イソップの宙返り・160
      
片目の鹿
ケガで片目が見えなくなった鹿が、陸からくる危険から身を守ろうと、海に突き出た岸壁に住むことにしました。
そして、猟師や猟犬が近づいてくるのを見守ろうと、見える方の目を陸地に向け、ケガをして見えない方の目を、危険のない海の方へ向けていました。
ところが、通りかかった舟が鹿を見つけて、銛を投げました。目の見えない方から飛んできた銛が避けられませんでした。
鹿は息絶える時に、こんなことを言って嘆きましたとサ。
「ああ、なんて不幸なんだ。安全な場所を求めて、はるばる、森からやってきたのに、そこがもっと危険な場所だったとは」
☆     ☆
片目の鹿ならぬ、片目の脳の話。
脳は右脳と左脳があるそうですね。右脳は芸術とか情緒。左脳は主として計算とか言語とかの知的な働きを司っているものだそうですね。
で、この右脳と左脳は脳梁っていう橋で連絡されているとか。
ところが、男の脳の、この脳梁ってのは女のに比べると細いんだそうですね。
この渡り廊下が女は太く、男ははるかに細いンだそうですね。男がもっぱら左脳で処理する言語とか数学を女は左右脳を融通ムゲに使えるのだそうですネ。
         
片目の鹿ならぬ、片目の脳ですかね。
男は左脳か、右脳だけを集中して使うので、アインシュタインのように左脳の天才とか、右脳天才のピカソが出る、って言いますね。
まあ、これは極端な話でして、ボクらのような凡人に、そのまま通用する話ではないでしょうがね。
でも、学校の学力って、左脳だけに偏ったものでしょう?
ええ、鈍才と秀才の差ってこんなことだと言いますね。
例えば、幾何の試験で、「円錐形を垂線に沿って縦に二等分せよ」なんて問題が出ると、左脳人間は、そのままスッと二等分された円錐形が頭に浮かんでくるけど、右脳人間は、ギーコギーコと鋸で切る音が聞こえてくるし、もっとスゴイ人は飛び散る木屑の匂いまでしてくるそうですね。
そうなると、右脳がどんなに優れていても、入学試験には間に合わないんでしょうねぇ。
でも、木屑が飛び散り、新しい木の匂いまでしてくる右脳人間を切り捨ててきたのが、今の世の行き詰まりのような気がしてくるんですがね。
いえいえ、ゆとり教育に賛成しているわけではありませんよ。
あれは、ただ教師のユトリだけの話。それに私学の陰謀のような気がしますからね。
        
でも、世の中がこんなに変化して価値観が多様になると、左右脳を融通ムゲに使いこなす女脳とか、鋸の音が聞こえてくる人の出番のような気がするんですがね。
会社とかの組織の中だけで通用する価値観にドップリつかった単純脳ではこれからの世の中ではやっていけないんではない?
それにしても、家族のために、会社のために一所懸命に励んできたのに、「もうオマエはいらない」なんて言われるのはツライなぁ。
ええ、左脳偏在人間としてのボクの嘆きでもあります。