updated Dec. 12 2000  派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)
 質 問 と 回 答 例 (F A Q)

2387. 仕事がきつく続かないので、期間満了前に退職したい

今年5月から来年4月末まで1年契約で派遣で働いています。はじまって1週間で自分にはこの仕事はとても勤まらないと思い、何度も辞めたいと、派遣元に言ったのですが、聞き入れてくれません。仕事の量が多く、このままでは身体がもたないです。すぐにでも辞めたいのですが、新入社員の引継ぎをしないといけないといわれます。法律上、契約期間の途中でやめることはできないのですか。労働者に有利な法律はありますか。


 正社員や常用型派遣では、派遣元と労働者の労働契約が「期間を定めない契約」になることが普通ですが、契約社員や登録型派遣社員の場合、「期間を定めた契約」(有期契約、短期契約と呼ばれます)になることが多いと思います。

 この区別は重要です。「期間を定めない労働契約」の場合、退職のときは通常2週間前の解約申し入れでよいのですが、期間を定めた労働契約の場合は、そうは言えません。

 というのは、「期間」は契約についての重要な内容だからです。労働者も使用者も一応その契約期間に拘束され、原則として期間途中での契約の中途解約は契約違反となります。

 通常、期間を定めた契約の場合には「使用者からの中途解約」の場合、労働者から使用者に対して契約期間一杯の雇用や休業保障を求めることが可能です。詳しくは、中途解約に関連した項目をご覧下さい。

 理屈のうえでは、労働者からの中途解約も契約違反と考えられます。しかし、多くの派遣就業の場合、ご相談のように、派遣元が労働条件をしっかり伝えていなかったなど、労働条件明示や労働条件改善をめぐる責任が派遣元=使用者側にあることがほとんどです。また、事前に違約金を定めることは、労働基準法第16条(使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。)違反です。したがって、期間途中の契約の解約という点では同様ですが、労働者からの中途解約の場合には、使用者(派遣元)は、時間やお金がかかる裁判を起こし、どのような損害が生じたかを実際に証明し、裁判所が損害賠償を命じてくれない限り、労働者に対して賠償支払を強制できません。

 しかし、労働者としても期間を定めた労働契約の中途解約(=退職)の場合、事情によって使用者(派遣会社)から損害賠償責任を問われる危険性があることもしっかりと認識する必要があります。できるならば円満退職を追求するのが本来の筋です。少なくとも、事前通告をしっかりとして、派遣元に善後策の余裕を与える点で誠実な態度をとることも必要です。そして円満退職のうえ堂々と辞めることが望ましいのは言うまでもありません。

 とくに現実には、派遣元や派遣先が当初の労働者派遣契約や就業条件明示書など労働契約の内容に反する指示をしたり、労働者派遣法や労働基準法に反する運用など、派遣会社の側に問題がある事例も少なくありません。

 派遣会社が、労働者に賠償責任まで追及することになれば、「弱い立場の派遣労働者を訴えてまで損害賠償を取立てる、厳しくエゲツナイ会社」という評判がたち、登録者が激減する可能性も考えられます。労働組合などの支援も広がって、会社の側の問題が注目を浴びることになります。労働者の責任を深く追及すれば、かえってヤブヘビとなることも考えられます。実際にこれまで、派遣会社の側から労働者を訴えた例は皆無に近いと言えます。

法違反、契約違反などがあるのに、派遣元や派遣先が、あくまでも契約期間にこだわって辞めさせてくれないときには、労働者は、公共職業安定所や労働基準監督署に救済を求めることができます。また、地域の個人加盟の労働組合に相談して、労働組合を通じて、団体交渉を派遣元に申し入れて円満解決を求めるという選択も有効です。

 基本的な考え方は以上の通りですが、実際はまず、労働者からの退職に関する規定が派遣会社の就業規則にないかを確認して下さい。

派遣従業員就業規則 第○○条
 (退 職)
第○○条 スタッフは、次の各号のいずれか一に該当するときは退職するものとする。
 1)雇用期間が満了したとき。
 2)退職の申し出が承認されたとき。
 3)会社の都合により正当な理由があるとき。
 4)スタッフが死亡したとき。
 5)音信不通または行方不明の状況が、暦日数14日に及んだとき

 2 スタッフは、前項第2号により退職の申し出をするときには、退職を希望する日の14日前までに口頭または文書で会社に申し出なければならない。

 もし、こうした規定があれば、「2)退職の申し出が承認されたとき」、つまり派遣会社が期間満了前でも認めれば、円満退職が可能となります。個別交渉や、行政機関の援助、地域労働組合の援助(とくに団体交渉)を活用しながら、派遣元と粘り強く交渉し、退職の承認を求めて下さい。

 こうした規定がなくても、また、派遣元が退職を認めてくれないときでも、期間満了前に契約を解約すること(労働者からの退職)は、「やむを得ない事由」があればできると考えられます。民法は、関連して次のように規定しているからです。

 民法第628条〔やむことをえない事由による解除〕
 当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
 但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス

 つまり、雇用契約の当事者(労働者と使用者)が雇用の期間を定めたときであっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者(労働者と使用者)は直ちに契約の解除をなすことができる。ただし、その事由が当事者の一方の過失によって生じたときは相手方に対して損害賠償の責任がある、ということになります。

 重要なことは、この但書(ただしがき)です。
 この「やむを得ない事由」が当事者の一方の過失(注意義務に反する行為)によって生じたときには相手から損害賠償責任を問われることがあります。

