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99.02.08

スンーズ

 いささか旧聞に属しますが、旧住専の大口融資先である会社の顧問弁護士が、強制執行妨害の疑いで逮捕されるというニュースがありました(98.12.07 「朝日新聞」など)
 弁護士が顧問をしていた会社の名前がちょっと注意を引きます。「スンーズコーポレーション東京リミテッド」(東京都港区)というのです。
 ちょっと読むと「スーンズ」かと思ってしまいますが、間違いなく「ンー」と延ばしています。いったいこれ、何語だろうか。どう綴るのか? まさか「Snnnnz」ではあるまいな。
 と思っていたところ、続報によって疑問は氷解しました。

起訴事実を被告認める 強制執行妨害事件
 所有するビルの賃料をダミー会社の口座に振り込ませて隠し、差し押さえを免れたとして、強制執行妨害罪に問われている不動産販売会社「スンーズコーポレーション東京リミテッド」社長のスン・チョンリ(孫忠利)被告(六三)らに対する初公判が二十二日、東京地裁(山崎学裁判長)で開かれた。(「朝日新聞」98.12.23 p.26)

 社長の名前だったんですね。これ以前から孫社長の名は紙面にあったけど、ヨミガナがなかったため、「孫=スン」というのが結びつかなかったのでした。
 朝鮮語なら Son Chung Ri、中国語なら Sun Zhong Li となるはずなので、中国系の名なんでしょう(追記参照)。しかし、それならば「Sun's Corporation」すなわち「スンズコーポレーション」でいいのにと思います。加藤茶さんの「スンズレイしました」みたいになっていやだったのかな。
 城生佰太郎・松崎寛『日本語「らしさ」の言語学』(講談社)は、さまざまな角度から「日本語らしさ」とは何かを追究した本ですが、その中で、日本語ではあり得ない音の配列について触れています(p.77以下)
 たとえば、アフリカの地名「ンジャメナ」のように「ン」で始まる単語。またイタリアには「カモッラ」などというマフィア組織があるらしい。ラ行の前の促音というのも、従来の日本語の音配列規則を破っているようです。
 この項目に「一般的な和語・漢語において、特殊拍が使われる位置」を○×で示した表があります。そこでは「ンー」という組み合わせは×になっています。「んーとね」と考えるときなどは、そういう音配列もあり得ますが、一般的にはないのですね。
 外来語としても「ンー」なんとかというのは滅多にないと思います。「スンーズコーポレーション」は、その意味では特筆すべき会社でしょう。


追記 信頼できる筋によると、孫社長はシンガポール国籍の華僑ということです。中国系で正解ですね。(2001.06.29)

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