イソップの宙返り・90
        

今の蟻は、むかしは人間でした。
農事にいそしむのはよいが、他人のものまで羨望の目をむけ、隣人の収穫をくすねつづけました。
ゼウスは、その貪欲を憎み、蟻にしてしまいました。
彼は、蟻になっても他人の作った小麦や、大麦をくすね続けています。
寓意・どん欲な本性の人は、どんなに懲らしめられても生き方をかえない。
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そうそう、一生安楽に暮らせるだけ貯えても、まだどん欲に稼ごうとする人って日本人には多いですねぇ。
ボクが、あっさりと引退したのを見て、「ああ、そんな生き方もあるのか!」って、会社を息子に譲って、引退する人が周囲には増えてきましたがね。
           
耄碌前の数年は「人生至福の時」なのにね。
でも、ボクより数段上の人生の巧者がいるんですよ。
紀伊国屋書店からネパール語字典をだしている、森田宏さんなんか、同い年なのにボクより数年も前に引退して、それまで日本にはなかったネパール語の字引を作ってしまったもんねぇ。
彼からみると、ボクなんか、どん欲な本性の蟻にみえていたんだろうなぁ。
           
こんな泣き言をいっても、聞き苦しいだろうから蟻の話に、すり替えよーっと。
              
このイソップの話とは反対に、アリが最初の人間になったというのがあるそうです。
インディアンのポピ族では、最初の人間はアリであったと信じているそう。
これは、アリの勤勉さを礼賛しているらしい。
でも、狩猟の民のアパッチが農耕の民のナバホをアリ人間とよんでいるのは、土にしがみついて生きているのを侮蔑しての呼び方らしいですねぇ。
           
アリには予知能力があるっていう風習も多いらしい。
日本ではアリが闘うと雨が降るといい、アイヌでは大きな黒いアリが多くみられるのを凶年の前兆とするそうです。
でも、アリの縁起については吉凶に別れるとか。
            
南アメリカのアパライ人では全身を大きな黒いアリにかませて、病気などの悪いものを祓う習俗まであるらしいですよ。
                
こんな宗教的な習俗だけではなく、アリはところによっては、益虫でもあり、害虫でもあるんですねぇ。
ハキリアリは木の葉を切り取って集めるため、ブラジルなどでは、コーヒー園の大害虫だと言うのはよく聞きますね。
アリはアブラムシを保護するので、間接的に植物に害を与えますが、ヨーロッパのエゾアカヤマアリの中には、マツ林の害虫を大量に捕食するのもいて、保護されているとか。
中国やインドでは、ツムギアリがミカン類の害虫駆除に古くから利用されてきたとも聞きます。
でも、このごろ都会では害のほうが目立ちます。
電気系統の配線やスイッチにアリが入って被害を受けたと報道されているし、日本では昔ルリ・アリがリレー装置に入り込み、鉄道の信号機が多数故障した例があったとか、ヒメアリが電話線のリレー装置に入り込んで故障させたのや、クロクサアリが自家発電のモーターに入り込んで故障させた例まであるらしい。
          
ところで、アリの能力ですが、ミツバチ同様アリは偏光を感じることができるらしい。
太陽の位置から方角を判定して帰巣するんだそうですね。
          
餌をとったアリは「捕った、とった!」って興奮して、お尻からフェロモンを、とびとびに地面につけながら巣に帰るらしい。
仲間のアリは、このフェロモンをたどって行くが、最初は道しるべのフェロモンがまばらなために道に迷って、目的地へたどり着く効率は悪いけど、成功して道を通る仲間が多くなるとフェロモンは濃くなり、あの蟻の行進になるらしいですよ。
           
そう言えば、お菓子をこぼすと、その内にアリの行列ができますねぇ。
これからは、パソコンの前で、甘い物を食べるクセはやめにしよーっと。