イソップの宙返り・220
    
モグラ(土竜)
モグラは目の見えない生き物であるが、これが母親に向かって、
「僕は目が見えるよ」と言いました。母親は試してやろうと、乳香の粒を渡して、これは何かと問いました。そのモグラの子供は、小石だと答えました。
母親は「お前は、視力がないばかりか臭覚までなくしたね」といいました。
寓意・法螺吹きのなかには、できもせぬことを言いふらし、ごくつまらぬことでボロを出す人がいるものだ。
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まず、言葉の説明から。
乳香は香料ですね。ええ、香水とか線香につかう香料。アラビアで木から滲み出る樹脂だそうで、ミルクが固まったような色と形をしているので乳香というらしい。
燃やすと甘い香りがでることだけは知っているのですが、燃やさないでも匂いのするものでしょうねぇ。
アラブのバザールでは毎朝、乳香を焚いた皿をぶら下げて店先に出前している様子をテレビで見たことがあります。「香の出前なんて、まあ、何と優雅な」と驚いたことがあります。
ええ、テレビのナレーションでも、そう言っていましたね。
ところが、あれはお祓(はら)いなんですねぇ。
乳香は英語ではオリバナムというんだそうですが、「神のもの、さらに神そのもの」と考えて、天や神を祀(まつ)る際これを薫ずることになっているとか。
ですから、乳香を焚く出前は、「今日も神の加護で商売繁盛しますように」とのお祓いとか、祈りのようですね。
     
ところで、本論のモグラの話。
モグラには目が一応あるんだそうですが、地上に出てくると強い太陽光線で視力がほとんど失われるらしい。で、まあ、ヨーロッパではメクラってことになっているらしいんですがね。ヨーロッパでは植物の精霊で、地下にすむ自然の支配者とされるんだそうです。
        
日本では、モグラは太陽に当たると死ぬとの言い伝えがあるそうですね。ええ、ボクはそんな風に思っていました。
でも、何かのはずみで、地上を走っているモグラを見つけて追いかけたことがありますが、別にメクラになっているようでもなく、走り回っていましたがね。
室町時代の継子(ままこ)いじめの話では、まま子の姉妹は日と月になり、いじめたまま母はモグラにされて地下に住むことになったとかで、日月の光に当たると、たちまち死ぬとあるそうですよ。
       
モグラを嫌う話はヨーロッパにもあるそうで、ドイツでは、ボージュ山脈の妖精はがキリスト教の司祭を恐れて、祈りの届かない地下にもぐって、モグラになったとされるらしい。
ドイツでも土竜(もぐら)打ちって行事があるそうですよ。
ええ、日本のモグラ打ちと同じですね。
日本のモグラ打ちは、小正月とか、十日夜(とおかんや)の行事ですが、子供たちが、藁束(わらたば)で田畑・屋敷の土を打ち回るんですね。
あれは虫追いみたいに、モグラの害を払う行事だそうですが、モグラは昆虫しか食べませんので、モグラにどんな害があるのか、都会生活者にはわからないですねぇ。
      
調べてみると、苗床の下にトンネルを掘ると苗の成長を阻害するし、ビニールハウスでは植物が倒れる被害がでるらしいですね。
モグラも時代の波に従いてゆけなくなっているらしい。