イソップの宙返り・161
      
羊飼いと海
海の近くで、羊を飼って暮らしていた羊飼いが、毎日穏やな海を見ていて、船で貿易をして大儲けをしてやろうと思い立ちました。
羊飼は、飼っていた羊を全部売って、ナツメ椰子を仕入れて、船に積んで貿易に出かけました。
ところが、船出をすると、すぐに嵐になって沈没しそうになりましたので、積み荷のナツメ椰子をぜんぶ海に捨てて、船を空にして、やっと助かりました。
それから間もなく、ある男が穏やかで静かな海を見ていたので、あの羊飼いはこんな風に、その人に言いましたとサ。
「ダマされてはいけないよ。そいつは、また、ナツメ椰子が欲しくなったのさ」
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ナツメヤシなんて変わったものを貿易したんだなぁ、と思うんですが、交易するのにナツメヤシは別に変わったものではないんですってね。
砂漠地帯では重要な主食なんですって? 栄養価が高く、お酒の原料にまでなるらしい。知らなかった。
       
それにしても、羊飼いが海上交易をやるのは、まったく関係のない事業ですね。
この羊飼いは毎日、海をみて暮らしてきたにしても、船には関係のない仕事ですよね。
新しい事業で成功するには、経験のある今の仕事のノウハウを生かして、隣接分野に拡張してゆくのが、妥当のような気がする。
ところが、ドッコイ、そんな風に考えるのは、時代遅れの常識のようではありますね。
ええ、新日鐵なんかヒラメの養殖で、そこそこの成功をおさめているようですねぇ。
溶鉱炉の熱を利用しての養殖らしいけど、養殖のノウハウはなかったんでしょう?
山奥でヒラメの養殖をやっているところもありますね。でも、あれはヤマメとかアユの養殖の経験の拡張なんでしょうねぇ。
         
ところで、コンビニで医薬品を販売できるようになりますね。
24時間営業のコンビニで医薬品が買えるのはべんりですよね?
子供って、なぜか土曜日の夜にトラブルでしょう?
風邪引きのセキが出たり、熱がでるんですよね。ええ、救急車を呼ぶほどでもなく、翌日の緊急医療の当番医のところへ駆けつけるほどでもないけど、ちょっと薬でもあれば安心なんて症状になることがあります。
ところが、報道によりますと、風邪薬とか痛み止めは、今度の開放の対象にならないようですね。ええ、肝心の風邪薬が夜中のコンビニでは買えないようですね。
           
風邪薬がコンビニで買えないのは、何か薬屋とか医師会の利権保護のような気がしますね。
でも、思い返してみると、医師の処方箋なしで薬局で売っていい薬(OTC)としての風邪薬は、強い薬になったんですよね?
ええ、もうだいぶ前になりますから、ボクらは忘れていますが、健康保険の赤字対策として、軽度の風邪で医療を受けるのをやめさせるのに、売薬(OTC)に処方箋なしでは売らなかった強力な成分をいれることを認めたんでした。
それまでは、薬局で買える売薬(OTC)と、処方箋で調剤薬局(ファーマシイ)でもらう風邪薬とは効き方に格段の差がありました。
で、風邪をひくと医院は満員になりましてね。これが健康保険の赤字の大きな原因でもありました。
        
売薬の風邪薬に強力な成分を入れましたから、副作用も強力。
でも、薬局では薬剤師が常駐することにしましたから、「たくさん一度に飲んではいけません」ていどの注意はして売ってきたんですがね。
ええー? そんな注意されたことない? 売り場の棚からレジに持っていくと、何にも言わないですんなり売ってくれた?
そう言えば、よく効くように倍飲んだらひっくり返ったって話も聞きますね。
まあ、薬剤師がいる薬局でも、ずるずるとズサンにはなっているようですがね。
           
でも、コンビニで売るとなると、もっとズサンになるでしょう?
それに、コンビニで手軽だと、買った方も健康ドリンクみたいな気になって、「あした忙しいから2本飲んでおこうか」なんて気分になりますねぇ。
        
痛み止めは、もっと危険。鎮痛剤って麻薬的な作用ですから、大量に飲むとヤクの代用品になるんですねぇ。
ヤッパリ、羊飼にナツメ椰子貿易をさせるのは考え物。それに、今度のことはナツメ椰子ならぬ薬だもんねぇ。