「空海」創作ノート3

2004年11月

11月 9月10月


11/01
いい天気になった。浜名湖の湖岸を軽くドライブ。三ヶ日での運転は気分がいい。全体を12章にすることに決定。熱的死という概念を考えたボルツマンを加えたかったが、マックスウェルの章の中で語ることができるので、あと一人、大物が探さないといけない。結局、アインシュタインを最終章に入れることにした。この本は19世紀までと考えていたのだが、それでは最終章が盛り上がらない。いつか続編を書きたいとも考えていたのだが、これ一冊ですべてがわかる本にしたいので、この最後の章で20世紀について語ることにした。アボガドロの章を仕上げて、次はメンデレーエフ。これも一気に書き終えた。

11/02
生物学についてここまで何も語っていなかったので、10章はメンデル。ダーウィンではなくメンデルを主役にしたのは、同時代に認められなかった人物を入れたいから。キャベンディッシュ、アボガドロ、そしてメンデル。12人の中に3人もその種の人物がいるのは、この本の特色といってもいい。もしかしたら、自分のことを世に認められない作家と考えているのかもしれない。しかしこういう発送は、多くの読者に支持されると思う。多くの人が、自分は不遇だと考えているだろうから。義父母をつれてジャスコ志都呂店に行ったので、本日はメンデルの前ふりとしてダーウィンの説明をしただけにとどまった。志都呂店の大きな本屋にあった面陳の「犬との別れ」を1冊買う。せっかく面陳になっているのに1冊も売れずに片づけられたのではリュウちゃんが可哀相だ。この本は大工さんに進呈することにした。

11/03
祭日。別荘地内を散歩。あとは仕事。自分の仕事に集中できるのはありがたい。メンデル完了。あとはマックスウェルだ。最終章のアインシュタインはおまけみたいなもので、これは『アインシュタインの謎を解く』で書いたテーマだから、何を書くべきかはわかっている。問題はマックスウェルだ。この人物はいろんなことをしているのだが、これぞ、というものを打ち出すのが難しい。少し時間がかかるかもしれない。三ヶ日で仕事ができるのはあと1日。それで完成させるのは難しいが、週末も雑用はないので、そこで一気に仕上げてしまいたい。

11/04
義父母が帰る。急に静かになる。妻と都田テクノのカインズホームへ行く。いろいろなものを買う。自分で運転したので面白かったが、帰りは日が暮れたので少し疲れた。マックスウェルの章、半分くらい。エントロピーという説明しにくい概念を短くまとめたのだが、これで読者に伝わるか。文庫本一冊に科学のすべてのエッセンスをこめようという壮大な試みである。ここまではうまくいっていると思っていのだが。

11/05
三ヶ日を出発。まっすぐ帰るのも面白くないので、海岸沿いをタダの道だけで進む。御前崎の灯台は昔通ったことがあったが、大崩海岸を通るのは初めて。本当に崩れているところがあるので驚いた。富士山の北のおばさんの別荘にミカンとカキを届けた。富士山はもう紅葉の真っ盛りだった。

11/06
リビングのミラーガラスの前に時々四十雀が来てガラスに体当たりをするのだが、今日はウグイスが来た。三軒茶屋まで散歩。昨日のドライブの疲れが少し出た。昨日はエントロピー増大の法則について書いたのだが、少し話が難しすぎる。もっとわかりやすく語れるくふうはないかとずっと考えている。最終章は相対性理論だが、大丈夫か。

11/07
日曜。自宅の外壁の下に大きな穴があいていることが、半月ほど前に判明した。雨が多いので穴ができて、土砂が流されたのかもしれない。全体はコンクリートの家なので壊れることはないだろうが、穴があるのは気持ちがわるいので、三ヶ日の仕事場に行った時に、カインズホーム都田テクノ店で砂利と砂1袋ずつ購入して、昨日、穴に入れてみた。棒でつつきながら入れると、穴は思いのほか深く、砂が不足した。そこで本日はジャスコ南砂店の隣のドイトに行って砂4袋購入した。結局、2袋半の砂を入れて、ようやく穴は埋まった。もっと本気でつっつけば、さらに深い穴があいたのかもしれないが、キリがない。穴埋め作業で意外に時間をとられた。遺伝子とエントロピーの説明が少し固いと感じられたので、読み返して修正を加えることにした。こういう作業は時間をとられるのだが、仕方がない。まだ「空海」にとりかかれないが、気分は充実している。最終章のアインシュタインを書き終えたら、一気に空海に進みたい。アインシュタインと空海というのは、どこかつながるところがあるのかもしれない。天才であることは間違いないが、世界の認識の仕方の独自性という点でもすごい人物だと思う。アインシュタインを語り、空海を語るというのは、自分(三田誠広)を語るということでもある。自分なりの世界認識を語るために、本を書くという作業を続けているのだろうと思う。

