イソップの宙返り・135
       
狼少年
羊の番をしていた子供が、ある日なぐさみに村の者を驚かせようとして、「オオカミ オオカミ」と叫んで走りまわりました。
村人達は狼が羊を殺しに来たとばかりに、駆け出しましたが、何事もなかったので、その子を叱りました。
その後数日して、本当に狼が来て羊へ飛掛りましたので、村へ帰って「オオカミ オオカミ」と叫んで走りまわりましたが、だれも相手にしませんでした。
このため沢山の羊が狼に取られましたので、羊番の雇い主はその子をクビにしましたとサ。
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「狼少年現象」と言う熟語がありますそうで・・・
例えば、東海地震の予知をしない理由について、「地震警報を出すと、その警報が何度も外れてしまったら、誰も信じなくなってしまう」とする意見があるそうです。
「故意に嘘を言ったのではなく、たまたまその事柄が実現せずに、信用を失った場合」を狼少年現象と言うらしい。
          
ところで、ウソって言葉ですが、地方により人によって、受け止め方がちがうんだそうですね。
紛らわしいので、漢語をつかいますが、きびしくは欺瞞の意味につかい、軽くは冗談の意味にとります。
ええ、最近の流行語の「ウッソー」っていう感嘆詞。
似たような使い方に「ホントウー?」ってのがありましたね。
「ウッソー」も「ホントウー?」も聞きなれない老人には不愉快な言葉ですが、一昔前の「冗談でしょう?」と同じような感嘆詞ですねぇ。
       
道草ですが、「冗談」って変な漢字ですねぇ。冗談の「冗」は冗舌、冗長ですから長くてツマラナイって意味ですね。ですから、意味と当て字がチグハグ。
ジョーダンの語源は雑談だそうですよ。
エヘッ、ザツダンがどうしてジョーダンって発音に変わってきたのか沿革はしりませんが。
        
ところで、ウソのことですが、標準語では「ウソはドロボウの始まり」って諺がありますから、重い欺瞞って意味にとられるんでしょうねぇ。
でも、夢想する子供ってジョーダンとしてウソをつくでしょう?
この項目を書きはじめて、突然小学校低学年の頃のことを思い出したのですが、こんなことがありました。
      
好きだったAちゃんが、「ウチの庭から金がでるねん」って言い出しましてね。
ボクの祖父が山師のまねごとをしていたことがありまして、ボクは祖父からもらった鉱石をいろいろ持っていました。まあ、子供の他愛ないコレクション。
黄銅鉱なんて、それは綺麗でして、コガネ色にピカピカ光っていました。
      
ね、子供の頃にはみんな宝物箱をもっていたでしょう?
ボクは小学校低学年でも祖父から聞いて、鉱物は掘り出し精錬するのに、ムヤミに費用がかかるものだと知っていましたし、それに金ってオカネと結びついて考えるほどマセていませんでしたから、「庭から金が出る」って話も軽く聞いて、うまくするとコレクションを追加できるかも知れないぐらいの気持ちで、その友達の家へ出かけました。
         
「家に帰ったら、すぐ行くからネ。表で待っていてくれヨ」って約束したのに、Aちゃんは表にいなかったんです。
庭に入っていくと、かれの兄さんがいましてね。「庭から金が出るって言うから来たんだけど」って告げると、その兄さんが、血相を変えて「アイツは、そんなウソをついたんか? せっかく来たのにゴメンね!」と、二階の弟の部屋に向かってドナリはじめるのよ。
        
ボクは騙されたって思わないで、「ボクを好きなAちゃんが、ボクの気を引くために言ってしまったんだなぁ」って、むしろ嬉しい気持ちで帰ってきたように憶えています。
ところが、Aちゃんは、その後は学校で出会っても、避けてよそよそしくなってしまいましてね。
ええ、子供のことですからAちゃんのウソの悩みなんて感じないで、そのままになりました。
       
それから数十年たって、Aちゃんは大会社のエリートになっていました。夢想家だっただけあって、創意工夫に富んだ優秀な会社員になったんでしょうねぇ。
そんなAちゃんと或る会合で顔をあわしたんです。
たまたま、小学生以後も細々と交際が続いていた出世頭の竹馬の友が一緒でしてね。
そんなことから、その竹馬の友が「湊とは久しぶりヤロ? 飲みに行こう」って誘うと、Aちゃんは、何やらモジモジして支障を言い出しましてね。
その竹馬の友は「いつでも、付き合いのええヤツなのに、アンタと何かあったんか?」って、いぶかしがったことがありました。
          
そんなことも忘れていたんですが、この項目を書きはじめて、突然あのことを思い出したんです。
ひょっとすると、いや、きっとAちゃんは、あんなに出世しても、子供のころについてしまったウソを心の傷にしていたと思う。
    
ボクの子供の頃では、ウソを軽いジョウダンととっていました。ええ、重い欺瞞はソラゴトって別の言葉がありましたからね。
ところで、あなたの子供が、ハッキリとウソだとわかる話をしたときにには、どう対応しています?
まあ、「ウッソー」って軽くいなします? クドクドと叱ります?
          
徳川家康は「ウソだとわかるウソはいいけど、本当のようなウソはつくな」って言っていますがね。
そう言えば、家康のお伽衆だったソロリ新左衛門のウソって、「ウソだとわかる、楽しいウソ」でしたね。