イソップの宙返り・70
        
ライオンと農夫
ライオンが家畜を襲って、囲いに入り込みました。
農夫が、生け捕りにしてやろうと思って、囲いの戸を閉めてしまいました。
中のライオンは出られないので、家畜を殺しまくりました。
農夫は弱って、戸を開けてライオンを放ちました。
農夫の細君は、こんな風にいいましたとサ。
「当然の報いよ! アンタ。遠くからでも恐いものを、どうして閉じこめようなんて、考えたのさ?」
寓意・ずっと強い者を怒らせたなら、当然身から出た錆を忍ぶことになる。
          ☆     ☆
極東の凡俗といたしましては・・・
失敗って、後から考えると、何であんなことをしたのか、我ながら情けなくなることがありますね。
ひとの失敗を後から「ああすべきであった」なんて非難するのをアト知恵っていいます。
 
で、後知恵と言えば、コンクリートの話。
「日本には河はなくて、滝しかない」なんて言い方がありますが、ライン河を下ると河原から砂利を採取しています。
あれ、割合に乱暴に掘っています。
河原が広いから、流れから離れたところで、水を汚さずに採取できるようですねぇ。
もともと、古い水成岩の多い土地なのに、その上ゆったりと流れる河の水に晒されて、中性化しているんでしょうね。
         
コンクリートに混ぜる砂利のことを骨材って言うようですが、この骨材が酸性だと、セメントはアルカリ性でも、じわじわと鉄筋を酸化してしまうようですね。
日本には、ゆったりと流れる河もなく、水に晒されて中性化した砂利もタップリとはありませんから山を崩して採る真砂って呼ばれる骨材しか、今は入手できないらしい。
          
真砂ってのも、変な呼び方で、ボクらは真砂って言うと、石川五右衛門の「浜の真砂は尽きるとも、世に盗人の種は尽きまじ」を思いだしますよね。
だから、海岸の砂のことかと早トチリしてしまう。
でも、建材業界の用語では、山から採石粉砕した砂利のことらしいですね。
         
日本の山は地表でも、酸性ですが、その下の岩は更に強い酸性のようですね。
ボクらでも知っているのは、アジサイの色。
山土で育った紫陽花は濃い青色。
アジサイが美しい青色に咲く土地は酸性土なんですよね。
都会の庭土はコンクリートとかでアルカリ化しているから、山で見るような色には咲かないですね。
            
山から採石した真砂は、強い酸性なことはわかっていたから、出荷する前に、水洗いすることになっていました。
まあ、物事はいつでもそうですが、はじめはマジメにやっていたようだけど、国土の乱開発とか、バブルの建設ラッシュになると、出荷するダンプカーの荷台に、ホースでチョロチョロと水を掛けていましたよ。
現場の作業員は、ホコリ防ぎとしか考えていなかった。
        
だから、あの建設ラッシュになった20年ほど前から造られたコンクリートは、中の鉄筋が酸化して柱が膨れ上がってきていますね。
あれ、当初からああなるはずではなかったらしい。
      
環境保護のために川砂が採取できなくなって、次に考えられたことは、河口近くの海底にある海砂利を採りました。
ボクらは、海の砂利って海水に浸かっているから、酸性が強いように思いますが、真水で洗って中性化するのは、それほど難しくなかったようですね。
でも、水洗いはドロ水を排出しますので、公害を出さないようにするには、経費が嵩みました。
それに、そんなことでは建設ラッシュの需要には追いつきませんから、山から採取される真砂を使い始めました。
そうなると、価格の高い海砂の採集業者は倒産。
あの頃、ボクは債鬼(さいき)の手先になって、海砂の採集船の差し押さえで忙しかったんです。
債鬼って、銀行のこと。
で、砂利には一応の知識を持っています。まあ、債鬼的知識をね。
        
山砂利を使うと、鉄筋が酸化して、こんなに深刻なことになることを、わからなかったのは不思議ですが、まあ、ランオンを柵に閉じこめた愚かな農夫同様に、今になって気が付いたアト智恵。身から出た「錆」を忍ぶしかないのかなぁ。