11/08
月曜。ウィークデーで世の中は動いているようだが、こちらは休み。進化論について考えている。DNAについて、反エントロピーについて、情報について、自分の宇宙観をすべてこの一冊に注ぎ込むという感じで書いているのだが、つめこみすぎると難解になる。少しゆったりとしたペースで考えを進めたい。三軒茶屋まで散歩。

11/09
軽井沢へ行く。いつも夏に友人の別荘へ行くのだが、今年はスケジュールが合わなかったので、秋に会うことになった。天気がいいので蓼科を通っていく。紅葉が見事。

11/10
友人夫妻と旧軽銀座の先の見晴台までバスで行き、歩いて戻る。モミジが鮮やか。

11/11
三宿に戻る。文化庁。その後、公衆送信についての打ち合わせがあって話が長引いた。世田谷文学館の真文学賞の選考が近づいているので、最終候補10編を読む。よいものがいくつかあった。

11/12
図書館との協議会。茅場町の図書館会館に行くのも久しぶり。

11/13
土曜日。池尻のあたりを散歩。「大発見」はマツクスウェルの章でやや難航している。哲学書みたいなものになりつつあるので、何とか修復したい。

11/14
日曜日。妻と下北沢まで散歩。軽井沢はモミジが鮮やかだったが、北沢川のあたりはまだまだである。雑用一件。「大発見」メンデルの章とマックスウェルの章の書き直しに取り組んできたが、ようやく終わる。あとはアインシュタインの章でしめくくればおしまいだ。

11/15
文藝家協会理事会。理事会の承認を得ないといけない案件が4つもあって、説明だけで疲れた。わたしがしゃべっている間に他の理事は食事を終えてしまうのである。話を終えてから一人で弁当を食べる。いつものことだが。「大発見」あと1章となったので、担当編集者に来週渡す約束をした。締切を決めておかないとずるずると長引くおそれがある。この数日でアインシュタインがまとまるか。すでにアインシュタインについては本を1冊出しているので大丈夫だとは思うが、わたしの脳のキャパシティーは限られているので、著作権問題と団塊老人問題だけでいっぱいになっている。少ないメモリーをやりくりして物理学について考えている。早くこの仕事を片づけないと、「空海」が入る余地がない。

11/16
著作権情報センターの理事会。著作権情報センターと文藝著作権センターとは名称がまぎらわしい。わたしが創ったNPOの方が新しいので文句はいえない。著作権情報センターは歴史がある。音楽とビデオ業界からの支援があるので予算規模も大きい。文芸家は何の貢献もしていないのだが、口先だけで参加している。その後、衆議院議員辻恵さんのパーティーで講演。前座である。辻くんは高校の同期である。教育関連の交渉でもお世話になっているので、とにかく前座を務めた。団塊老人問題について話した後、著作権問題のアピールもしたので有意義であった。

11/17
初台の国立中劇場でオニールの『喪服の似合うエレクトラ』を観劇。4時間もの長丁場で、オープニングからテンションが最高になる芝居で、見ているだけで疲れた。大竹しのぶ、三田和代さん、熱演であった。疲れたので今日は早く寝る。昨日のぶんの誤植の通報あり。ご指摘、ありがとうございました。

11/18
中野サンプラザで矯正協会の選考対談。選考はすでに終わっていて、一次選考を担当された島田和子さんと感想を話すだけなので、なごやかに対談できた。集英社のパーティーに行く予定だったが、終わり際に会場に行くと、そのまま二次会に行ってしまいそうなので、パスすることにした。「大発見」の最終章がエンディング直前になっている。どういうふうに終わるかは大切で、締切も迫っているので、時間が貴重である。

