イソップの宙返り・232
    
壁と杭
杭によって力まかせに割られそうになった壁が、
「何もしていないのに、どうしてボクを割るのだ?」と叫ぶと、杭は答えました。
「悪いのは俺じゃあない。後ろから俺をガンガン叩く奴だ」
☆     ☆
橋梁工事の談合が、露呈しましたね。建設業での談合は恒常的なように思ってきました。ええ、談合が長い歴史のようにね。
あれ、ばれると、「悪いヤツは担当の部長だけだ」ってことになりますね。
社長なんて「監督不行届で、遺憾です」なんて他人事のように弁解しますね。
世間では「担当の部長だけが悪いヤツ」だったなんて思わないですよね?
ええ、「担当の部長は運の悪い人」だとみんな思っていますよ。
     
人事異動で「今度は、談合会担当の部長に栄転」なんて言われると、名義は如何にしろ、「うまく談合して会社の利益を確保する係だ」とわかりますよ。
「ボクは談合係なんてイヤだ」と断ったら、もう会社にはおれないですもんね。
やめないで、それでも会社にしがみついたら、とてつもない僻地に左遷ですよ。
今から子供の学費が要り、住宅ローンも払わねばならない年齢で、「そんな犯罪行為の係なんてイヤだ」と断る人は、よほど家族に無責任な人。
それに「ボクが断ると、誰々が煮え湯を飲まなければならない」なんてわかりますもんね。
自分の代わりに「煮え湯を飲む」のは、自分を慕ってきてくれた部下でしょうからね。
       
まあ、談合がバレて会社の犠牲になった人は、その後ほとぼりがさめると子会社とかにポストが用意されて、手厚い処遇はされているようですが、本社には戻れない日陰の身。それに、長い刑事裁判の心労に翻弄される人生に放り込まれますねぇ。
それに談合ポストにされるのは、エリート・コースではないんですねぇ。談合ポストは汚れ役。社長候補のエリートをケガをする汚れ役にはしないですもんねぇ。
     
も一つの汚れ役は、総会屋対策の総務部長。これは、少し様子がちがいます。
ボクらは総会屋に脅されて利益を提供したように思うんですが、あれは単純に「脅された」とは言えないんですねぇ。
株主総会が15分以上かかると、「総務部長、無能」の烙印を押されます。
年一回の株主総会ですよ? 経営全般の株主への説明、同意を年一回の会が15分でまともに出来るはずがない。株主への不誠実。
少し問題でもあれば、株主からの非難攻撃が山積するはず。これを15分で切り抜ける為には、コワイ連中に株主の発言を押さえ込んでもらわねばならない。
「総会屋に脅されて利益を提供した」なんて言うけど、そのほとんどは「総会屋を雇って株主の発言を押さえ込んだ」のが実情。
「株主の発言を押さえ込む」ために会社のカネを使うのは背任行為ですね。ええ、犯罪行為。
        
でも、会社では、そんな感覚はないですねぇ。
「会社は株主の物」なんて商法には書いてあるだけで、日本の会社は従業員の物。
経営者は株主に信任されたものではなく、仲間を押しのけて出世した人ですからね。
これ、会社のうちだけの感覚ではないですよね。世間みんなが、そう思っている。
買収は会社を株主が「乗っ取って、社員から奪った。ケシカラン」なんて世間も思っています。
株主の発言を押さえて、株主総会を15分で切り上げるのは総務部長の腕前。そんな腕前がない人はエリートにはなれない。
「杭を後ろからガンガン叩く奴は、誰だ?」