コラム・5
    
ご飯の話
先日、知人が新米を送ってくれましてね。新米だと水をひかえめにして炊くものだと教えられてきましたから、そうするとかたいんですよ。
この知人は農家ですから、自家用の新米を送ってくれたんですね。農家は自家用米はとことん乾燥させるそうですね。ええ、稲架(いなかけ)で天日乾燥までしなくても、目方で取引される売用より乾燥させるんですね。常温で保存する自家用米は翌年の梅雨を越しても食べなければなりませんからね。
さすがに、この米は、美味いんですよ。ええ、懐かしい銀シャリの味。
ところが、送ってくれた米は精白してありまして、1週間もすると極端に味が落ちましてね。ボクのところでは炊飯するたびに、その都度精白しますので、精白後日々味が落ちるのがわかるんですわ。
せっかく送ってくれたものですが、日にちがすぎるたびに米を研ぐのを念入りにして最後までいただきましたがね。
精白したばかりの米は研ぐ必要はないんですよ。精白後、数日すると米粒の表面にカビが発生します。こうなるとテレビの料理の先生の言うように「力をいれて、ゴシゴシと研ぐ」必要があります。米を研ぐ話のついでに、何故研ぐ必要があるのか、「数千円で精白機がある」って、紹介すべきだと思うけどなぁ。でも、料理の専門家でも「米の表面にカビが発生する」なんて知らない人が多いみたいですよ。
昔、日本酒の醸造所への見学して、「酒醸造は造る直前にしか精白しない」との説明のついでに、参考のために、わざわざ前日に精白した米を顕微鏡で覗くことがありましてね。
参加した料理家も栄養士さんも、「米にカビが生えるなんて知らなかった」っていましたねぇ。
   
米が青黴(かび)ることは、昔からいってきました。
ええ、戦前に育った世代は知っているんですが、「貧乏人ほど美味い米を食う」って言いかたがありまして。貧乏人は蓄えがなく、その日その日の分だけ米屋で買うんです。
貧乏人は買い置きできないので、その日に食べる分5合(750グラム)だけ買うことになりますね。
昔の米屋は。店頭で精白しながら表の米箱に拡げて荒熱をとりながら売っておりました。裕福な家は恰好をつけて、纏めて米屋に配達させましてね。1斗(15キロ)も配達させるものですから、金持ちは青黴(かび)のわきかけた米を食べることになります。だから、「貧乏人ほどウマい米を食う」って言っていたんでしょうねぇ。
  
精白といえば、こんなことがありました。秋に近江に旅行しましてね。近江は近州米(ごうしゅうまい)と言って関西では有名な米の産地なんです。でまあ、売店の「新米発売」の幟につられて入ってみました。売っている米には玄米はなく精白したものだけが売られていましたが、まあ、旅のよすがと思って、見つけた一番ちいさな5キロの袋をしらべたんですが、「精米日は欄外に記載」とかいてあるだけで「欄外に記載」精米日が見つからないもんで、「精米日は、どこにかいてあるの?」って尋ねますと、いきなり「ああ、書いていませんねぇ。よく売れていますから新しいですよ」って返事が返ってきましたね。
あんな、米の本場でも精米してからの日数には無関心なんですね。これは消費者が無関心ってことでしょうねぇ。
みんな、パンやパスタのことは詳しいのに、ご飯は無関心になっているみたい。
ああ、そうそう、今は精白と言わないで精米って言うようですね。玄米を搗いて白米にすることをね。