それからの香港おのぼりさんツアー


序章 聞いてないよ!台北経由香港行き (98.8.30)

香港へ行くと言ったら、会社の人に「女を買いにいくのか?」と言われた。良く行くコンビニのおっちゃんにも「南シナのクーニャンが・・・」なんて言われてしまった。日本人の香港に対するイメージは返還後もあまり変わっていないようだ。いや、むしろ悪くなっているのではないだろうか。
昨今のニュースや雑誌のコラムにはたまにではあるが香港の話題が放送されたり掲載されたりするのだが、英国からの返還が原因なのか、観光客がすっかり減ってしまったようだ。一番最近のニュースでは日本のアダルトビデオがビデオCDで、しかも海賊版で大量に売れているらしい。どっちにしろ、あまりいい印象は持たれていないようだ。

実は私は熱烈に香港が好きという訳ではない。ブランド物にはうといし、高級料理店で料理を味わうほどグルメではない。香港明星にお熱を上げている訳ではないし、香港電影のファンでもない。ある意味、私は香港に関してはクールなスタンスで接しているのかも知れない。
では、どうして私は香港へ行くのか。しかも、今回は二回目である。理由は香港の熱い熱気が好きなのだ。香港に限らずアジアの混沌とした喧噪が大好きなのだ。人がいっぱいいる市場の雑踏の中にいると私は生きていると実感できてしまう。周囲にいる人達が私に元気とエネルギーを与えてくれるのだ。そんなシーンを写真に収めるのが大好きなのだ。金銭的に余裕があったのと、返還後の香港を見てみたいという気持ちもあって、香港へ行くことになった。

「ええ?台北経由う?聞いてないよお!」
出発当日、関西空港の出発の電光掲示板を見て唖然としてしまった。出発の2週間前にチケットを取ったのだが、旅行会社のお姉さんは何にも言ってくれなかったのだ。関西空港から香港まで5時間は時間がかかりすぎだとうっすら気づいていたのだが、今ごろ気づく私もおまぬけ者である。
「ま、いっか。今更どうなる訳でもないし。一時的にも台湾へいけるんだから良しとしよう!」
気をとりなおしてJTBの団体窓口でチケットを受け取り、さっさと出国手続きをすましてしまった。大変お気楽な私であったが、私の乗るCX565便台北経由香港行きは、実はちょっと曲者だったのである。
「えらい乗客がすくないなあ・・・」
実際飛行機に乗ってみて周囲を見てみたのだが、乗客がぽつりぽつりとしかいない。がらがら状態なのである。
「なんでえ、JTBのねえちゃん、この便しか空きがないって言ってたやんけ。嘘やったんかあ?」
2年前に初めて香港へ行った時は一カ月前からでもチケットを取るのが大変だったのに、この変わりようはなんなのだ、愕然としてしまった。ちょうど中国返還前の香港ブームだったので、日本人でいっぱいだったのに。そんな訳で私はすでに腰砕け状態。香港へ行く前にすでに大きな変貌を目の当たりにしてしまったと感じてしまった。そんな私を後目にこのCX565便は定刻の10時より5分ほど遅れてテイクオフしたのだった。
機内スタッフにも若干変化があった。ひょっとしたらキャセイ・パシフィック航空だけなのかも知れないが、男性のスチュワーデスがいるのだ。いや、男性だからスチュワーターと言ったほうがいいのだろうか。1名だけ日本人男性がきめこまかにお客さんに対応していた。機内食もそこそこに食って、2時間ほどで台湾桃園の中正国際空港へ到着した。
中正国際空港もちょうど二期工事が始まっていて、第二ターミナルが建設中だ。
「皆様、当機キャセイ・パシフィック航空CX565便は定刻通り台湾中正国際空港へ到着致しました。またのご利用お待ち申し上げております。また、このまま香港へ行かれる方はそのまま機内でお待ち下さい」
ボーディング・ブリッジがゲートに接続されるやいなや、乗客が出ていく。あれ?ちょっと待っておくれ。乗客のほとんどが出ていく。ふと見ると機内は私を含めて2、3名しかいないのだ。
「なんじゃ、そらー!」
ぽかんと口を空けた私のそばで清潔なユニフォームを着た台湾人のおにいさんがもくもくと機内清掃を始めた。まるで私は苦虫をかまされたような面持ちでぼけーっとシートにすわっていた。待っている間、清掃係のにいちゃん達を観察するしか暇潰しの方法がなかったのである。さすが南国の台湾人である。みんないい色に日焼けしている。しかし、このにいちゃんたちの清掃、かなりいい加減なのである。シートの前のポケットのゴミを確認するのもかなりいい加減で、おまけに何人ものおにいちゃんが同じ場所を何度も巡回しているのである。かなり非効率。それだったら、一人に対してのエリアを決めて集中的にやったらいいのに、とぶすっとしながらうそぶく私であった。
そうこうしているうちにボーディングが始まり、乗客が雪崩のように入ってきた。あっという間に満員。再び私は唖然としてしまった。周囲で台湾語と広東語が飛び交っていた。そうした中で私はやっと気がついたのだ。
「そうか、JTBのおねえさんが言っていたのはこういう意味だったのか」
そうなのだ。満員だったのは台北から香港だったのだ。この便に乗る乗客は香港へ行く台湾人と香港へ帰る香港人が大半のようだ。まさか、台北経由で香港へ行くような面倒な人はそういないであろう。私ぐらいのものだ。ちょっと、損をしたような私であったが、でも、大好きな台湾人達のにぎやかな会話を久々に聞けてちょっと嬉しかったのは事実である。
2時間の長い休憩を終えてCX565便は再び大空へ。あと1時間で香港なのである。もうじき友人のはんちゃんに会えるのだ。だんだんわくわくしてきた私であった。が、しかし、ここでもびっくり。なんと、また機内食が出てきたのだ。台北からの人達にとっては問題ないのだが、私にとっては大問題だったのである。2時間置いて再び機内食を食べるのは、飲茶した直後に広東料理を食べるようなものだ。スチュワーデスさんは私が日本から乗っているということを忘れてしまっているらしい。再び機内食を私の目の前にもってこようとする。私はとっさに
「ノー!アイム ドリンク オンリー」
ヘタクソの英語で断ったのだが通じない。
「アイ ケイム フロム ジャパン。 アイ イートン ミール」
これを繰り返してようやく通じたのだ。語学力のない私がいけないのだが、しかし、骨が折れる。でも、良く考えたら、台北から香港まで1時間である。離陸や着陸準備の時間を除いても30分しか食べる時間がない。大急ぎで食べてもじっくりコーヒーを味わう時間などないのだ。それでも、乗客たちは余裕で平らげてしまっている。私の隣の台湾人は鼻歌まじりで新聞片手にコーヒーをすすっている。
飛行機に乗ってからいろいろな驚きに遭遇したが、いよいよ香港へ殴り込みである。返還後の香港は変換前に比べてどう変わったのか。しっかりとみてやろうと誓う私であった。

つづく


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