暴れるドラゴンに吹っ飛ばされないように、一同は身を寄せ合った。先ほどのおちゃらけムードは一転、非常事態である。
「おいおい、なんでドラゴンがこんな所に来てんだよ?」
 さすがのシェゾも、この状況でまだサタンと罵り合いを続けてはいなかった。
「ドラコの弟さんなんだって。お腹が減って機嫌が悪いらしくて…カーくんでもここまでひどくないよね、カーくん?」
「ぐー!」
「アルル、何バカ言ってんだ」
 と、シェゾが言ったと同時、ドシン、と地面が高く揺れた。
 ドラゴンが足踏みしたのだ。
「このままじゃ学校の施設が壊れちゃう!どうするの!」
「…仕方あるまい」
 サタンの声は低く、威厳に満ちていた。
 その声は、サタンは魔界王の次期候補であり、闇の貴公子と讃えられている存在であることを一同に思い出させた。
「サタン様…」ドラコは息を呑む。
 腐っても鯛、という全員の想いがサタンへの熱い視線となって送られる。
「誰が腐った鯛だ!」
「サタン、ホントに取り押さえられるの?」
「…アルル?私をなんだと思っているんだ?」
「闇の変態大魔王」
「貴様は黙ってろ」
 地面がまたドシンと揺れた。
 一同から上がる悲鳴、悲鳴、悲鳴。
 サタンはふと、ふくらはぎ辺りに何かが絡み付いている感触。
 下を見ると…、
「怖いよぉ、助けてぇ、サタンのお兄ちゃん…」
 と、ルルーがサタンの足にしっかりとしがみついていた。
 サタンの理性が一瞬吹っ飛びかけた。
 が、今はまだ我慢することにするサタンだった。
「よぉしっ!このサタンのお兄さんがついていれば安心だ!あんなドラゴンなんかに、可愛いルルーちゃんを指一本触れさせるものか!はっはっは、お兄さんのカッコイイ所、しっかり見ててくれよ!とぉ!」
 掛け声と共にサタンは翼を広げ、ドラゴンめがけて飛翔していった。
 後に取り残された者達は、呆れやその他諸々の感情をはるか通り過ぎ、清々しい気分を味わっていた。
「…ホントに行っちゃった…ドラコのおねーさんの言う通りにしただけなのに…」
 ルルーはドラコを見上げた。
「言いたくないけど…サタン様、あまりに分かり易すぎ…」
 ファンクラブ会長、渾身の言葉だった。

 サタンはドラゴンの頭上まで一気に到達した。
 ドラゴンは蝿を追い払うかのように、鬱陶しげに前肢をばたつかせた。
「この次期魔界王たる私に刃向かおうなど六億五千七百五十七万四千三百二十七年早いわ!」
 どこから出した数字か知らないが、サタンはすらすらと言葉を並べ立てるなり、両手を天にかざした。
「どんえ〜ん!」と、呪文の響きには緊張感がなかったが、これこそ睡眠系魔法最強とうたわれた伝説の古代魔導だった!

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