの相談例から推測しますと、1ヵ月の空白期間(未就労期間)があれば、継続勤務を否定する、というのが登録型派遣労働者に共通の取り扱いと思います。

 登録型派遣労働者の場合に、この継続勤務をどう解釈するか、一つの問題点です。
 いくつかの派遣会社に複数登録しているときには、A社(派遣元)からの派遣と、B社(派遣元)からの派遣が継続しても、年次有給休暇との関連では、勤務の継続が切断されてしまう、という問題点があります。

 これは、派遣労働者が、一般の労働者に比べて不利になることが際立った点です。
 労働基準法第39条では、次のように、「継続勤務」を要件の一つとして年次有給休暇の権利が発生するとしています。
 労働基準法第39条(年次有給休暇)

  使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。


 この「継続勤務」についての解釈の問題です。

 労働基準監督署が従うことになる労働省の行政解釈では、つぎのように「継続勤務の意義」を説明しています(昭和63年3月14日 基発150号)。
   (注)「基発」とは、労働省労働基準局長名で発する通達

  継続勤務とは、労働契約の存続期間、すなわち在籍期間をいう。
 継続勤務か否かについては、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであり、次に掲げるような場合を含むこと。この場合、実質的に労働関係が継続している限り勤務年数を通算する。
 イ 定年退職による退職者を引き続き嘱託等として再採用している場合(退職手当規程に基づき、所定の退職手当を支給した場合を含む。)。ただし、退職と再採用との間に相当期間が存し、客観的に労働関係が断続していると認められる場合はこの限りでない
 ロ 法第21条各号に該当する者でも、その実感より見て引き続き使用されていると認められる場合
 ハ 臨時工が一定月ごとに雇用契約を更新され、6箇月以上に及んでいる場合であって、その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合
 ニ 在籍型の出向をした場合
 ホ 休職とされていた者が復職した場合
 ヘ 臨時工、パート等を正規職員に切り替えた場合
 ト 会社が解散し、従業員の待遇等を含め、権利義務関係が新会社に包括承継された場合
 チ 全員を解雇し、所定の退職金を支給し、その後改めて一部を再採用したが、事業の実体は人員を縮小しただけで、従前とほとんど変わらず事業を継続している場合

 ここでは、「勤務の実態に即し実質的に判断すべきもの」とされています。
 とくに、期間を定めた雇用契約(短期契約)であっても、更新をしていれば、継続勤務になることは間違いがありません。この点は、派遣労働者であっても、同様だということになります。
 ロでは、「その実態より見て引き続き使用されていると認められる場合」ですからご相談のように「1ヵ月と1日以上のブランク(派遣就労していない期間)」があれば、「引き続き使用されていない」ことになるのか、否かの解釈の問題になります。

 具体的な事例との関係では、

 (ア)公共事業の一般職の日々雇用非常勤職員の場合も「継続勤務」
     (昭和36年11月27日 基収5115号)

        会計年度末 年度初め 会計年度末 年度初め
 −−−|======|   |−−−−−|======|   |−−−−
特別職  一般職    離職   特別職   一般職 離職  特別職
            10日間 10日間
  年度末に離職(10日間)して、また、特別職→一般職としての採用を繰返す雇用について、継続勤務を認めるとしている。


 (イ)競走事業に従事する労働者の場合も「継続勤務」
     (平成元年3月10日 基収140号)

 |−|     |−−−|      |−−|     |−−|
 レース日     レース日       レース日     レース日

 競輪、競馬等の競走事業では、所定労働日がレースの開催日だけに限られているが、所定労働日数が、年間48日以上であるので、年次有給休暇の権利がある。
 しかし、次のいずれにも該当するときには、「継続勤務」と解せられる。
  1.概ね毎月就労すべき日が存すること
  2.雇用保険法に基づく日雇労働求職者給付金の支給を受ける等継続勤務を否
    定する事実が存しないこと
 同一施行主体の異なる事業場に就労する場合は、それらを通じて判断すること。

 多くの派遣会社が、現在、原則にしている「1ヵ月+1日」の期間があれば、継続性を認めない、とするのは、この労働省の解釈「概ね毎月就労すべき日が存すること」を根拠にしていると、推測されます。

 しかし、この(イ)に関連した日本中央競馬会事件で、東京地方裁判所は、労働日がきわめて少ない労働者について、継続勤務であることを明確に認めています。

  夏季2ヵ月間を除いて、土日だけの就労であるために、年間勤続日数が80日しかなく、在籍期間と未在籍期間を繰返して、毎月4日から10日の勤務であった馬券発売所の女性が年次有給休暇の権利を行使したところ、使用者がこれを認めず、賃金をカットした事例で、裁判所は、こうした場合にも実質的には「継続勤務」であることを認めて、「継続勤務に該当するか否かは、勤務の実態に即して実質的に労働者としての勤務関係が継続しているか否かにより判断すべきである」としました。そして、この女性の訴えを認めて、賃金カット分の支払を使用者(中央競馬会)に命じました。
(日本中央競馬会事件・東京地裁平成7年7月12日判決)


 この判決は、「継続勤務」を広く認めたものです。

 ご相談の事例では、使用者側は継続でないようにするために、1ヵ月+αの空白(未在籍期間)を置いているようですが、勤務実態は、この競馬会の事例に比べても格段に継続性があるといえますので、使用者側の契約が継続しないという考え方は認められないと思います。

