イソップの宙返り・155
     
少年とイラクサ
少年が、野原で遊んでいて、イラクサに刺されました。そこで、少年は泣きながら父親のところへ行って、こう言いました。
「僕は何度もあの嫌な草に刺されたことがあるから、気をつけていたんだ。だから今回は、そうっと触っただけなんだ。それなのに、とてもひどく刺されたんだよ」
「息子よ」父親が言った。
「お前が傷を受けたのは、とてもやさしく、そして、とてもおびえて触ったからなんだよ。イラクサだって、安全につかむことができるんだよ。もしお前が勇気を持って毅然した態度で、イラクサをしっかりとすばやくつかめば、決してお前を刺したりしないんだよ。そして、お前が世の中に出たら、このイラクサと同じように取り扱わなければならないような、人間や事件にたくさん出会うことになるのだよ」
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先ほど催告状と題名をつけたハガキが、ボクのところまできましてね。
内容は「あなたの金融機関に対する債務を当社が譲渡をうけました。これが最終催告になります」なんて書いてあって、発信者は何々事務所と電話番号だけ。
漠然と金融機関なんて書いてあると、今はたいていの人は住宅ローンぐらいはありましょうから、ギョットして電話してしまわないとは限らない。
ここが付け目なんでしょうねぇ。
        
電話してくる人は「気の弱いお人好し」。
それから先は電話してきた内容で、金額まで書いた催告状を追っつけてだしてくるつもりなんでしょうねぇ。ええ、「どこそこの銀行口座に振り込め」なんて、追っつけ催告状を出してくるんでしょうねぇ。
まあ、次のプロセスは、「気の弱いお人好し」一覧表としても転売するのでしょうねぇ。
       
一昔まえにハヤッたのは、倒産したレンタル・ビデオ屋から顧客名簿を買い取って、「借りたビデオを返していない。賠償として何千円送金してこないと法的手段に訴える」なんて脅迫してくるのがありました。
この文書の巧妙なことは、何時借りたとも、何のビデオだとも書いていないんですよ。
借りた方にすれば、「エエー、全部その都度返したはずなのに!」と思っても、電話をしてしまう。
これが付け目。電話の応答をすれば「気の弱いお人好し」かどうかわかりますよね?
まあ、そこまでいかなくても「気にするタチ」だとわかってしまう。
これは、A、B、Cとかの「お人好し」ランクをつけて名簿として高額で売ったらしい。
          
世の中には「気の弱いお人好し」って、たまにはいるんですねぇ。イヤー、何パーセントかはいるらしいんですよ。
昔話になりますが、北海道の原野を売ったサギ商法がありまして、換金もできないで弱っている被害者に、「転売してやるから、測量費用をよこせ」なんて更なるサギを持ちかけるサギ商法がありました。
一度、サギ商法に引っ掛かった人は賢くなって、もう二度と引っ掛からないと思うでしょう?
ところがそうではないんですねぇ。原野商法に引っ掛かったのは「お人好し」ランクAでしょう?
だます相手は、「お人好し」ランクAと保証されているんですから、相当高い確率で、もう一度引っ掛かるものらしい。
         
前にもいいましたが、サギ商法のセールスマンが日本中に常時2万人だとか、20万人だとかいるんだそうですよ。ええ、何人いるか定かでないほどいるらしい。
で、サギ商法の会社が摘発されても、セールスマンは雑魚だとして捕まらないから、新しいサギ商法会社に渡り歩く。
そのときには「お人好し」リストを持参金にするらしい。
だから、手をかえ品をかえて、催告状だとかがやってくるらしい。
      
このことは、或る消費者保護に熱心な弁護士さんが、試みに応答してみたら、それから電話でのサギ商法勧誘やら、いわれのない催告状がバンバンやってきたと言っていましたね。
電話が事務所に掛かってくると「ハイ。何々法律事務所です」と応答するでしょう?
だから、その電話は、すぐに切られますが、よそへ売られた名簿から、わけのわからない催告状やら、サギ商法勧誘やらがしばらく止まらなかったと聞いたことがあります。
        
「イラクサは毅然とした態度でつかまないと、世の中にはむやみに刺す、イラクサと同じような人間や事件がたくさんあるもの」ですよ。