甲府市自治基本条例市民案制定の私的総括

 

「つくる会」一般会員

田中美砂・前田美和・森本優)

 (2007/02/20)


「つくる会」で伝えたかったこと

H19.1.15  田中美砂

 

 皆さん、硬い内容ですが、どうか読んでください。

   

 甲府市が市民を公募して自治基本条例の市民案を策定中と知ったのは昨年2月のことでした。

 自治基本条例はこれからの市の「最高規範」、「憲法」とも言われ、私たちの未来に深く関わる条例です。どのような人たちがどのような議論をして、どのような条例をつくろうとしているのか、無関心ではいられませんでした。というのも、私にはかねがね今日の地方自治体に大きな不安があったからです。

 ご覧になった方もおられると思いますが、年が明けた1月4日、朝日新聞一面に[日米、有事計画を具体化]の見出しが踊りました。「朝鮮半島有事」と「日本周辺有事」を想定した日米共同作戦計画をいよいよ本格化しようというものです。

 ここ10年、日米新ガイドライン(新しい日米防衛協力の指針)に基づく日米軍事同盟の強化、日本の戦争国家化は急速に進められてきました。99年の周辺事態法を皮切りに自衛隊法の改定や一連の有事関連法の制定をもって、この国の有事法制の大枠はほぼ完成されたといえるのではないでしょうか。

 イラク戦争への自衛隊派兵は決定的な違憲行為と考えますが、防衛庁が「防衛省」に昇格した現在、「自衛隊の海外派遣は本来任務」との重大な改変まで行われつつあります。

 またこの有事法制では地方自治体から個人にまで、有事の際の国への協力義務が強権的に盛り込まれています。

 有事法制の成立過程では、この法制化が日本の「平和主義」を侵し、人々の基本的人権に抵触するとの多くの声が各界各層から上げられましたが、数の力で採択されてしまいました。

 ちなみに、地方議会の反対決議は認めないとの強硬姿勢で周辺事態法が国会に上程された99年、私たちはこれを「地方自治の危機」と考え、反対の意思を国政に届けようと地方議会(県議会や市議会)に働きかけましたが、残念ながら議員の皆さんには理解していただけませんでした。

 現在、「地方分権」が叫ばれる一方、住民投票で米軍基地に「NO」の意思を示した沖縄や岩国の現実にみられるように、防衛・軍事については国家の一元的な支配、中央集権化は一層強まっているのではないでしょうか。

 有事関連法の一つである国民保護法は地方自治体に国民保護計画の策定を義務づけ、総務省・消防庁のマニュアルに基づく素案づくりが既に全国(山梨県と甲府市でも)で着手されていますが、これがかつての「国家総動員法」にならない保障はありません。

 国権の発動たる戦争と武力の保持を禁じている日本国憲法に、なぜ「地方自治」が定められているのか。余りにも地方自治体の国権に対する無自覚、従順さに不安は募るばかりです。

 これからの地方自治体(地方政府)には、グローバル(地球的視野)とローカル(地域的現実)をしっかりと踏まえた「グローカル」な視点を持って問題に取り組んでほしい(環境問題も経済問題もボーダーレス)。

 公平・公正な政治や独自財源の確保、健全で斬新な地場産業の育成や環境の保全、農林業の再生等々、それぞれの地域の個性に応じて、持続可能な社会を模索し、国際感覚を備えた小さくとも自律した魅力ある地方都市をめざして奮闘していただきたい。

 そして何よりも、そのように地域が発展していくためにも、地方自治体として、反戦・平和への意思、戦争政策への非協力を明確に貫いてほしいと思います。

 「戦争のための国策には協力しない」「人々の良心と自由」のために、それを何らかの形で自治基本条例に担保したい、その一念から、私は「つくる会」に参加しました。

 私の思いが具体的な言葉となって条文になることはありませんでしたが、関わったことが全く無駄だったとは思いません。私の問題提起の幾分かでもどこか頭の片隅に止めていただけたらと考えています。

