イソップの宙返り・199
      
猟師が目の前を通り過ぎる犬に、次から次へと食べ物を投げ与えました。
そうすると、犬は、こう言いましたとサ。
「あっちへ行け、そんなに好意をみせられると気持ちがわるい」
寓意・贈り物攻勢をかける人は、ほんとの狙いを隠している。
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西洋人って、贈り物に対して、「ほんとの狙いを隠している」なんて思案を持っているんですねぇ。
ボクらは人に物を贈るのは、それほどの狙いを隠しているわけではありませんよね?
まあ、贈与にもいろいろありまして、業者が役人へ物を贈るのは、隠した狙いがあるんでしょうが、個人から個人への贈り物は、そんな余計な狙いがあるわけではないんですがね。
西洋にはワイロってないように聞きますが、ついこの間までイギリスでもワイロが盛んだったそうですよ。
そりゃあそうでしょうねぇ。ワイロをもらって嬉しいのは人間の本能ですもんねぇ。
いえいえ、ボク独自の見解ではなくて、モースって学者も「贈与論」で、そう言っている。何しろモースさんは、フィンレイの古代ギリシャ研究とボール・ヴェーヌの古代ローマ研究をふまえて言っているんですからね。
こんなことから、だれか物知りが書いていたんだけど、西洋人がプレゼントをもらうと、その場ですぐに開けてみるのは、過剰な贈り物でないかどうかを調べる歴史的な習慣が起源だそうですね。
でも、貰ってすぐに開けて、喜びをあらわすのは楽しい習慣だと思いますがね。
         
ボクらの贈与の感覚とは少し違いますが、チャリティ・パーティってよくやるでしょう。
あの慈善も、まあ言えば贈与ですよね。
堅苦しい話になってしまうんですが、経済学の話。
経済学で扱うのは、物の売り買いだけですよね。ええ、市場経済とかのね。
だから、チャリティとかは計算のうちには入れないものらしい。
ところが、あのドライなアメリカでも、国民総生産(GNP)の内で、物の売り買い以外の贈与が4割をしめるんだそうですよ。
まあ、この4割と云うのは狭い意味の贈与だけではなくて、対価を伴わない物の一方向的移転をいうんだそうですがね。
だから、4割といっても、アメリカの恋人達が、GNPの4割ものセーターを編んで贈るって話にはならないみたいですがね。
それに、百貨店で買ってきた物をプレゼントするのは、百貨店が売ったものですから、市場経済の計算のうちですがね。
       
こんな、市場経済外のことまで計算に入れた経済システムを研究するのは贈与経済学って云うらしいですよ。
まあ、対価を伴わない一方向的な財の移転を贈与としていますが、チャリティとか、援助、それに補助金を贈り物の計算に入れるのはわかるけど、贈与経済学では税金まで贈与の内に入るらしい。
ボクら税金なんて贈与とは思っていませんがね。
税金なんて好意で支払ったことないもんねぇ。あれは強制による略奪。
でもまあ、贈与・一方向的な財の移転が国民総生産(GNP)の4割もになっていると、これを無視して経済学はなりたたないでしょうねぇ。
         
それに環境問題を解決するために市民が活動するエネルギーも、今までの経済学では計算外にしてきましたしね。
まあ、不法投棄物を行政代執行する費用は、市場経済の計算には入っているんだろうけど、自然破壊に連なる河口堰建設反対運動なんて、大変なエネルギーを要するのに、今までの経済学では無視してきたんですね。
現代経済学はオカネの問題だけを扱っているでょしう? あれ不満だった。
環境保護のエネルギーを計算外にするのは、学問としてはむなしいなぁ。