『………………よ』
 名前を呼ばれて、はっとして立ち上がった。
『そなた、今年で百歳となったな…』
 言われて、最敬礼する。
『成人の式をせねばなぁ…ほれ、楽にしなさい』
 すっと頭を上げ、長老を見据えた。
『我ら一族は、魔王にも連なる血を継ぐ一族。人に敬われるために、強大な力を人に知らしめる必要があるのだ。
 恐怖をもって…それも手段だ』
『恐怖をもって…』
『そうだ。もう触れは出した。明日、満ちた月が真南に来た時刻に儀式を執り行う。しっかりやれよ』
 優しい孫にかける、特別のねぎらいの言葉。
 孫は黙って自分を見ている。その目は、自分の言葉には納得している様子ではなかった。
(人であれば、孫の優しさはなんら問題はない…。だが、我ら一族の、ゆくゆくは長を継ぐ立場にある者としては…)
 祖父と孫は、しばしの間、無言で対峙したままだった。

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