天狗の沢〜羽後朝日岳〜部名垂沢下降編 |
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雨は降り続いていたが、奇跡的に濁流が収まった。山の集中豪雨は意外に短時間だったようだ。予定通り8時30分、天狗の沢の遡行を開始した。標高850m二又から羽後朝日岳1376mまで、標高差500m余り。ナメと小滝を越え、山頂を目指してひたすら歩く。 | |
滝の巻きルートは、足場が雨で崩れやすくなっていたため、時々ザイルで確保しながら登った。 | |
こうしたナメ滝は、シャワーを浴びながら快適に直登。目指す山は、雨に煙り何も見えなかった。それだけに目と勘による方向感覚は全く使えず、地図と磁石で確認する以外になかった。 | |
水がなくなる直前の源流二又で昼食。左の沢が歩きやすそうだったが、あえて右の沢へ。水が枯れた窪地を登ると、やがて猛烈な笹薮に突入。山は煙り山頂や稜線が全く見えず、疲れることこの上ない。左の写真は、薮こぎ30分でたまらず休憩しているところ。ここから10分ほどの薮こぎでお花畑に出た。
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猛烈な笹薮から雲上の花園へ | |
笹薮からお花畑へ出た瞬間・・・雨の中、最後の詰めで猛烈な薮こぎに喘いだだけに、このお花畑の草原に出た瞬間は、得も言われぬ開放感、感動が押し寄せてきた。終わってみれば、薮こぎもまた楽しからずやだ。しばし羽後朝日岳を見上げるも、濃いガスが流れて何も見えなかったのが残念。しかし、深い静寂と流れる濃霧に見え隠れする山並みを見ていると、原始の山・羽後朝日岳にふさわしい神秘的な景観だった。 | |
雲上の花園をゆく。ニッコウキスゲ、ハクサンイチゲ、ハクサンシャジン、タカネアオヤギソウなど数十種類もの花々が足の踏み場もないほど咲き乱れている。一面に広がる高山植物たち・・・堀内沢遡行起点から山頂までの高度差1200m。最後は悪天候に見舞われたが、全員無事に羽後朝日岳山頂に立つことができた。充実感、あるいは達成感と言おうか。岩魚釣りとは、また一味も二味も違う感激、感動を味わうことができた。 | |
お花畑の途中から稜線沿いの踏み跡に出る。上のなだらかな山頂が羽後朝日岳だ。羽後朝日モッコと名付けても何ら不思議でないような山だ。このなだらかな山容とは裏腹に、マンダノ沢、朝日沢、生保内川源流の谷は急峻で深く切れ込んでいる。 | |
羽後朝日岳1376mのピーク。右下の石碑には「昭和5年」と刻まれていた。羽後朝日岳は、堀内沢、朝日沢、生保内川など岩魚が遊ぶ大渓谷の分水嶺だ。それだけに山釣り師たちの憧れの山でもある。 | |
雲上の花園をデジタルビデオで撮る。手前の白い花はハクサンイチゲ、奥の黄色の花はニッコウキスゲ。この二種の大群落は見事だった。 | |
ミヤマシシウド・・・雲海が流れる花園に一際大きく目立つ花だ。高さは0.5〜1.5mにも達し、蜂や小さな虫たちが大型の花に甘い蜜を求めて群がっていた。 | |
ハクサンイチゲ・・・積雪の多い日本海側では特に大きな群落をつくることで有名な高山植物。羽後朝日岳では、雪が解けた後、比較的乾燥しがちな草原に大きな群落を形成していた。 | |
チシマフウロ・・・北海道、東北の亜高山帯〜高山帯の広葉草原に生える。花は淡い紅紫色で実に美しい。羽後朝日岳では、特に大きな群落は見られず、踏み跡沿いにポツン、ポツンと散見できる程度だった。葉の形がニリンソウやトリカブトの葉に似ているのが印象的だ。 | |
トウゲブキ・・・葉はフキの葉のように丸く大きい。黄色の花も一際でかく、ニッコウキスゲの大群落の中でも特に印象に残る花の一つだ。 | |
