イソップの宙返り・225
    
蝉とキツネ
蝉が高い木の上で鳴いていると、キツネが食おうとおもって、蝉の美声を褒め「こんなにいい声を出すのは、どんなに素敵な生き物かみてみたい」と言いました。
蝉はキツネの下心を疑って、木の葉を落としました。すると、キツネは葉っぱを蝉だと勘違いして食いつきました。
蝉は「やい、ボクが降りてゆくと思ったら、大間違いだぞ。お前の糞のなかに蝉の羽根があるのを知っているぞ」と言いましたとサ。
☆     ☆
散歩の途中に「何々ファンド」の看板を掲げた、詐欺的な金集めの会社がありまして。
朝遅くには、その店舗の前に一台一千万円はする外車が4,5台並びまして、アルマーニとかのブランド物の背広をゾロリと着込んだセールスマンと思える若い衆が出てきます。
ええ、見るからに恐ろしい連中がね。
食べた蝉の羽根なのに「立派な背広を着て、高級車に乗っている」なんて反対に信用する人があるんですねぇ。
   
これで、思い出すケースがありましてね。ボクの経験したのは商品先物取引。
ちょっとした投機好きな田舎の朴訥そうな人物が、或る日紹介者同道でやってきました。
損が重なって半年もしない内に「保証金が不足した、やめるためには保証金を追加せよ(追証・おいしょう)」と迫られて、やめると申し入れていたのに、ずるずると蓄えの数千万円が空になり、まだ足りないと迫られていました。
ところが、国税局が前年末には数億円の利益をだしていたからとして、突然1億円近く課税をしてきましてね。
    
「ずーっと損ばかりが続いていたはずなのに、どうして課税?」って不審でしたから、まず課税してきた国税局で調べると、たしかに商品先物取引会社の帳簿では、前年末に数億円の利益が出ていたことになっていたんですよ。
電話でアポイントをとって、その商品先物取引屋へ出かけました。応対した専務と称する男に「利益がでていたんではないか?」と迫って、取引記録を見ました。
たしかに、前年末には数億円の利益を出していたんですが、年が明けると毎日数回も売り買いが繰り返されて、手数料だけで、その数億円の利益がなくなっているんですねぇ。これは「客を殺す」典型的な両建売り買いの手口なんですよ。
だのに「本人に、まだ不足な分の追証を出させてください」と迫るんですよ。
ところが、この専務の話し方が、なんとも奇妙でしてね。勘ぐると、ボクから脅迫の言質をとろうとろうとしているように感じましてね。
ボクも一応経験のある弁護士でしたから、「ちょっと手洗いに」と部屋を抜け出して、帰りに部屋を間違えたふりをして隣の小部屋のドアーを開けると、いましたね。
人相のとりわけよくない弁護士が、盗聴器の前にすわっているんですワ。
ええ、ボクよりまだ人相の悪い先生がね。
「いやー、部屋をまちがえました。ここの会社の顧問弁護士さんですか?」なんて言いながらさりげなく名刺交換にもっていきましてね。
   
相手は「これは内の顧問を上回るワルだわ」ってことになったらしく、結局、国税が納税を迫っている1億円で和解してしまいました。同行していた本人が、それでおさめてほしいと希望したのでね。
支払いの一千万円の手形10枚、一億円分を持って帰ってきました。行った先が大阪だったもので、帰り道の喫茶店に入って、報酬5パーセントの了解は得たんですが、「この手形は全部割り引いて、先生の分はすぐに持っていきます」ってことで別れました。
何しろ、紹介者がしっかりした人だったもので、力ずくで受け取った手形の一通、一千万円を取り上げるのも憚られましてね。
       
5パーセント・500万円の報酬の行方ですか? それから一月ほどして、くだんの紹介者が、おそるおそるやってきましてね。
「本人は夜逃げしてしまいました。親戚からも借財がたっぷりありまして、娘の嫁入り支度の金まで、『ちょっと貸してくれ、すぐ返す』なんてダマされたのまでいます。国税も払っていません。ところで先生のお礼もまだだと思いますが、どうさせていただきましょう?」なんて話。
そこまで言われてから、「あんたが代わりに払え!」なんて言えなかったですね。
    
「ああ、あー、あの時に手形一通取り上げておけばよかった」なんて事務所経費が足らない月末ごとに数年、口惜しかったなぁ。
それ以上に「ところで、あの本人は、ホントに気の毒な被害者だったのか?」なんて疑いもでてきましてね。
世の中には、弁護士をだますワルなんてのもいるんですよ。商品先物取引屋を上回るワルがね。