「待ってろよアルルめ!この通販で買った『超高性能!楽々若返りマッシーン!』を使い、貴様の魔導力を今日こそは手に入れてみせる!」
―――何も説明書きを加えずとも、誰の科白かすぐ判ってしまう…という、このキャラクター性は貴重なものである。
何はともあれ、冒頭の科白の主、闇の魔導師シェゾ・ウィグィィは、ランドセルを背負う小学生の比に近い、大きな荷物を背に抱えてせっせと歩いていた。
現在、古代魔導学校在学中で寮生活中のルルーの部屋には、人間や魔物が数名、集められていた。
「ルルー、誕生日おめでとう!」
パンパン、と軽快な破裂音と共に、カラフルな紙テープがルルーの髪や肩にふりかかる。
「じゃ、『ハッピーバースディ』でも歌おうか!」
クラッカーの音頭を取ったアルルが言ったが、当のルルーは激しく首を振って、
「じょ、冗談じゃないわよ!今日の誕生日パーティーは、ただパパの仕送りの中に異常にお菓子が多かった、ってんで始末に困って、臨時で開いてるだけなのよ!…そうでもなきゃ、こんなガキっぽい真似が十九にもなって出来ますか!」
「なんでぇ?いいじゃない、別に」
「…気持ちだけありがたく頂いておくわ」
少々元気をなくしたアルルの肩(いつもその位置にいるカーバンクルは、背後のテーブルでお菓子を漁るのに余念がない)を、サタンファンクラブ会長のドラコがぽんと叩いた。
「ま、アルル。ルルーはアンタと違ってひねくれてるところあるから、気にしないで」
当然、ドラコの言葉はルルーの耳に筒抜けであった。
「…なんか引っかかる言い方ねぇ、ドラコ?」
「何よ。所詮臨時のパーティーなんだから、誕生日プレゼントなんかも要らないんでしょ?サタン様の生写真何枚か持ってきたけど」
「ドラコ、貴方こういう言葉知らない?『来る者は拒まず』」
「はいはい、そう来ると思いました」
ドラコは苦笑して、包装紙に丁寧に包まれた写真の束をルルーに渡した。
「ありがと。内容は?」
「んーっと、会誌に載せた奴の焼き増しもあるけど、半分近くは私のコレクション」
「いいわね、いつもお側にいられて!」
「まあまあ、もしかしたら今日本物来るかもしれないし」
「えぇっ!?」とルルーとアルルが同時に驚きの声を上げた。
「今日出てくるときに、どこ行くかって訊かれて、答えたら、『そうか、じゃ私も後で行こう』って…」
ルルーは頬を押さえた。既に当人に会っているかのような表情である。
「あら、ルルーさん、どうなされたの?」
クッキーを片手にウィッチが三人の方へと近付いてきた。
まだぼぅっとしているルルーの代わりにアルルが答える。
「サタンが来るかも知れないって聞いたら舞い上がっちゃって…」
「あらあら。そういえばこのパーティー、私いきなり来ましたけど、招待状とかは…?」
「何せ三日前に決めた急な話だったから、連絡がほとんど回らなくって…」
「そうですわね、ですから妙な連中まで来てるんですわ」
とウィッチが振り返った先には、カーバンクルの舌からお菓子を奪おうと躍起になっているすけとうだらとパノッティ、それをたしなめるハーピーがいた。
「ハーピーは私が誘ったんだけどね」とドラコ。
「彼女にパノッティが付いてきて、そんですけとうだらがパノッティに付いてきたらしいわ」
「まぁ、賑やかな方がいいですわよ。…ルルーさん?」
ウィッチはルルーの肩を揺すった。
「はっ…あ、あらウィッチじゃない、久しぶり」
「えぇ。はいこれ、プレゼント。大したものではないんですけれども」
ウィッチが差し出したのはリボンのかかった小さな箱。
「開けてもいいかしら?」
「どうぞ、お気に召さなかったら大変ですし」
ルルーが箱を開けると、紫の石のチョーカーが出てきた。石は小さいが、その紫の輝きはどことなく品があり、天然石のそれとルルーは容易に察した。
「アメジストかしら?」
「えぇ、誕生石でしょう?」
「いいの?こんなのもらっちゃって」
「お構いなく。…実を言うと、魔女って薬の調合の触媒に宝石の類を使うものですから、安く卸せるお店を知ってるんですのよ」
「おう、なんだなんだ」
巨大なペロペロキャンディー片手にすけとうだらが近付いてきた。
「アンタは関係ないの、食いモン漁りに来ただけの連中はあっち行ってな」
ドラコが手ですけとうだらを追い払った。
「…ふん、今日はお前の誕生日なんだってな」
すけとうだらは一冊の本をルルーに押し付けた。
タイトルは『ジャズダンス達人への道・上級』。
「…センスの悪いタイトルね」
「中身は保証するぜ」
すけとうだらの趣味と特技はダンスであることは周知の事実である。お世辞にも見目のいいとはいえない彼の踊りは、皆に気味悪がられているが、ルルーは、その本質を見抜いていた。
ルルー自身も、彼のものと同種のダンス…精神に関わる魔導、たとえば『ばよえ〜ん』や『スリープ』を、特殊な振りとステップでシミュレートする…を自己流で身につけていたからである。
すけとうだらもまた、ルルーの並ならぬ…自分と同じほどの才能を、彼女に認めていたからこその、プレゼントに違いなかった。
「ありがとう」ルルーは周りが呆気にとられるほど素直に礼を言った。
「それでは〜、私たちからも〜、プレゼントがぁ、あるんですけど…」
ハーピーがすけとうだらの背後から顔を出した。
「わ…私『たち』…って、ハーピー、まさか!」
ドラコの顔色がさぁっと変わった。
「へんっ、ぼくの笛とハーピーの歌が一緒に聴けるチャンスなんて、そうないんだからなっ!」
ハーピーの横に、ちょこんとパノッティが立っている。
魔力のこもった不思議な笛を吹き、その調子外れの音を聴いた者全てを操るパノッティ。
聴く者の精神を狂乱させる歌の歌い手ハーピー。
ましてや、この二人が組むとなれば…!
「それじゃ、いくぞー!」
「はい、パノッティさん♪」
「ま、待って下さいまし二人とも、早まらないでー!」
ウィッチが絶叫した、その時!
ガチャ!と部屋の扉が開き、ささやかなパーティーの会場に乱入者が!
「アルル、お前が欲しい!」
…このわかりやすいキャラクター性。細かい描写をしてられない筆者にとっては本当にありがたい人物であった。