イソップの宙返り・76
       
鼠の恩返し
ライオンが寝ていると、鼠が気が付かないでライオンの身体の上を走ってしまいました。
ライオンが、鼠を捕まえて呑み込もうとしました。
鼠が命乞いをして、「助けてくれたら恩返しをしよう」と言いました。
ライオンは、笑って逃がしてやりました。
ランオンは、その内に猟師に捕まえられ、ロープで木に縛り付けられました。
鼠が、これを見てロープを囓って、ライオンを逃がしてやりました。
「ライオンさん。あの時あなたは笑ったけど、鼠にも恩返しが出来るのですよ」
寓意・時勢がかわれば、有力者でも弱い者に助けられることがある。
             ☆     ☆
極東の凡俗といたしましては・・・
ボクらが知っているイソップ物語の「鼠の恩返し」は、ライオンの足に刺さったトゲを抜いてやる話ですよね。
トゲの話は伊曾保物語だそうですから、ライオンが猟師に捕まるのがおかしいので、日本的に、棘に変わったのかも知れませんね。
        
それにしても、動物の恩返しの話は世界中にバリエーションがあるらしい。
で、「動物の恩返し」って言うと浦島太郎。
          
浦島太郎の話も、いろいろバリエーションがあるんだそうですね。
古典的なものとしては、日本書紀・雄略記に、丹後の豪族日下部(くさかべ)氏の先祖が浦島(太郎)だとする神話が載っています。
でも、この神話では、こうなっています。
「ある日漁に出ていた浦島が亀を釣りましたが、助けて海に返してやりました。
そうすると、翌日、女の姿となって舟に現れました。
誘われるままに竜宮城に送って行き、そこで夫婦となりました。
3年が経って故郷に帰るとき、けっして開けるなと、形見に美しい箱(玉手箱)をもらいます。
帰ってみると、故郷は荒れ果てて700年の時がたっていました。
約束を破って箱をあけると、3筋の煙が上り、浦島は老人となってしまいました」
             
ってのが、大体の話の筋。
ボクらが読んだ童話では、釣った亀ではなく、子供達がいじめていた亀をオカネを出して、放しました。女が迎えに来るんではなく、亀が迎えにきまして、亀の背中に乗って竜宮城にでかけます。
そうすると、乙姫様が出迎えてくれて、3年。
ってことになっていましたね。
          
で、ボクの疑問は、
竜なんていないのに、何で竜宮城って言うの?
乙姫城ならわかるけどね。
山彦が行った先もワダツミノイロコの宮でしょう?
竜宮城になったのは、竜って言えば中国ですから、中国説話が取り入れられたセイらしいですよ。
           
この竜宮城伝承はいろいろのバリエーションがありまして、異界の常世国(とこよのくに)とか、蓬莱郷とかになっている土地もあるそうですね。
沖縄のニライカナイ神話にも、あるようですしね。
青森にまで行くと、さすがに海亀では現実感がなくなるせいか、カレイになっているそうですが、この種の神話はマイクロネシア諸島にまであるそうですから、ワダツミ(海)族共通の神話らしい。
            
亀を釣ったのではなく、いじめている子供達から買って放してやるのは、日本霊異記の「亀を購(あがな)ひて放生せしめ現報を得る縁」って段からきているようですね。
それに後代には、浦島は老人となった後に、明神として現れ亀姫と結ばれる話にまでなったよう。
これは江戸時代の御伽草子にありますから、ここで初めて、太郎になり、悲劇的な伝説が祝言的になったらしい。
             
この明神になった話は、舟屋で有名な京都の伊根町にある宇良神社(浦島神社)の縁起話に詳しいし、今調べてみただけでも、源氏物語の夕霧、宇治拾遺(うじしゅうい)、謡曲「浦島」にもありますね。
ボクらが知っている、近年のものでは、幸田露伴、森鴎外、坪内逍遙も書いていますね。
        
動物の恩返し話は、人気のある説話ですね。
何しろ、夢がありますもん。