イソップの宙返り・200
      
旅人が荒野で、女が独り悄然とたたずんでいるのに出会いました。
「あなたは、いったい誰です?」とたずねると、
その女は「真実です」と答えました。
「どういう訳で町を捨て、こんなところで独りいるのですか?」と訪ねると、
「昔は、ウソは少数の人のところにしかいなかったが、今は誰の処へ行っても、聞くも語るもウソだらけです」と答えましたとサ。
☆     ☆
ウソの話なら、アイヌ征服の歴史を想起します。
15世紀のコシャマインらの一大蜂起では、軍事的にはアイヌ勢が絶対有利だったらしいですね。
そこで、和人側は和平を求めました。和平の祝宴を催して、やってきたアイヌの武将達を虐殺しました。ええ、ダマシ討ち。
      
一度やられれば、和人はウソをつくってわかるだろうに、16世紀のショヤコウシ兄弟の戦い、タナサカシの戦い、タリコナの戦いでも、和平を仮装した祝宴で、やっぱりだまし討ちで全滅。
それだけじゃあないですよ。17世紀の「シャクシャインの蜂起」でもやっぱり、謀殺で鎮圧されています。
4回も5回もウソをついた和人が「今度はホント」なんて言っても信用するなんて、まあ、和人的な価値観から言うとバカ。
どうしてアイヌは和人のウソを見破れなかったのかなぁ。
アイヌの文化にはウソがないのかなぁ。ウソをつかないだけではなしに、ひとのウソにころりと何度でも騙されているんですよね。
          
アイヌって和人とは異民族、その習俗からして異邦人だと教えられてきました。
アイヌ文化は和人文化の真似事だって、今でも辞典によっては書いてありますもんねぇ。
あのアイヌ劣等民族説は金田一京助大先生の犯罪だという人がありますね。
金田一京助先生といえばユーカラ。アイヌ語ではユカラって言うらしいけど。
金田一京助先生はアイヌ研究をするのに、樺太アイヌを研究対象になさったらしい。
樺太アイヌは和人の影響を受けていない純粋アイヌとしてね。
ところが、樺太って鉱山があったから、大昔から和人が入り込んでいたし、樺太には鉄道まであった。
そんな和人文化の浸透したアイヌを調べたから、樺太のアイヌ語には固有のアイヌ語と和人の影響をうけた変異アイヌ語とか入り交じっていたらしい。
         
最近の研究では、和人の影響を受けていないのは日高地方の山地らしいとわかってきているようですね。
ここのアイヌ語は、和人の影響は少ないらしい。だのに、日本語とよく似ている単語が多いらしいですよ。
よく似ている日本語は古代から伝わるヤマト言葉。縄文時代から伝わるヤマト言葉。
現代日本語はシナからの外来語である漢語とかで変質していますが、注意深く漢語を外すと、縄文ヤマト言葉が出てきます。
これと、アイヌ語は共通する部分があるらしい。
      
金田一京助大先生は、縄文ヤマト言葉と共通する単語があるのを、和人言葉の真似だと誤解したらしい。
ただの一地方語のフィールド・リサーチで物を言うんですから、「樺太アイヌ語の一考察」とか「樺太アイヌに残るユカラの一考察」にとどめておければ良かったものを、これから一足飛びにアイヌ民族劣等説にまで、大風呂敷を拡げてしまったらしい。
         
ボクら凡俗は、北海道へ観光旅行すると、模擬熊祭りを見て、何やらエキゾチックな気分になり、旅愁に浸ったりしています。それに博物館に展示してある手甲・脚絆(きゃはん)を見ても、昔の日本の手甲・脚絆の下手な真似物のように見ています。
ところが、どうも真似物ではなくて、ボクらの祖先の縄文文化を色濃く残しているのがアイヌ文化らしいですよ。
       
それにしても、シャクシャインの謀殺じゅあないけれど、「オレ、オレ」なんて言われると、電話詐欺、取立詐欺のウソ話をすっかり信用してしまう人がいまだにいますねぇ。
あれは、深層に、ウソのない美しい縄文文化を色濃く残している人が、いまだにいるってことですかね。
ダマされて気の毒だとは思うけど、美しい心根の人がいるって聞くのは、何やら嬉しい。