それからの香港おのぼりさんツアー


一章 でけえぞ香港新空港 (98.9.26)

1998年7月6日、香港の大嶼山(ランタオ島)の北にある島チェック・ラップ・コックに新空港が開港した。

正式名称  香港国際空港(中文名:香港国際機場)
総面積   1,248ha
滑走路   開港時1本 3,800m(1998年末2本に増設予定)
客運能力  開港時3,500万人(最終8,700万人到達可能)
貨運能力  開港時300万t(最終900万t到達可能)
発着便数  1,000便/日
年間発着数 360,000回
営業時間  24時間

上記のスペックだけ見ると、関西国際空港をはるかにしのぐ能力を持っている。が、しかし、開港当時さまざまなアクシデントが発生。発着が遅れる、貨物が行方不明になる、空港設備が十分機能しないなど・・・。「まるでこれからの香港を暗示するような出来事」とマスコミにも大変な言われようだったのである。幸先悪いスタートを切った香港新空港であるが、はたしてこの新しい香港の玄関口はいったいどんなものなのだろうか。

「藤澤さん、荷物はすべて機内持ち込みにしたほうがいいですよ」
「え?それって、ひょっとして新空港の開港時のトラブルの事ですか?」
「そうなんですよ。多分、問題ないとは思うのですが、一応そうしたほうが・・・」
「ええ?でも、あれから一カ月ですよお。いくらなんでも回復しているでしょう」
「まあ、しかし、そうして行ったほうが確実ですし・・・」
「でも、無理ですねえ。荷物の内半分が写真機材なのです。これは絶対機内持ち込みにしないといけないし、かなりの量なのですよ。持ち込みの量にも限界があるそうだし、多分無理ですねえ・・・」
「そうですか・・・」
訪港前、チケットの手配をしてくれたJTBのおねえさんとこんなやりとりがあった。この話を聞いて不安になった私であったが、現地のはんちゃんに問い合わせてみると、旅客に関しては問題ないと回答が帰ってきたので、最初の計画どおり、写真機材以外は預かってもらうことにしたのだった。