 かつて「一旦緩急あらば…」と教育され、日本の国民は戦争の駒になりました。アジアの国々の犠牲者も遺族も、たかだか60年前の事実を忘れはしないでしょう。再び戦争への道を許してはならないと思います。

 人々の活力とコモンセンスに溢れ、あくまでも平和を求め、国家の戦争政策に絡め取られない、確固とした豊かな自治の内実とは、いかにして獲得できるものなのでしょうか。その答えを今後も考え続けていきたいと思っています。

 追記) 自治基本条例第3章「市民の市政に参画する権利と責務」を定めた第6条1項=「市民は、年齢、性別、国籍等を問わず…」の逐条解説は、「年齢、性別、国籍等」とは、「年齢、性別、国籍、人種、性的指向、政治思想、民族、宗教、身体・精神障害の有無、社会的地位」と規定しています。日本を2001年9・11直後のアメリカのような社会にしたくないと願う私にとって、この規定の重要性は日増しに重みを増すように感じられます。 

 

 まだまだ書きたいことは山ほどあるのですが、スペースが限られているのでここでやめます。つくる会の皆さんの情熱に拍手! いろいろと勉強させていただきました。ありがとうございました。

 


甲府市自治基本条例市民案制定の私的総括

H19.2.15 森本 優

 

 

個人的な検証

 

 個人的立場から甲府市自治基本条例市民案の制定過程を検証したいと思います。

 

★ 2005年6月、市で自治基本条例制定のために会員を一般市民から公募し、40名弱の人が応募する。

 (後から徐々に明らかになったのだが、その内訳としては、自治会連合会から数名、商工会議所・青年会議所関係から数名、山梨学院大学の学生・卒業生等から十数名、新規合併地域(中道町)から数名、その他は、どちらかというと宗教団体やボランティア団体・組織等の立場で参加されている人が一人から数名ずつ、そして純粋に個人の立場で参加されている人は極少数で、これも数名程度であった。)

 

★ 同年7月から9月頃にかけて、甲府市自治基本条例をつくる会の「会則」と「基本ルール」を煮詰め作り上げる。

 (「つくる会」の「会則」と「基本ルール」を制定し、それらに基づいて「つくる会」を適正に運営することで、甲府市自治基本条例の市民案を適正な手続きの下で制定してゆきたいという願いがあったものと個人的には理解している。)

 以下、特に重要な項目を挙げる。

 

「会則」 

「16 全体会の会議の公開原則

(2)  1. 議事及び発言の要旨等を文章として記録し公開する。

   2. 公開にあたっては、何人のプライバシーに関わる情報の保護に十分配慮するとともに、発言者名については氏名まで公開するものとする。なお、記録内容については、全体会の承認を得た後に公開するものとする。」

 

「基本ルール」

「3 意見集約のルール

(1) 会議での合意形成は、出席者全員の一致を原則とする。ただし、迅速な決定が必要な場合や意見の統一が困難な場合は、出席者の3分の2以上の賛成でその結論とすることができる。なお、少数意見も尊重し、それを記録として残すものとする。」

 

★ 同年10月、一般市民が容易に参加できるような市民機関(自治推進・検証等を含む)の設置が提案される。

 この提案に対して多くの会員からの賛同が寄せられるが、12月頃から翌年の初頭にかけて、『個々の市民が直接参画して市政運営なりそのチェックなりをさせるような市民機関の設置は時期尚早である。』『「つくる会」ではなく制定研究会の先生方に市民案を作って貰いたい。』との意見が、ある会員から全体会で表明される。

 

★ 2006年5月、「市民案の素案」が作成される。 

 (当初、6月に市長に提出されるものとして市民案が検討されてきた。しかしこの市民案は、策定グループのみで検討され、しかも同グループ内の執行部数人のみで切り貼りされたものだとの反感を買ったため、これをもって市民案として市長に提出されることはなかった。この市民案は「市民案の素案」として、以降の全体会でのたたき案となる。)

