イソップの宙返り・134
         
麦畑のヒバリ
麦畑に巣をかけてヒナを育てているヒバリがありました。
餌を取りに出かける時、ヒナに留主中の事によく気を付けておくようにと言って出かけました。
日暮に巣に帰ってくると、ヒナが「畑の主人が来て隣人に、ここの麦を刈ってくれるように頼んでいた」と告げましたが、親ヒバリは、大丈夫だと言って驚きませんでした。
翌日、餌取りから帰ってくるとヒナが「今日も畑の主人が来て懇意な人に麦刈を頼んでいた」と告げましたが、親ヒバリは「隣の人に頼んでも、懇意の人に頼んでも大丈夫だ」と言って驚きませんでした。
さらに、その翌日、餌取りから帰ってくるとヒナが「主人親子がやって来て、明日から親子二人で麦刈をしようと話していた」と告げると、親ヒバリははじめて驚き、「人に頼んでいる間は大丈夫だけれども、自分達で仕事をしようと言うのだから、間違いはない」と言って、すぐに麦畑から立ち去りましたとサ。
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まあ、この寓意は「他人をあてにしている限り、物事ははじまらない」って意味でしょうが、危険のなかで暮らしているボクには、ヒバリ親子の危険予知能力のほうに注意がいってしまいます。
ボクはひとに教訓を垂れるのが好きでないタチなんですが、ささやかな経験、見聞きを聞いてもらいます。
       
最近とくに増えたのではないのでしょうが、自転車と歩行者の衝突事故が目につきます。
あの事故では、歩行者のケガは重篤になります。
ええ、みんな気楽に自転車に乗っていまして、まさか自転車ごときで大きな事故が起こるとは思ってもいませんからね。
自転車の接触は歩行者には音もなく背後からの突然の衝撃になりますから、身構えることが全くできません。
つよく衝突されると路面にたたきつけられて脳挫傷を受けます。
自動車事故とか階段の転落だと、一瞬とはいえ叩きつけられる直前には身をかばうんだそうですね。
ところが、音もなく背後からだと身をかばうことがないから路面に倒れて、もろに脳への傷害をうける。だから、考えられないほど重篤になるとか。
           
ボクの経験した話。
歩道の広い都内で、主婦がゴミ収集日にゴミを出して、ヒョッと振り向いて引き返そうとしたところへ自転車に乗った小学生が接触しまして、主婦が路面に転倒。脳障害を受けて寝たきりになってしまいました。
この小学生は、ねだっていた大きな自転車を前日に、やっと買ってもらいまして、お母さんはこの現場は広い歩道ですから安全だろうと、ここで乗るように教えたそうです。
それが思いもかけない大事故。
小学生のお母さんはパートも休んで病院へ付き添いを半年。
やっと、被害者の娘さんが勤めをやめて、東京から帰郷して介護することになりました。
小学生の両親は誠意のある人達でしたが、家まで売っても支払えた賠償金は一千万円だけでした。
被害者も加害者も、何とも救われない事故でした。
          
もう一つの事故は或る私鉄でのこと。
ラッシュアワーにホームへ下りる階段で掃除婦の方が、ガム剥がしをしていまして、電車に乗り遅れそうになった高校生が接触。掃除婦の方は階段を転落して、これも半身不随。
掃除していた人にすれば、床にこびりついたガム剥がしに夢中ですから、身構える間もなく転落したんでしょうねぇ。
これは、こんな混雑のなかで作業させた電鉄の責任ですが、電鉄の方は労災保険金でしか面倒をみないというんですから、加害者の高校生側では見舞金ぐらいは支払わないわけにもいきませんでした。
          
階段転落といえば、ポケットに手を入れたまま駅の階段を下りている人を見かけます。
何かのはずみで接触されて転落すると、パニックをおこして、ほんの浅くポケットに突っ込んでいる手がでないものらしいですよ。
ええ、これで亡くなられた事故がありました。
加害者は不明でした。
        
まわりの人に手袋をすすめているんですが、ポケットに手を入るのはクセになるんですよね。
それにズボンのポケットに手を入れて歩いているのはミットモナイからやめたほうがいい。
それにしても、ヒバリがポケットに手を入れて飛び上がっているのは、見たことないもんねぇ。ヒバリはきっと注意深い生き物らしい。