何せ、現実世界にある『ぷよぷよ』ほど、ゲームの体系がまとまっていないので、試合内容は乱戦混戦。
 最初にアルルに沈められたシェゾを除いても総勢九人対戦である。『四人でぷよぷよ』どころの話ではなかった―――

「つ、つ、疲れたぁ…」アルルはおじゃまぷよの上にどさりと崩れ落ちた。
「もう、日暮れちゃってるよ…」パノッティが夕陽を見つめた。
「結構、体力いるねこれ…」ドラコが額の汗を拭った。
 ミノタウロスもしゅうしゅうと息が荒い。彼の呼吸を上がらせるほどの運動量を、『ぷよぷよ』は要求したのだ。
「わ、私としたことが、こんな遊びにむきになってしまうなんて、不覚でしたわ…」
 ウィッチはぱたぱたと土ぼこりを払った。
「もう帰るか…なぁ」
 すけとうだらが同じモンスター同士に呼びかけた。
「そうですわね〜…」
 ハーピーが同意するが、身体を動かすことはまだ出来なかった。
「何、みんなだらしないなぁ」
 元気いっぱいなのはルルーのみ。
「いや、ルルーちゃんは強いなぁ」
 他と同様、バテてはいるもののサタンは機嫌がいい。
「わたしって才能あるかしら?」
「うん、あるぞ。私が保証しよう」
「そう、ありがと」
 ルルーはにっこり笑う。サタンはルルーの笑顔に打たれて胸がときめいた。
「ときめくなっつーの!」
 ぼこっ、とおじゃまぷよの山からシェゾが現れサタンに突っ込んだ。ツッコミ魂恐るべし、である。
「えぇい、お前はいちいちつっかかるな…そうだ、アルル!?」
「なにぃ〜?」疲れ果てた声でアルルは応じた。
「婚約の件だが、少し考えさせてくれ…ぐはぁっ!」
 シェゾは闇の剣でサタンの喉を突いた。
「な、何をする!さっきから私の邪魔ばかりしおって!」
「法案も通過したご時世に貴様は何をほざく!」
「なんだよ法案って!…むむ、それはさておき…、別に私の行動はお前の行動や目的を阻むものではあるまい!?それなのにお前に邪魔をされる筋合いはない!」
 シェゾはぐっと言葉を飲み込んだ。
「ほほぉ…さてはお前も、今のルルーがちょとばかし気になってるんだな!?そうだろう?それしか理由はあるまい!」
「ば、馬鹿言え!貴様じゃあるまいし俺にはそんな趣味ねぇぞ!」
「ま〜たまた、我慢しちゃって、この意地っ張り!」
「違うっつってんだろー!」
 二人の会話を、アルルたちは遠い目で見守っていた。
「…馬鹿は放っておこう」と言ったアルルの心情、推して知るべし、である。彼女はいつもあの二人にしつこく付きまとわれているのだから…。
「あの若返りの術って、時間制って言ってたけど…ルルー、戻る様子がないね」
 ドラコが、おじゃまぷよで遊んでいるルルーを見て言った。
「ああ、ほんの二三時間だとシェゾは言っていたが…」
 ミノタウロスはふと奇妙な気配を感じて振り返った。
「どうした、ミノタウロス?」すけとうだらが訊いた。
「いや、何か…空気の流れが変わったような…」
 バサァ、バサァ、と大きな布がはためくような、重い音が近付いてくる。
「あ」とドラコが思い出したように声を上げた。「今、何時?」
「四時は過ぎてますわね」
「きっと…ウチの弟だ」
「弟?」アルルは不審に思った。
「ドラコの弟…ドラコケンタウロスの雄って…」
『ガアアアァァァオオオォォォ………』
 ドラゴンの咆哮が、鼓膜を叩く。
 吹き荒れる風はおじゃまぷよを吹き飛ばしていく。
「今日、おやつあげるの忘れてた…お腹減って機嫌が悪くなってるんじゃないかな…どうしよう、私でも取り押さえるの、楽じゃないよ…」
 ドラコが引きつった笑顔で言ったが、言っている内容はとんでもないことだ。
 ドラゴンといえば、同位のモンスターの中では一二を争う巨体、魔力、怪力を秘めている。ドラコケンタウロスはドラゴンの雌であり人間の姿に近いとはいえ、その魔力と怪力は同じレベルで兼ね備えている。
 ドラコが取り押さえる自信がない『弟』を、魔法が使える人間というだけのアルルやウィッチ、この場にいるドラゴンより下位のモンスターたちに、どうこうできるわけがなかった。

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