私の乗ったCX565便は順調に飛行を続け、無事香港上空に到着。いよいよ噂の新空港へ着陸するのだ。九龍半島をすりぬけ、青衣島と噂の青馬大橋を望みながらいよいよ着陸体制に入った。高度はどんどん下がっていく。海原の波の形がだんだんはっきりと見えてきた。二年前に体験した香港カーヴとちがって、非常になめらかで静かなアプローチだ。窓から外を見ながら釘付けになっていた。窓に新空港のターミナルビルが見え、羽根を休めているいるキャセイの勇士達がみえたか見えないうちに静かにタッチダウンした。
「ありゃあー、意外とあっさり味なのねー」
すっかり洗練されて小粋になった香港の新しい玄関口に無事到着。現地時間14時20分。予定よりも何故か20分早かった。ブラッシュ・ウィングの機体はゆっくりとターミナルに近づく。返還前に見たごちゃごちゃした雰囲気が微塵もない。実にすっきりとした滑走路や建物が南国の日ざしの演出も手伝って、実にまぶしいのだ。
「何となく、関西空港に似ているなあ・・・」
そうなのだ。関西空港は100%埋め立て。ここはチェック・ラップ・コックという島を切り崩したのだが半分以上は埋め立てだ。両方とも海上空港。立地的にも非常に良く似ている。そして、ターミナルビルもガラス張りのモダンな造りでこれも関西空港に似ているのだ。
ゆっくりとダウン・ロードをしていたCX565便はターミナルに到着。ボーディング・ブリッジが接続され、いよいよ入国と相成った。
早速、撮影機材を入れたバッグをくくりつけたカートを引きずりながらイミグレーション(入国審査)へ向かおうとするのだが、新空港の全貌を把握していなかった私はここで迷うことになってしまった。
「あれ?なんでみんなこっちの方向へいくんや?」
私は案内表示板の「抵行(Arrivals)」の方向へ行こうとするのだが、ほとんどの人達が私の進もうとしている方向と逆の方向へ歩いていく。
「そっちは乗り継ぎでしょ?なんで?」
みんな、自動歩道に乗ってはるかかなたに見えるターミナルの端へとどんどん進んで行く。私はしばらく彼らをじっと見ていた。地元香港人も混じっているのだからそれに従えばいいのだが、私は何故かそれには従わなかった。案内表示に従って「抵行(Arrivals)」の方向へ歩き始めた。しばらく歩くと下りのエスカレーターがあり、さらに「行李(Baggage)」と書かれた案内表示がトランクのマーク付きで表示してあった。
「なんじゃあ、案内表示がちょっと一貫性があらへんなあ。案内地図かなにかあれば迷うことあらへんのになあ」
ぶつぶつ言いながらトランクのマークがあるのなら大丈夫だろうと思い、そのエスカレータに乗って下へ降りると、そこは行き止まりになっていたのだ。
「なんじゃそら!」
あるのは壁と硝子窓と自動扉だけなのだ。自動扉もいっこうに開く気配がない。困った顔をしていると、窓から列車が見えて止まった。列車が止まると自動扉が開いた。これにはびっくりである。
「んだあ?香港の空港にもウイングシャトルがあるやん!」
そうなのだ。新空港にも関西空港にあるものとそっくりのウイングシャトルがあるのだ。私は吸い込まれるようにそのウイングシャトルに乗り込んだ。ウイングシャトルは私が歩いた方向と逆方向、つまり乗り継ぎと案内表示されていた方向へすごいスピードですすんでいた。
「なんや!おんなじ方向なら、そう表示してえな。不親切な案内表示やのう」
ほっとして私はぽつりと言った。そして、かなりの距離を走ってウイングシャトルは止まった。かなり長いエスカレーターで再び上へ上がると大きな吹き抜けがあった。
「でっけえなあー」
イミグレーションに到着するまでの距離、規模を見るとかなりでかい。いつも関西空港との比較になるのだが、いったい何倍あるのだろう。
無事イミグレーションを完了し入国。いよいよバゲッジ・クレイムである。クレイム・ユニットは全部で12基。2番から13番のナンバーが付けられている。私が乗ったCX565便用のユニットは12番だ。待っていること5分あまりで私の荷物が出てきた。心配していたのだが、旅客用の荷物に関しては問題ないようだ。カスタムゲート、そしてバッファ・ホールを通りすぎるとようやく到着ホールである。
「やっと着いたよ。なげえなあー」
とにかく、このでかさは尋常ではないのである。さらに私は到着ホールのでかさにも驚いたのである。3階分にわたる大きな吹き抜け。そして、このホールの端から端までの長さがとてつもないのである。一番端の人達が芥子粒のように見える。私の頭上には古のプロペラ機の実物大模型が吊るされている。そして、沢山の人達。到着ホールまではそれほど人がいなかったはずなのだが。ここでの人の多さは並みではないのである。みんなカリカリした広東語で喋り、ホールにあるOK便利店(日本のコンビニでサークルKのこと)やマクドナルドは若者であふれかえっていた。新空港は現地人の新しい観光スポットと化していた。
迎えに来てくれる現地在住のはんちゃんはまだ来ていない。予定よりも早く着いてしまったので仕方がない。その間、5000円分だけ香港ドルに両替。それが終わったころにはんちゃんがやってきてくれた。
再開を喜び合い、いよいよ香港中心部へ移動する。香港中心部へは、新しく開通したエアポート・エクスプレス(機場快線)かエアポートバスを選ぶことになる。我々はエアポートバスを選んだ。バスはもちろん二階建てのダブルデッカーである。「ダブルでっかあー」の関西弁ではないのであしからず。バスを選んだのは北大嶼山公路の車窓風景を楽しむためである。もちろん二階の最前列に陣取ってである。
中心部までは実にスムーズだ。広い道路なのだが、車の量が少ないのである。
「なーんもないっすねえ。山ばっか」
「そうですねえ。香港もまだまだ自然があるんですよねえ」
私の感嘆とした声にはんちゃんは感慨深げに答えた。私自身、ごみごみしている香港中心部しか知らなかったのでびっくりである。岩の山が多く、高い木はあまりなかったのだが、見事なまでの緑の山々は威風堂々としているのである。
「藤澤さん、あれが噂の新名所、青馬(チンマー)大橋ですよ」
「うっげえ!でっけえ」
予想以上のでかさに驚いた私であったが、新空港と同じ返還後の香港の新しい象徴なのだ。
「新空港は旅客のほうはもう大丈夫なんですけど、貨物はまだまだ問題があるんですよ。なんせ、新空港に届いた貨物を一旦旧空港へ運んで仕分けしているのですから・・・」
「うええー、大変ですねえ」
まだまだ問題ありなのだが、新しいインフラ整備が出来た香港。これから新しい時代へ突き進もうとしているのだが、果たして肝心の香港現地人の心のインフラはできているのだろうか?
今、私は返還後の香港にいる。玄関口が新しくなって意気揚々に見える香港。はたして、それは表面だけなのか。それとも・・・。とにかく、限られた時間に見るだけみてやるぞ!気持ちだけは意気揚々のわたしであった。

つづく

■注釈
【新空港のターミナル・ビル】
デザインはイギリスの建築家N・フォスター。あの香港上海銀行の本店のビルの設計も担当した。

《参考文献》
香港がらくたノート(大西陽一・後藤桂子共著 トラベルジャーナル刊)
Discovery Vol.26 No.8(キャセイ・パシフィック航空機内誌 1998年8月号)
香港街道地方指南98 (通用図書有限公司刊)

《参考資料》
香港国際機場パンフレット
Hong Kong International Airport at Chek Lap Kok -How to get there-


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こさっく茶房/コサック藤澤
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