11/19
世田谷文学館にて世田谷文学賞小説部門の選考。青山光二さんが風邪のため欠席。一人での選考となったが、青山さんからの順位のメモが届いていたので、こちらの予定とつきあわせて、妥当な線で結論を出した。芦花公園の文学館までは妻の運転で行ったのだが、思いの他、早く決まったので、車で待っていてもらえばよかったと思った。下高井戸で降りて世田谷線に乗った。おなじみの三軒茶屋に少しずつ近づいていくのが面白い。「大発見」アインシュタインの章を最初から読み返す。相対性理論の説明は難しい。正確に説明しょうとすると話が長くなるので、軽く話をとばそうと思う。
深夜、というか明け方、草稿完成。実に長くかかったが雑用が多かったので仕方がない。内容は充実している。ただし読者にわかるかどうか。この本は単なる物理学の解説書ではない。三田誠広の世界観を描いている。こんな世界観をもっている人は、他にいないのではないかというような世界観で、この本を読めば「世界とは何か」ということがわかるようになっている。もちろん、薔薇の好きな人には薔薇の世界があるだろうし、陶磁器の好きな人には陶磁器の世界があるだろう。物理学の好きな三田誠広が物理学の世界を描いたというだけかもしれないが、物理学は哲学に通じる。書き始めた時は、こんなすごい本になるとは思わなかったが、自分が生きて考えたあかしがここにあるという気がする。とにかく、これで次へ進める。

11/20
土曜日。起きると大学の同級生の訃報が届いていた。詩を書いていた美青年だった。関西在住で葬儀には行けないので弔電を打つ。気分が沈み込んでいるが、コーラスの練習に参加。少し酒を飲み過ぎた。

11/21
日曜日。宿酔。酒を飲み過ぎると早く目が覚めてしまう。妻の運転でつくばへ行く。次男が来ることになっていたのだが、嫁さんが親不知を抜いたとのことで、こちらから行くことにした。といっても若者たちは昼まで寝ているだろうから、まず科学万博跡地の公園に行ってみる。次男の勤め先のすぐ近く。思いがけずジャーマン・シェパードのコンクールをやっていた面白かった。20年前、ここで科学万博があった。わたしはまだ八王子に住んでいた。小学生の息子たちをつれて日帰りでつくばまで走ったことを思い出す。その跡地の企業団地に次男の勤め先がある。人生は思いがけないことの連続である。いまこうして自分たちが万博公園にいて、なぜかジャーマン・シェパードを眺めているというのも、奇妙なめぐりあわせだ。次男の住居の近くまで行ったがまだ早すぎるのでユニクロなどに行き、ここにも大きな公園があるので散歩し、ようやく次男のところへ行く。中華料理を食べに行く。若夫婦の食欲に圧倒される。宿酔だったが、生ビールを飲むと元気になった。

11/22
「犬との別れ」増刷決定。「団塊老人」は4刷。「ユダの謎、イエスの謎」も増刷が決まったので、これで3連勝だ。編集者と営業の人の努力で、本が読者のもとに届いたことを感謝したい。「犬との別れ」は私小説なのだけれど、とりあえず表紙にリュウちゃんの写真が出ているので、リュウちゃんの顔で売れているのではないかと思う。編集者と、リュウちゃんに感謝したい。ところでこの本を編集した中村くんは、「天気の好い日は小説を書こう」を出した時の朝日ソノラマの編集者で、一年間大学に通って講義を録音してくれたことで、とても親しい編集者になって、このノートで実名で出てくるのは中村くんだけなのだが、彼はその後、角川書店、幻冬舎、角川春樹事務所と、角川系3社を渡り歩いて、バジリコに入ったのだけれども、今度の本を出した途端に辞めてしまった。ともあれ増刷を喜びたいが、中村くんの今後も気にかかるところである。
PHPの編集者来訪。「大発見」(仮題)の原稿を渡す。この企画はわたしの方から持ち込んだのだが、売れるかどうかはわからないし、タイトルや構成についても、編集者のアドバイスで修正が必要かもしれない。しかし今回の本は、内容に関してはベストを尽くした。この本一冊読むだけで、科学の歴史が全部わかるだけでなく、宇宙とは何か、人間とは何かということまでわかるようになっている。その意味ではすごい本で、これが文庫サイズの本で発売されるというのは、ある意味では奇跡的だと思う。この本を多くの若者に読んでほしい。