 

★ 同年6月〜12月、市長への提出期限を半年ほど延長し、上記素案をたたき台にして、今度は全体会で検討し直すことになる。

 しかしそれ以降は、制定研究会と庁内職員とがその素案を参考に論点を挙げて修正案を作成し、全体会にかけてゆくことになる。

 (この半年間の傾向としては、先ず、制定研究会並びに市職員が、「組織法」という観点から、この自治基本条例を市民・議会・行政の役割分担のみを規定するものに「修正」している。そのため、それまでの公募会員の思い入れは余計なものとしてほとんどと言ってよいほど除かれてしまっている。

 このような強度の縛りの背景には、圧力団体等からの横槍が入っていたものと推測される。

 次に、前記記載のとおりの「会則」(公開原則)並びに「基本ルール」(意見集約ルール)が守られていない。

 すなわち、制定研究会・市職員の意向に沿った形で全体会が進められ、意見が対立している場合でも、全会員が「同意」したものと擬制されてしまうことが多々あった。また、少数意見も、「要旨」という形で削除されるか、会議録自体が欠落しているため、その結果として必然的に記録としては公開されてはいない。

 以上から、『これは「市民案」となってはいるが、到底市民案と言えるようなものではない。』との声が一部の会員の間で上がっているが、根拠の全く無いことではない。)

 

★ 同年12月末、「市民案」が市長に渡される。

 これをもって、「つくる会」は実質上解散となる。

 

個人的な感想

 

 恐らくこのような自治基本条例のままでは、特に一般の個々の市民にとっては、より重要な分野での市政運営に対する参画と協働は、依然としてハードルが高いままでしょう。また、市と民間団体・組織との「協働」(癒着関係)に対するチェックも及びにくいままでしょう。

 とすれば、市民を主体とした参画・協働時代の組織法としても、とても充分なものとは言えないはずです。

 特に心配なのは、今はやりの「協働」という美名の下に、本来独立した団体・組織であるべき民間団体や自治組織等が、実質上行政組織の手足となり(場合によっては行政組織が巨大団体等の手足となり)、有事においては、いとも簡単に体制翼賛的自治システムが全国レベルで隈なく敷かれてしまうかもしれないということです。

 そもそも、基本理念(市民の幸福・人権)を努めて不問に付し、役割分担のみを強調する意図は何なのでしょうか。如何に「協調関係」や「協力関係」といったレトリックを駆使して外観を装おうとも、時代背景から読み解けば、その真意も自ずと明らかになるはずです。

 ところで、ご自身若しくは自らが所属する団体なり組織なりが栄えさえすればそれで良いと考え、志操をかなぐり捨てて権力に擦り寄り、権力と取引をした者がこの「つくる会」の会員の中に万が一いたとしたら、それこそ一般市民に対する裏切り行為に他ならないのではないでしょうか。

 上に向かって堕落してゆく者達にとっては、見えない(見たくない)闇なのかも知れませんが、自治基本条例制定の一過程を終えてみて、改めてこの「協働」の裏に広がる深い闇を私は垣間見たような気がします。

 最後に、今回「つくる会」に参加させて頂いて、能天気な私にも多少なりとも内部の事情が分かるようになりました。

 だからこそ言えるのですが、検証も内々の行政評価で済ますのではなく、権力に媚びない一般市民の参加が絶対必要だと思います。そして甲府市自治基本条例の基本原則にもなっている「情報公開」もまた、そのような市民が市政運営に入り込んでいかないと、絵に描いた餅で終わらざるを得ないでしょう。不都合な真実は、大抵の場合闇の中に上手く隠され、そう容易く表に出るはずが無いからです。

 以上、問題点を指摘して終わりにします。

 皆様、ありがとうございました。また、本当にお疲れ様でした。


甲府市自治基本条例をつくる会会議録

「市民案」(甲府市HP)

 


前田美和さんの原稿は今月末頃に入る予定です。

お楽しみに!

 


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