コラム・61 小正月
    
1月15日の行事のことを小正月、女正月、それに花正月ともいうようですね。
ボクの行きつけだった餅屋兼うどん屋が1月になると、木の枝に餅を刺して餅花とかいうものを店に飾るんです。関西育ちのボクには物珍しいものですから、或る年「これ、なに?」と訊いてしまいました。店の女主人は、「あんた、何にもしらへんのやね」とばかりに、だだ一言「もちばな!」と言いましてね、ボクは無知を恥じまして、手元の百科辞典をばらばら程度に調べて、ああそんなことか、とわかったような気になりました。
暇ができた今になって、すこし念入りに調べる気になりましてね。
      
15日の小正月が花正月といわれるのは、14日にヌルデや、楊(やなぎ)の木を切ってきて、木の幹を削って小さな花形をつくり、「粟穂稗穂(あわほひえほ)」、「稲の花」といって飾るらしい。
イチイの枝に餅や団子を刺して座敷に立てて、豊作を祈るのは「物作り」というらしい。ええ、餅屋の女主人が言ったように、餅花ともいうそうですね。
  
どうして、15日が正月かというと、陰暦でしょうね。陰暦は月の満ち欠けの暦ですが、新月から始まって満月は15日。陰暦は、そのうえに、一日が日没から始まるんですね。
ええ、正月もね。だから、「年越し蕎麦」は大晦日の日没に食べるのが旧暦風。いやー、今の暦での大晦日に除夜の鐘を聞きながら、インスタント・ラーメンを食べるのもわるくないですがね。
陰暦では満月の日が朔日(ついたち)ですから、月が満ちるのを見ていれば、後何日で正月かがわかります。正月のゴチソウには手のかかる糯米(もちごめ)搗きを始めなければなりませんでした。竪杵(たてきね)で脱穀するのは数日かかったそうですからね。
今のボクらからすると、ゴチソウといえば肉、魚ですが、農耕時代でのハレの日のゴチソウは手間のかかるもの。手間の掛かるゴチソウは家刀自(いえとじ)のおしゃもじ権の象徴ですから女正月といったらしい。ええ、家刀自が家族中の女を指揮しての作業ですからね。
      
今でも、1月15日には小豆粥(あずきがゆ)をたきますね。
あれは粥(かゆ)で占(うらない)をしていた粥占(かゆうら)神事がル−ツだそうですね。
占(うらない)は日本の原始では女性の専門とするところ。だから、家刀自(いえとじ)のおしゃもじ権の象徴。だから、どんなに小豆粥(あずきがゆ)がキライでも、ありがたく戴かなければならないものらしい。
だから、7日に七草がゆ、15日に小豆粥を食べるのは、おせち料理の飽食ほどきの行事ではないらしいですよ。
横浜市の熊野神社の筒粥(つつがゆ)神事は天暦3年(949年)から千年間以上絶えたことのない古神事で、無形民俗文化財に指定されているらしいですね。
これでは、小豆粥(あずきがゆ)はイヤと逃げるわけにはいきませんね。
実は、ボク、小豆粥苦手なんですがね。