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 ことばをめぐるひとりごと  その4

ルイトモ

 似たような趣味の人が集まっているのを見て、「ルイトモだね」などと言う人がいます。「類は友を呼ぶ」の省略形のようです。大阪府堺市の人がすでに1980年前後に聴いたという証言をくれました。
 ことわざのような古めかしいものでも、省略して使うと、なんだか新語のような響きをもつから不思議です。「目からうろこだよ」という表現も、もとは聖書のことばで「目からうろこが落ちる」ですが(使徒行伝9.18)、全部言わないところがミソであるわけ。ベネッセコーポレーション発行の雑誌の中で「メウロコ」という形をみたという証言も聞きました(1998.09)
 もう10年以上前から使われているのが「ミミタコ」でしょう。もちろん「耳にたこができる」の省略です。カセットプレーヤー、耳せんなど商品の名前にも使われたりして、定着しているようです(辞書にはまだ載っていないようですが)。南伸坊氏にも『ミミタコ大全』という作品がありました。
 また米川明彦氏によれば、「清水の舞台から飛び降りる」ということを若者語で「キヨブタ」というのだとか(『現代若者ことば考』)。これは京都や大阪の学生のことばではないでしょうか。
 ことわざを省略する言い方は伝統的にもあって、「マユツバ」(眉につばをつける)、「タナボタ」(棚からぼたもち)、「ドロナワ」(泥棒を捕らえて縄をなう)などはそうでしょう。「カモネギ」(鴨が葱を背負ってくる)は比較的新しいのかしら。これらがいつごろから言われだしたかということは、ちょっと調べるのが容易ではありません。
 一方、中国の故事成語でも省略して使われることがあります。

「ネコちゃん、この場合、三十六計しかやりようがない……」
「わね。ちょっと、東の国のみなさん、逃げて! 退却{たいきゃく}!」
(新井素子『扉を開けて』1985発表 集英社コバルト文庫 p.201)

 ここで「三十六計」というのは、「逃げる」ということですが、字をそのまま読むと「36の計略」ということですから、なぜ逃げることになるのか分かりません。これは、元が「三十六計逃げるにしかず」(南斉書・王敬則伝)で、「36種の兵法の中では逃げることがもっとも安全な方法である」ということです。後半を略すのは厳密にはおかしいわけです。
 ことばは、よく使われるものほど音数が少なくなるという法則がありますから、省略されることわざは、それだけ親しまれているのでしょう。

(1997年記)

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