日が西の森に沈みかける頃、私は梯子に足をかけた。
祭りはもうすぐ始まる。
少し、私も緊張してきた。
この緊張…、今まで出た、いくつかの武闘会の決勝戦で味わったものと同じ。
戦いに挑むんだわ、私。
今回の戦いは、…命もかかってる。
私が言い含めた村人たちは、私の言った通り動いてくれるにしても―――
やぐらに上がった私は、白い布が夕日で赤く染まっているのを見て、動揺してしまった。
(精神一統!)
私は目を閉じた。
特殊な呼吸法でもって、気を整える。
目を開くと、赤い夕日は、自分の浴びる返り血のように思われた。
私は指定された位置、やぐらの中央に来て、正座した。
再び目を閉じた。
空が、闇の帳をおろしたのが瞼の裏からもわかった。
―――宴は、始まった。
私の耳に流れてくる音楽は、今まで私が聞いたことのないものだった。曲調は優美なようで、メロディーは力強く、勇壮なもので。
下で土が踏みしめられる衝撃が、私の元にも伝わってきた。舞は、ステップは激しいものだ。だが、振りは水が流れるようになめらかな動きのものかもしれない。
私はただ、目を閉じて待っていた。
ミノタウロスが訪れる、その時を。
音楽も舞も長かった。
私は待ち続けた。
時は満ちた。
音楽と舞がぴたりと止まった。
私は目を開(あ)ぎ、天を仰いだ。
こうこうと輝く満月が、頭上にあった。
のしのしと、後ろの方から重い足音が幾多も重なって近付いてくる。
私は立ち上がった。下から、わらわらと散っていく村人が見えた。
(何も、考えてはいけない)
私が自我を働かせたのは、自我を抑えるためだった。
ばっと両手を開いた。全てを受け入れるかのように。
音を立てずに、すっと足を前に出す。
(1,2,3…)