 何が「やむを得ない事由」については、解釈の問題になります。通常、労働者から辞める場合としては、

  1. まったく個人的な理由(例:旅行に行きたくなった)
  2. 他の会社への就職
  3. 健康上の理由(例:就職後になって手術が必要な病気になった)
  4. 家族の事情(例:家族の病気や要介護状態、夫の転勤など)

 などが考えられます。

 派遣会社は、おそらく、1.のような理由では労働者の勝手な退職だとして、許されないと主張することになると推測します。

 労働者には「職業選択の自由」や「退職の自由」がありますので、派遣会社が退職を実力で妨害することはできません。ただ、派遣元(使用者)としても契約期間の拘束によって労働力確保をし、派遣先と労働者派遣契約を結んでいるという事情があります。労働者が前ぶれもなく突然に退職したとき、実際に派遣先に大きな損害が生じる場合が考えられます。そして、派遣先から派遣元に労働者派遣契約違反の責任(損害賠償責任)の追及があるとき、派遣元(使用者)から派遣労働者に損害賠償請求がある可能性は否定できません。

 とくに、労働者が突然に退職を申出たときには、派遣会社としても代替人員を確保できない可能性が大きくなり、大きな損害が実際に発生する場合も考えられます。過去には、労働者が突然退職した事例で、会社から労働者に損害賠償を請求した事例もあるようです。

 問題は、2.の場合です。
 派遣社員の場合には、正社員と比べて雇用が不安定で、労働条件も悪いですので、正社員の就職口があれば、そちらに変わることに大きなメリットがあります。そこで、期間満了前であっても、別会社に転職したいという例が少なくありません。

 この場合、1.とは違って、派遣会社としても労働者にのみ責任を負わせるのは難しいと考えます。
 この場合、ご相談のように、派遣会社で最初聞いていたより仕事がきついなど派遣先での労働条件が悪いということが理由になることが少なくありません。その場合には、後で述べますが、労働者にだけ責任があるとは言えないことになり、事情によっては労働者から使用者(派遣元)を相手に契約違反の責任を追及できる可能性も生じます。

 会社が、期間満了前に退職する労働者に損害賠償を請求する例はきわめて少数です。多くは、退職金等がある正社員で、競争会社への就職の場合(2.の場合)に、退職金を支払わなかったり、減額するなどの例です。

 派遣社員は通常、退職金がありませんので、会社としても根拠のある損害賠償額を示して労働者に賠償請求するしかありません。正社員の場合、会社が労働者の引き抜きを防止するために「競業避止義務」を定めることがあります。しかし、日本の現実で身分が不安定で賃金も高くない派遣労働者に、派遣会社が競業避止義務を定めることは、理屈のうえでは有り得るとしても、実際には契約当事者の権利・義務のバランスを欠くことになると考えられます。会社から労働者に損害賠償を請求して、それが裁判で認められるのは余程の事情がある、ごく例外的な場合に限られると思います。

 派遣元としては労働者を確保するには労働条件を改善し、労働者の自発的な意思によって職場にとどめるのが筋です。もし、派遣元が、一方で派遣先での就業条件が実際には厳しいものであることを労働者に伝えず、他方で「期間を定めた契約」を理由に身分的拘束だけを主張するのは、いかにも悪徳かつ詐欺的だと言えます。法的には、契約の相手方のもつ正当な期待にそうように他方が行動することを求める「信義誠実の原則」(民法第1条2項)に反するからです。

 労働者の側に3.や4.の事由があれば、契約期間の終了前であっても、常識的にも労働者を働かせることは無理です。これらの事情がある場合には、「やむを得ない事由」と考えられています。

 いずれにしても、契約期間の拘束はありますが、労働者の側から、ある程度余裕をもって退職を申出ているときには、派遣元としても代わりの労働者を見つけることが十分に可能です。とくに、余程の専門的業務であれば代替者を見つけるのは困難ですが、相次ぐ改正で派遣業務は非専門業務に拡大されています。多くの場合、代替労働者を見つけることは派遣元としてそれほど難しくないと言えますので、ある程度の期間をあけて退職を申出ているときには、派遣元から労働者に損害賠償を請求することはできないと考えられます。

 以上は、いちおう契約期間前に退職する労働者に責任があることを前提にした場合です。
 しかし、労働者の側に責任がない事由も多いと考えられます。つまり、使用者(派遣元)側に責任がある場合です。

 例えば、使用者側に、(1)契約違反、(2)労働法規違反、(3)信頼関係の破壊などの事由があれば、労働者は、それらを契約解除の「やむを得ない事由」として主張できます。この場合、同時に、労働者は即時に労働契約を解除できますし、生じた損害を使用者に賠償するように求めることも可能です。

 ご相談の場合にも使用者側の約束違反などがないか、契約関連の文書を正確にしらべ、就労の記録を記憶を頼りにできるだけ正確に再現して下さい。

 最初の約束と実際の就労の違いがあれば、それを明確に示して使用者側の責任を問題にできますので、労働者が責任を問われることはありません。むしろ、使用者側の契約違反を問題にして生じた損害(残り期間の賃金全額も含まれる)を請求することも可能と考えられます。

 なお、就労のごく初期であれば、派遣先での就労条件が派遣元での契約と違っていれば、労働基準法第15条( 2 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。 3  前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。)を根拠に、労働者からの契約解除ができますし、派遣元(使用者)から帰郷旅費の支払が義務づけられます。詳しくは、関連したFAQを読んで下さい。


関連リンク集

FAQの目次に戻る  FAQの内容別分類  110番の書き込み欄へ

クリックで110番書き込みページへ

S.Wakita's Home Page