11/23
勤労感謝の日。子供もいないので誰も勤労を感謝してくれないが、自分でも勤労しているという感じはしない。やりたいことをやっているだけで、仕事をしなければヒマでしようがない。本日は三軒茶屋まで散歩。部屋の掃除をする。会議の書類などを大量に廃棄する。「大発見」が終わったので物理学関係の資料を片づけ、仏教と歴史に入れ替える。さて、「空海」である。冒頭部はさりげない説明から始める。少年の空海が登場する。真魚という名である。母は玉依姫と伝えられているがこれはウソだろう。というか、神武天皇のお母さんの名前だ。ただ神武天皇の母も祖母もワニであったと伝えられているので、このワニ(鰐鮫)というのは海の民のシンボルだと思われる。桓武天皇の母は百済人と出雲族の混血であるが、ヤマト人とは異なる民族の血が入るということは、空海のような英雄にふさわしい設定なのでこれを利用することとする。父方はエゾの末裔である。エゾ征伐をした武人の末というのはウソだろう。エゾとワニの子が英雄となるというのは、説得力がある。

11/24
今日はウィークデーだが何も予定が入っていない。このところ多忙なので、何もないというのはかえって気持ちがわるい。とにかく三軒茶屋へ散歩。「空海」は順調にすべりだしたが、本日は短い原稿を片づけることにした。4本あって、内容がそれぞれ違うので疲れる。

11/25
飯田橋の私学財団にて私学関係者と協議。来月に調印式をやる。その後、九段下で祥伝社の担当者と飲む。『ユダの謎』の第2版できる。出版不況の中で、『団塊老人』に続いて増刷が出たことは喜ばしい。『犬との別れ』も増刷することになっている。気持ちよく飲めた。

11/26
予備校との協議。予備校側からの提案。やや複雑なシステムだが、補償金を払いたいという意欲は伝わってきた。ありがたいことである。妻と新宿で待ち合わせて出発。出発地点が新宿だったので中央回りで三ヶ日に向かう。紅葉を見ながら河口湖から富士山の裏を回って富士インターへ。まだ薄暮のうちに仕事場に着く。

11/27
土曜日。仕事場で仕事に集中したいところだが、せっかくだから知人の大工さんのミカン畑でミカンをとる。自分の食べるぶんだけとるつもりだったが、大工さんが一人で作業をしているので、結局、夕方まで手伝うことになった。大工さんというのは、この仕事場を建ててくれた人で、いまも雨漏りを修繕してもらっているし、庭の草も刈ってくれる。ミカン農家の長男で、お父さんがリタイアしたので、土日に摘み取りの作業をしなければならない。なかなか大変である。

11/28
日曜大工道具の店とスーパーへ行った帰り、ピザ屋で昼食。ピザ、スパゲティー、サラダ、飲み物、ケーキがついて2人で2500円。あとは仕事。「空海」じわじわと動き始めている。空海の生涯はかなり長い。出だしのテンポが遅いと大長編になってしまう。しかし少年時代は重要である。テンポを保ちながらも要所は押さえないといけない。とくに少年空海が見る風景と、母の姿。京に出てからは伊予親王との交流と、仏教との最初の出会い。これをきっちりと押さえてから、中国に渡ることになる。三ヶ日の仕事場では早朝に起きる。犬がいた頃からの習慣である。一日が長い。たっぷり仕事ができる。三宿ではこういうわけにはいかない。

11/29
大工さんが土曜日のみかん摘みの労力提供の御礼だといって、バイキングの店につれていってくれた。ランチタイムは998円。ただしビールは別。大ジョッキ490円、これは自分で払った。

11/30
「空海」ようやく進み始めた。少年時代のエピソードとして何が必要かがわかってきた。儒教、仏教、郷土について少年がどのようなファーストインプレッションをもったかということと、父、母のキャラクター。兄については割愛するか。書きながら考える。
11月も終わった。ようやく創作ノートのタイトルどおり「空海」をスタートさせることができた。いつ完成するか、いまのところまったくわからないが、時間をかければ完成するという手応えはある。


次の創作ノート(12月)へ進む。
9月 10月


ホームページに戻る