イソップの宙返り・227
   
ゼウスと蛇
ゼウスの結婚祝いに、すべての動物がお祝いを献じました。蛇はバラの花を口に銜えて、天上に昇ってきました。
ゼウスは「他の贈り物は、たとえ足からでも受け取るが、蛇からは何も貰わぬぞ」と言いましたとサ。
寓意・悪人からの好意は恐ろしい
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人が蛇に嫌悪を感じるのは、太古、人間が穴居していたときに、蛇は容易に穴の中に侵入してきて、人間を襲ったからだと言う説がありますね。蛇を邪悪なものとするのは、まずゾロアスター教。
ゾロアスター教圏では、みつけしだい殺すそうですし、エデンの園の蛇は悪の象徴ですね。ええ、古代イスラエルの信仰ではそうなっているんでしょうね。
しかし、蛇を邪悪なものとする人ばかりでもないようですね。
蛇をペットにしている人もあるし、何よりもWHO(世界保健機関)のマークにもヘビの姿がデザインされていますよね。
あれはヨーロッパでは蛇が医学の神と結び付けられてきたことに由来するらしい。医学の神と結び付けられてきたのはヨーロッパにかぎらず、世界の各地で民間薬用や食用にされてきたことに関係があるらしいですね。
   
こうなると蛇への好悪は、太古からの記憶の遺伝子に共通のものではなく、どうも住んでいる土地によるもののように思えるんですがね。
ええ、熱帯、亜熱帯のヘビには強烈な毒蛇が多いのと関係があるんでしょうか。
ところが、奄美地方では、ハブにかまれるのは、水神への信仰が足らないセイだとされているらしいですよ。こうなると、蛇への好悪は住んでいるのが熱帯、亜熱帯であることと関係があるんでしょうね。
     
日本では古代から、蛇は山の神、水の神、雷神としての信仰があったようですね。
大和(やまと)の御諸(みもろ)山(三輪山)の神は大物主命(おおものぬしのみこと)ですが、神体は蛇ということになっています。
古事記の三輪山説話では、活玉依毘売(いくたまよりひめ)のもとに男が通い、ついに姫が身ごもる。男の素姓を怪しんだ両親は、麻糸を通した針を着物の裾(すそ)に刺させ、翌朝、糸をたどっていくと、それは三輪の神社まで続いており、男の正体が三輪の神であったと知ったんでしたね。
同じような話ですが、日本書紀では、倭迹迹日百襲姫(やまとととひももそひめ)に通ってくる男に姿を見せよと求めると、翌日、櫛笥(くしげ)の中で蛇となっていたんでしたね。
民話にも蛇聟入(へびむこいり)の話があります。
民話では、糸は淵(ふち)や洞穴に続いていた話、それに肥前国風土記(ふどき)の弟日姫子(おとひひめこ)の話も同類の説話ですね。
        
いろんな地方の神事に縄で蛇体をつくって引き回すところが多いようですね。
奈良の御所(ごせ)にある野口神社というところの蛇(じゃ)祭では、この蛇体を村中引き回すそうですし、出雲(いずも)地方でも、梅雨(つゆ)神といって梅雨期だけに岩の割れ目から蛇が頭を出すとして、田植開始のたいせつな兆候だそうですね。
そうそう、鎌倉の弁才天では白蛇がとぐろを巻いた上に弁天様が座っていらっしゃいますね。
昔話の「蛇婿(へびむこ)入り」「蛇女房」はハッピーエンドになりますが、道成寺(どうじょうじ)縁起の「安珍清姫(あんちんきよひめ)」のように、女が執念のあげく蛇体になって追ってくるというストーカーの恐ろしい伝説もありますしね。
      
こうなると、蛇への好悪は毒蛇の多い熱帯、亜熱帯と関係があるとは、かぎらないみたいですし、太古の穴居時代のおぞましい記憶と単純に結びつけるわけにもいかないみたい。
ええ、ゼウス神みたいにはね。