イソップの宙返り・234
     
キツネと針鼠
イソップがサモス島で、私腹を肥やした罪で死罪に問われた民衆指導者を弁護して、こんな話をした。
「キツネが川を渡ろうとして、押し流されて窪みにはまった。抜け出せずに長い間苦しんでいると、ダニが夥しく取りついた。針鼠がこれを見て哀れに思い『ダニを取り除いてやうろか』と尋ねた。
キツネは『やめてくれ』と言うので、その訳を訊くと、こう答えた。
『こいつらはもう俺の血で腹が一杯になっている。これ以上吸ってもあと僅かだ。もしこれを取り除くと別の腹を空かせたヤツらがやって来て、また吸うだろう』と」。
そしてイソップが言うには、
「というわけで、サモスの人達よ、この男はもうカネを貯め込んだので、君たちを搾ることはない。しかしこれを殺すと、他のカネのないのがやってきて、公金を盗み使い尽くすだろう」
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変な理屈ですねぇ。ええ、詭弁。
ダニの欲望は腹が一杯になればおさまるものでしょうが、人間の欲望は際限がないでしょう?
イソップは小アジアのプリュギアの人らしいけど、汚職に対して寛大であったようですね。
小アジアは広い意味のラテン系の国ですが、ラテン系の国では、今でも汚職が堂々と行われているようですね。
ええ、ラテン系の国といえば中南米諸国。
中南米諸国では大統領が私腹を肥やした話が出てきますね。それも膨大なのがね。
そんな汚い人間を指導者にするのも不思議な国民ですよね。
         
でも、汚い人間を指導者にした不思議な国民って言うと日本人もですよね。
1972年に首相になった田中角栄は炭鉱国管疑獄、造船疑獄で札付きのワルでした。でも、彼が首相になったときには「いま太閤」って新聞も世論も礼賛しました。
マスコミは彼が庭の池で一匹数百万円もする錦鯉にエサをやっている姿の写真を掲げて、礼賛しました。ええ、金満家趣味をね。
1972年には「日本列島改造論」を唱道して(第一次)不動産ブームを巻き起こしました。ところが、実体の裏付けのないブームですから、翌年には経済は破綻、狂乱物価を招きました。
74年には「金脈問題」がばれて内閣総辞職にいたり76年にはロッキード事件で逮捕され、懲役4年・追徴金5億円の一審判決を受けました。
それでも、田中角栄派は党内最大派閥でして、「目白の闇(やみ)将軍」として政界に強い影響力がありました。
田中角栄派は今でも政界に隠然たる勢力がありますね。
       
それに不思議なのは、今でも田中角栄を賛美する人達がいることですね。
別に「列島改造」ブームで巨利を得た人とも思えないのに、経済が不振になると「もう一度角栄ブームがきませんかね?」とか「角栄さんに復活してもらわんと、どうにもなりませんねぇ」なんて声が聞こえてきます。
私腹を肥やす汚い人間を指導者にする不思議な国民はラテン系の中南米諸国とはかぎらないみたいですね。
日本人の中には汚職に対して寛大なプリュギア人の血を引いている人がいるらしい。