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98.10.05

はっきし言って

 NHKの朝の連続テレビ小説「天うらら」を楽しみに見ていましたが、先週で終わってしまいました。ところで、8月の初めに、このドラマを見つつ書きとめ、そのままどこかに行っていたメモが今ごろ出てきました。

ハツ子「はっきし言って、わたしはあなたのことよく知りませんし〔下略〕」(1998.08.07 12:45 NHK「天うらら」)

 ハツ子(池内淳子)は、ヒロイン・うららの祖母で、江戸の下町で育ったという設定です。娘の再婚相手に対してこう言ったんですが、「はっきし」というのは今の若い者が使うのだとばっかり思っていたので、はて、これは下町ことばの先生の指導によるのかな、と疑問に感じました。アドリブじゃないんだろうか。
 「わりかし」は、比較的最近のことばです。「わりかた(割方)」の俗な言い方として「わりかし」が広まったのは東宝映画の「お姐ちゃん」シリーズからだといいます(見坊豪紀『ことばのくずかご』p.117)。「お姐ちゃん」とは、重山規子・団令子・中島そのみの三人娘で、1960年代初めに活躍していました。
 古いのは「やっぱし」。1785(天明5)年の「深川手習草紙」に「是でもやつぱし懲りねへのさ」とあるし(『江戸語の辞典』)、それ以前に京都の安原貞室の著「かたこと」にも出ています。
 「ばっかし」もこの「かたこと」に出てきます。『江戸語の辞典』では「多く女性用語」とあります。
 とまあ、「〜し」のつく言い方も、新旧いろいろあるわけです。発祥としては、江戸なんだろうか、上方なんだろうか。
 井上史雄著『日本語ウォッチング』(岩波新書)に考察があります。全国規模で調査すると、現代では「ぴったし」「さっぱし」「ちょっきし」「はっきし」「あんまし」「びっくし」などが、「中部地方・近畿地方など各地で、かなり使われている」(p.99)らしい。とくに「中部地方や西日本の方言では、老年層がさかんに「やっぱし」を使っている」(p.98)そうです。「やっぱし」についていえば、「そこから東京の口語に入ってきたのだろう」と推測しています。
 ただし、関東や中部の方言でも「そのかわし」「これっきし」などというのがあるそうで、してみると関東で独自に発達した「〜し」もあるのかもしれません。「はっきし」が、ハツ子ばあさんの少女時代に、東京の下町で使われていたかどうかは、これだけではよく分かりませんでした。
 大阪の知人に、この「〜し」を多用する人がいます。訪ねて行ったとき、「ゆっくし」と言っていたような気がしたので本人に確かめたところ、
 「あんまし、いいまへん。ご指摘の表現については、はっきしわかりまへんなぁ。ちょっぴし、気にかかりはったんやったら、きっちし覚えて帰えんなはれ」
 と言われました。

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