イソップの宙返り・154
       
アリとセミ
「どうぞ、一文恵んでください」
 ある寒い朝、あわれな声でこう言って、アリのうちの戸口にセミが立っていました。
セミは、夏には自慢していた薄絹の上着も破れて、見るかげもない、みじめな姿です。
アリが、「おまえさん、夏には、いったい、どんな仕事をしていたのです?」
とききますと、
セミは、「夏には、毎日、音楽会や、芝居に行って、遊んでばかりいました」と、きまりわるそうに、うつむきました。
アリはセミに食べものをすこしわけてやりながら、こんなことを言いました。
「そうでしょう、きっと。こんな寒いお天気にでも、やっぱり、音楽会や芝居行きが、おまえさんには、似あうでしょうよ。」
セミは、すこしばかりのもらいものを、だいじにかかえて、とぼとぼと雪の中を帰って行きました。
☆     ☆
この話を、アリは「すこしばかり」ではなく「仲良くわけてやりました」にかえた童話がハヤリましたね。
ええ、今でも大勢は、そうなのかも知れない。
あの優しい童話を、ディズニー映画の影響だと言う人がありますねぇ。
どうなんでしょう? でも、ディズニーには自然の厳しさ、ときには悪夢の恐怖などの話もありますよね?
まあ、独自のユーモアのオブラートに包んでですがね。
             
最近の幼児誘拐の多発は、「童話で子供達に恐ろしさを教えないからだ」とも言いますね。
ボク達も恐い童話を読んでもらった夜にはウナされた記憶がありますから、昔のままの残酷な童話を幼児に聞かせる勇気はありませんねぇ。
孫用の童話本を探しにいっても、昔風の残酷童話は店頭にはないようですね。
残酷童話と名打った本もありますが、孫に嫌われそうですし、それよりも親に嫌われてまで買う勇気はありませんねぇ。
         
昔の記憶をたどってみると、「日が暮れてから、外で遊んでいると子獲りがやってくる」とか脅されていると、夕暮れになると、何やら恐ろしくなって、家に飛んで帰ったようなおぼえがありますから、恐ろしい童話もそれなりの効果があるのかもしれませんがねぇ。
         
でも、幼児が誘拐されて、いまだにわからないとの話を聞くと、胸を締め付けられる思いがしますねぇ。あなたも、そうでしょう?
それに、9年間も幽閉されていた事件もありましたしねぇ。
           
警察も、それなりに努力をしているようですが、何とか捜査の環境整備ができないもんでしょうかね?
それにつけて思い出すのですが、昔、交番の巡査の居住者調査がありましたね。
あれは、プライバシーの侵害だとして廃止されたようですが、あれは犯罪抑圧に相当の効果があったのではないでしょうかね?
居住者調査がパーフェクトにできることはないとしても、犯罪者にはプレッシャーになるのでは?
あの9年間の幽閉でも、形式的にしろ、何度も巡査が居住者調査に訪れていたら、もっと早期に発見できたようにも思えるし、何より犯人が自宅の二階で幽閉するなんて発想をしなかったように思える。
       
まあ、居住者調査は人権侵害との非難もあるでしょうが、誘拐される幼児の人権保護とのかねあいからすると、もう一度復活してもいい制度だと思っているンですが、あなた、どう思われます?
       
アメリカでの幼児誘拐の数は年間何万人とも聞きますね。
あれは、戸籍制度がないことが、大きな原因だと思われますねぇ。
ええ、戸籍制度がないので誘拐した幼児を養子に簡単に売れるらしいし、その営利を目的とする大組織があるようですね。
       
こんなに犯罪が多くなり、それも暴力的な外国人の犯罪に社会が曝されてくると、防犯を社会が深刻に考えるべき事態になっているような気がする。
ええ、銀行のカウンターに鉄柵を設けるのとかも考えるべき事態。
もう、幼児誘拐の防止に、コワイ童話だけでは間に合わないのかれしれない。