 最近の労働省の解説書には、この点について、次のように記載されているだけで「1ヵ月+1日」で勤務の継続性が切断されるとは、書かれていません。

  派遣労働者が常時雇用されている場合は、当然継続勤務に該当しますが、それ以外の場合についてこれに該当するかどうかは勤務の実態に即して実質的に判断されます。たとえば、短期契約により雇用されている場合であっても、実態からみて引き続き雇用していると認められる場合には継続勤務に該当することとなります。登録型の派遣労働者については、登録だけがなされている時点では労働契約は締結されておらず、具体的に派遣先が決まった時点で労働契約が締結されることとなりますが、その労働契約が締結される期間を全体として判断して、実態として引き続き雇用していると認められる場合には、継続勤務に該当することになり、年次有給休暇を与えなければなりません。
 (労働省職業安定局編著『派遣元責任者必携 労働者派遣法』財形福祉協会、1997年、87−88頁)
  労働省労働基準局監督課編著『派遣労働者の労務管理』労働基準調査会、1986年、95ー96頁も同旨)


 つまり、登録型派遣労働者の場合、派遣=労働契約締結から次の派遣=労働契約締結となりますが、「全体として判断して、実態として引き続き雇用していると認められる場合」には継続勤務になるのですから、画一的に「1ヵ月+1日」で継続勤務としない、という考え方ではありません。

 日本中央競馬会事件は労働日と労働日の間が離れており、レース期間中だけ労働契約が締結されている関係です。しかも、年間に80日間しか勤務していないのに、継続勤務であることが認められています。これと比較したとき、登録型派遣労働者の実態は、ほとんどが、この競馬従業員よりも継続性をもって勤務していると考えられます。

 確かに、競馬従業員の場合でも、施行主体が同一であることが要件となっていますので、派遣労働者の場合には、派遣会社が同一であることが必要となりますが、同じ派遣会社のもとで派遣就労を継続している限り、「1ヵ月+1日」で継続性を否定することはできない、と私は考えます。

 労働省は「毎月就労の日があること」を継続勤務を認める要件にしているようですが、絶対的なものとは言えません。

 しかし、これは「法解釈」の分れるところだと思います。反論として「登録型派遣労働者は、いくつもの派遣会社に同時に重複して登録しているではないか、たまたま同じ派遣会社からの派遣があったとしても、多くは、別の派遣会社からの依頼にも応ずるから、実態として引き続き雇用しているとは認められない」という解釈もあると思えます。

 また、「『契約社員』『臨時社員』の場合には、使用者が異なれば、継続性がなくなるので、それと比べたときには、登録型派遣労働者の場合も同様である」という見解もあると思います。

 本来、登録型派遣労働者というのは、年次有給休暇や社会保険などの雇用の継続性による使用者の人件費負担を節約するための雇用形態、とも言えますし、労働省もそれをいわば「承知」で、私たちの強い反対を押し切って、登録型を導入したという、立法経過があります。

 私のような解釈は、こうした立法経過や実務からは、かなり遠い見解かもしれません。しかし、中央競馬会の労働者が、難しいと思われた状況のなかで、裁判を闘って、権利を確立したという素晴らしい成果があります。派遣労働者であっても、粘り強くがんばることによって、同様な結論を引出せる余地はあると思います。少なくとも、重複登録を禁止したり、派遣と派遣の間についても、できるだけ労働者を確保するような手段がとられているとき(次のオムロンパーソナルクリエイツの例)など、一定の「拘束性」があれば、勤務の継続性を認める補充的な根拠になると考えられます。

「オムロンパーソネルクリエイツ東京支店、待機・研修中も給与支給――派遣スタッフに」〔日経産業新聞1998年01月28日〕

> 派遣元や派遣先の都合でブランクが空いてしまった場合、この後この会社で派
>遣就労するなら、「そっちの責任だから消滅は取り消せ」という要求はできるで
>しょうが、仮に就業しない場合、損害として金銭等を請求できるものでしょうか?

 理屈のうえでは請求できると思います。

 その場合に、個人では、裁判を通じて権利を実現するしかありません。実際には、弁護士がつかない「本人訴訟」では、ほぼ勝訴の見込みはありませんので、受任してくれる弁護士がいるか、どうかという問題になってきます。

 ここでも、中央競馬会事件のように、継続的・社会的に、裁判を位置づけることが必要だと思います。いま、派遣会社は、優秀な派遣労働者不足に悩んでいる面もあります。オムロンPCの新たな対応は、人材確保の意味をもっています。

 裁判も有効な手段ですが、他方では、集団的な交渉を通じて、登録型派遣労働者の継続性の範囲を拡大するという努力(「1ヵ月+1日」を、せめて「3ヵ月」や「などに改めさせることも)必要だと思います。

 年次有給休暇に関連したQ&Aとしては、次のものをご覧ください。
  qa1060.派遣か正社員か? 派遣で働くときの注意は?
  qa2005.派遣労働ってどういうものですか?
  qa3088.派遣労働者の有給休暇の取り扱いは?
  qa3090.有給休暇はだれに請求したらよいのでしょうか?
  qa3100.有給休暇(常用型の場合) 
  qa3110.登録型派遣労働者も年次有給休暇があるのですか。
  qa3115.登録型の場合、年次有給休暇の要件の8割の出勤とは?
  qa3120.年休の要件である8割出勤とはどう計算するのですか。
  qa3132.年休は月3日が上限だとされ、賃金から減額されたが?
  qa3133.契約満了前に残っていた年次有給休暇を行使したい
  qa3134.年次有給休暇の按分付与は認められるのでしょうか?
  qa3135.1ヵ月と1日以上の空白があれば年次有給休暇が消える
  qa3136.未消化の年次有給休暇を行使するためにだけ契約期間を延長することができますか?

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