イソップの宙返り・89
        
鼠とイタチ
鼠とイタチが戦争をしていました。
いつも鼠が負けてばかりいました。
鼠達は会議を開いて、「これは指導者がいないからだ。将軍を選ぼう」ってことになりました。
将軍に選ばれた鼠は威厳をつけるために、角をこしらえて頭につけました。
イタチと戦いましたが、またも負けました。
鼠達は穴に逃げ込みましたが、角をつけた将軍だけは、角がじゃまになって穴に入れず、イタチに食べられてしまいましたとサ。
寓意・虚栄心は不幸のもとになる。
           ☆     ☆
ボクは自慢じゃあないけど、夏のポロシャツ、ティシャツは500円以上のものは着たことない。
でも、このあいだやって来た娘が「ええの着ているじゃん。ラルフローレン?」なんて言ってくれたよ。
「380円!」って言ったら、「なんや」ってガックリしていたけどね。
         
これだけを言うと、ボクは虚栄心のない、どんな立派な知性人かと思われるだろうから、白状すると、若いときには贅沢なものを着ていましたです。ハイ。
この贅沢の話で面白かったのは、ファインテックスのスーツ。
           
ある時ロンドンはシビルロードの生地屋をひやかしてしたら、「ファインテックスの生地のネーム耳を取ったのを買ってくれない?」って言われたんですよ。
何か、後進国のお金持が、手付けを支払って、生地のファインテックスの「ネームを織り込んだ耳を取ってくれ」と注文したらしい。
まあ、くにの関税の関係があったんでしょうねぇ。
          
「ところが半年経つのに取りにこない」って嘆くのよ。
で。「ナンボにする?」って訊くと、「ナンボでもいい」って返事。
当時の日本の相場では、ファインテックス一着分は20万円はしていましてね。
何で知っていたかと言いますと、輸入生地屋の管財人をしてことがあったんです。
だから、生地を観察して「ファインテックスに間違いなし」と思って、「1万円!」って値を付けたら、何となんと30分後には1万円で買っちゃったんです。
            
観察したと言っても素人目でしょう?
持って帰って仕立屋に見せるまでは不安だった。
その仕立屋は華僑で、輸入物の生地屋でもありましてね。
そいつが「10万円で売らない?」とまで言うのよ。
「紺色のファインテックス頼まれていたのよ。ネームなしでも20万円なら買い手ある」って言い出してね。
          
そうすると、売るの惜しくなってね。
普通の国産生地の仕立て代で、仕立ててもらいました。
でも、これを着ていて、見栄張っているのをわかってくれたのは、三越の洋服部の主任一人だけだった。
虚栄にもならなかったなぁ。
        
虚栄って言うと、ボクはすぐ(メルセデス・)ベンツに短絡するんですねぇ。
あれ、ドイツに行くとタクシーでしょう?
それに、ヤナセが1000万円で売っている車でも、ドイツでは400万円クラス。
           
トイツのアウトバーンでは制限速度なし。
ベンツって航続速度は250キロのものらしいですよ。
後方からベンツのフロント・グリルが見えると、低速車は追い越し車線を譲るものらしい。
         
ながらくドイツに暮らしていた、大学自動車部OBの友人は、「ドイツに赴任して憧れのメルセデスに乗りたかったけど、アウトバーンに乗って、メルセデスで低速の200キロで走ると、喚かれるのよ」って、乗れなかったことを残念がっています。
で。日本のどこで、250キロで走るの?
           
あれは、虚栄以外の何ものでもない。
それに、メカ音痴だと白状しているようなもんだからね。
せめて、知的虚栄心だけは、失いたくない!