ハクサンシャジン・・・山野に生えるツリガネニンジンの高山型。花は淡い紫色で、鐘形の花を数個づつ輪生するため、一見2〜3段の花輪をつけたように見える。白花は、シロバナハクサンシャジンという。 | |
ミヤマウスユキソウ・・・東北地方の秋田駒ケ岳、鳥海山、朝日・飯豊山地などの山頂付近の乾いた草地に生える特産種。 | |
ハクサンシャクナゲ・・・一般に針葉高木林帯からハイマツ帯にかけて生えるが、羽後朝日岳では、北側の斜面にハイマツと混生していた。 | |
エゾミソガワソウ | シロバナエゾミソガワソウ |
ニッコウキスゲ・・・夏の高原を彩る花の代表で、羽後朝日岳でも最も大きな群落を形成していた。雪田周辺の広葉草原に群がって生え「黄色のジュータン」などと形容されている。特に日本海側の多雪地域に優勢。花の最盛期はやや過ぎたようで、一番花は既に枯れていたのが残念だった。 | |
羽後朝日岳の山頂から部名垂沢の下降地点まで明瞭な踏み跡がある。所々に不明瞭な踏み跡もあるが、一般的な登山コースとなっている部名垂沢へ行く踏み跡が明瞭で迷うようなことはなかった。 | |
稜線に出ても天候が悪ければ、どこを歩いているのかさっぱり分からない。ただ山全体が高山植物に彩られ美しいのが救いだった。 | |
百花騒乱の散歩道・・・高山植物が咲き乱れる斜面に明瞭な踏み跡がついている。ちょっとレンズを向けて遊んでいると、濃霧で仲間の姿もあっと言う間に見えなくなった。 | |
ハイマツ |
タカネアオヤギソウ |
ヤマルリトラノオ |
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正面に聳える山が志度内畚(1290m)。右側が生保内川源流部。 | |
左が部名垂沢源流、右が生保内川源流の稜線をゆく。まもなく部名垂沢下降点の目印・赤いテープがある。 | |
下降点から部名垂沢源流部を望む。奥に夏瀬ダム湖と新しい堰堤が見えた。下りとは言え、標高差1000mを一気に下降しなければならない。それも道なき道の沢下りだ。 | |
下降点の稜線から生保内川源流部を望む。奥左の山がモッコ岳(1278m)。なだらかな斜面が続く生保内川源流を俯瞰していると、生保内川コースで羽後朝日岳に登るのもおもしろそうだ。堀内沢コースよりは、かなり楽に見えるが・・・果たしてどうだろうか。
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標高差1000m・部名垂沢下降 | |
部名垂沢左の沢を下降。急峻な沢に加え、赤茶けたガレの連続で非常に歩きにくい沢だ。滝の難所には、全てロープがあり問題ないが、景観は決していいとは言い難い。 | |
部名垂沢の二又。下降してきた沢は左の沢だが、間違って右の沢を下れば、難所の連続のようだ。 | |
二又から右の沢を望む。両岸絶壁の滝が連続している。一般的な登山ルートにはなっていないので、この沢を下降するとなれば、ザイルと高度な技術が要求されるだろう。 | |
残雪から雪煙が舞い上がっていた。下りは、羽後朝日岳山頂から4時間余りもかかった。天狗の沢8時30分に出発し、部名垂沢の車止めに着いたのは午後6時30分。亀のようにノロイパーティとは言え10時間に及んだ。あっちこっち道草ばかりの山旅だから、私たちの遡行タイムは全く参考にならないのであしからず。
今回のコース 堀内沢車止め200m--400m二又下流・お助け小屋C1--マンダノ沢遡行--蛇体淵800m --天狗の沢出合850mC2--龍又の沢・天狗の沢探索--天狗の沢遡行--羽後朝日岳1376m --部名垂沢下降--車止め360m |