地方自治の現状と市民参画社会への展望

 

 

一厘の仕組(日本編)

森本 優(2005/11/17)


一、権力の分立(自由主義の観点から)

 

 日本国憲法では、人権保障のために、統治機構(国家組織のあり方と各機関への授権が問題となる)において権力の分立が図られています。

 一般に権力の分立とは、国民の権利・自由を守るため、国家の諸作用(権力)を立法・行政・司法に区別して、それぞれ異なる機関に分離・分担させ、相互間に抑制と均衡を保たせる制度を言います。

 それは、権力が一つの局に集中するか、若しくは形式上分離されている諸機関が癒着し合って権力が行使されると、国民の権利・自由が侵害されやすくなるからです。

 この権力の分立は、国レベルだけでなく、当然地方公共団体レベルでも配慮されています。

 すなわち、中央権力から市民の権利・自由を守るため、地方公共団体に団体自治が保障され(憲法92条)、地方公共団体内においても、議会と行政とは対立し合い(憲法93条2項参照)、それぞれ抑制と均衡が保たれるように憲法上配慮されているのです。

 しかし、現状はと言うと、公共サービスの過度な依存による行政の肥大化と、情報・知識の偏在による行政主導の議会運営とを引き起こしており、更には、政治家と役人とが馴れ合い一部市民と癒着して、政治の私物化の恐れさえ指摘されています。

 このような状態では、権力の分立は機能しにくくなっているため、その機能を回復するために、新たな装置の設置も必要となってくるでしょう。すなわち、行政のスリム化(行財政改革)を進め、議会権限を補強し、日常的な市民参画を保障する装置の設置が。

 そこで私は、議会と行政に対しては情報の提供・条例案の提言等で協働し、特に行政に対しては企画・実施・評価等に関する提言・答申・監視、情報の公開、説明請求、総合的調整等を分担して協働する、市民共同の常設協議機関(第3機関)の設置を提案したいと思います。

 そのような常設機関が自治基本条例上のものとなれば、行政作用もガラス張りになり、公平・透明な行政運営が確保されることになるはずだからです。

 

二、主権在民・代表民主制(民主主義の観点から)

 

 「住民自治」が充分満たされるためには、主権者たる個々の市民に、あらゆる段階において市政に参画する機会が保障されていなければならないと考えます。そのような機会が保障されていて初めて、実際に行われた政治が正当化されることになるのです。

 しかし、憲法上、市政に関して市民に認められている権利は、地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員に対する選挙権のみでしかありません。(憲法93条)

 確かに、地方自治法上では、条例の制定・改廃請求、議会の解散請求、議員・長・役員の解職請求の、各直接請求制度が備えられ、更に議会の解散請求、議員・長の解職請求には住民投票に付せられるべきことが規定されてはいます。

 しかし、これらの直接民主主義的な諸制度は、その行使の範囲が極めて狭く、また、一定割合以上の署名を求める等、その行使のハードルも極めて高いため、日常的な市民参画のための手段とは到底なりえません。

 したがって、大抵の市民にとっては、現在の制度の中で自らの意思を直接市政に反映できる機会は、4年毎の各選挙ということになり、その間は、好むと好まざるとに関わらず、ほとんど議員なり長に白紙委任してしまうことになるのです。

 その結果として、見えにくい所で、一部の政治家と一部の役人と一部の市民や業者とが互いに癒着し合って、利権を貪る土壌が生まれてくるのです。

 このような土壌を払拭するには、日常的に市民が政治に参画してゆけるシステム・装置を構築し、情報公開と説明責任を徹底させる必要があると考えます。すなわち、市民自らが地方公共団体の自治機構の一翼を主体的に担い、公平・透明な行政運営を推し進めるしかないのです。

 それは反面、市民自らが常に能動的に市政に参画し続けてゆかなければ、自らの権利・自由は守れないということをも意味しています。

 その意味で、市民参画社会の実現には、前述した権力分立の要請からくる第3機関の制度的保障だけでなく、市民自身の自覚と実践が常に求められてくることになるのです。

 しかし、実際問題として、そのような政治的ボランティアとして働く市民はごく一部に止まるでしょう。

 

三、行財政改革に関して

 

 そこで提案します。

 今、肥大化した行政をスリム化するために、行政が負ってきた公共サービスを一部民間に委託し出していますが、その委託を、多少なりとも市民参画社会を草の根レベルで担ってゆける事業体(NPO・LLP・LLC・ワーカーズコレクティブ・中小企業等々)を育成する形で、検討していってもらいたいと思います。

 すなわち、市政を、政治だけでなく、経済の側面からも市民が直接担うシステムを構築するようにご配慮願いたいのです。そうすれば、寄付金・補助金等に頼らない自立した市民団体と行政との協働関係が現実的・継続的なものとなり、日常生活レベルにまで浸透してゆくものと考えます。

 そうであれば、当然、市民共同の常設協議機関もまた、その土台を確かなものにしてゆくはずなのです。

 一方、経済活動に伴って生じがちな癒着関係は、情報公開と説明責任を徹底させることで解決できると考えます。

 

以上


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