筆者の思惑をよそに、彼の突然の訪問がありがたくないのは他の登場人物たちである。
最初に口を開いたのはルルーだった。
「…ミノの奴、何やってんのかしらね。遅すぎるわ」
「いくらミノちゃんでも、あんなに大量にジュースの買い出し頼まれたら時間かかるよ」
アルルがテーブルの上でせっせとお菓子を食い散らかしているカーバンクルをつまみ上げた。
「ほらカーくん、いい加減その辺にしときなさい」
アルルはカーバンクルを手に抱え、扉の方に向けた。
「ねぇカーくん?ビーム撃ってくれない?」
「ぐっぐー!」
「えぇ?面倒だって?ボクだってシェゾの相手なんて面倒だよ」
「き、貴様らなぁ…っ!」
ここまで自然に、かつ露骨に、存在を無視され、嫌悪されてはさすがのシェゾもたまったものではない。
「ふん、何の集まりか知らんが、俺の目当てはアルルだけだ!他の連中の邪魔はしな………」
ピッピロピロピロリ〜★
少々音程の外れた、ノーテンキな旋律が室内に響きわたった。
その場にいる全員が身を硬くした。
「お」とシェゾは声を漏らした。軍隊のデモンストレーションのような華麗な回れ右のターン、そして扉のノブをしっかりと握り、ぐっと自分の方に引き寄せる。
「おおおおっ…!」シェゾの語尾がつり上がった。シェゾはお手本のような行進スタイルで、扉の外へ一歩、二歩。
バタン、とシェゾが扉を閉めたところで、笛の音は途切れた。
「…どう?少しはぼくの笛の腕前も上達したでしょ」
笛から口を離したパノッティは得意気に言った。
ガチャ!
閉じた扉がまた開いた。
「ルルー様、こんなモンでいいッスか?」
逞しい腕いっぱい、紙パックや瓶を抱えてミノタウロスが入ってきた。
「あらお帰りミノタウロス、ご苦労様」
ルルーは労いの言葉をかけた。
「そ、そうねぇ、リサイタルもいいですけれど、まずは一服しませんこと?私、喉がカラカラですの…ハーピーさんも、ほら歌うんでしたら」
「そうですわねぇ〜、ウィッチさん、お気遣いありがとうございます〜」
そう言ってハーピーがグラスを手に取ったのを見、ほっと胸をなで下ろしたのはウィッチだけではなかった…。
「パノ君は何がいい?」アルルがグラスを手に取ってパノッティを見た。
「…姉ちゃん、ごまかそうったってムダだよ」
「い、嫌だな、何もそんな…」
「まぁいいや。オレンジジュースちょうだい」
飲物の分け合い、注ぎ合いが続く。
全員が飲物を手に取ったところで、アルルが、「乾杯しよう!」と言った。
猛然と拒否したのは他ならぬルルー本人。
「い、嫌よ!これ以上恥ずかしい真似しないで!」
「そうねぇ、『ルルー最後の十代に乾杯』ってのはどう?」
「ド、ドラコ…言ってくれるじゃないの!」
「ならそれでいこう。『ルルー、最後の十代に乾杯』!」
『乾杯!』全員の声が音頭の声に重なった。
ドラコは豪快にスポーツドリンクを飲み干し、口を拭うと、
「…ねぇ、誰が今乾杯の音頭取った?」と周りに訊いた。
「すけとうだらだろ?」パノッティが隣のすけとうだらを見上げて言った。
「違ぇよ。オレじゃねぇ。ミノ、テメェかと思ったぜ」
「い、いや…俺じゃない、俺がそんな…」
「でも男の人の声だったよねぇ?」
アルルが首を傾げると、
「…俺だ」と、アルルの隣に立っていた、シェゾが名乗りをあげた…。