イソップの宙返り・65
         
鴎とトビ
カモメが魚を飲み込もうとして、喉が破れ、海岸に落ちて死んでいました。
トビがこれを見て、こう言いました。
「飛ぶものと生まれて、海で暮らしをたてようとしたなんて」
寓意・本業を捨てて、似合わないことに飛び込む者は失敗する。
         ☆     ☆
極東の凡俗といたしましては・・・
日本では、カモメも鳶も魚を食べて生活しておりますが。
この話が成立したのは、鳥までが魚を食べない、内陸部でのことなんでしょうねぇ。
        
寓話はわかりにくいのですが、寓意に沿って考えてみましょうか。
「本業を捨てて、似合わないことに飛び込む者は失敗する」なんて、書き始めるのは、ボクのまわりでも、リストラを機会に脱サラをしようとする人達がおおいので、気が引けるんですが・・・
まあ、イソップ寓話は、もともと子供向けの訓話ですから、あまり真剣な話でないことにして・・・
         
食い物屋を始めて成功したのと、失敗したのとの2題。
お二人とも、現役時代は、自称他称のグルメ。
なかなか、味にはうるさい方々でした。
まあ、お二人は、それぞれの社内報にグルメ記事を書いて、みんなに重宝がられていました。
         
その内の一人は、ステーキ専門店を開きました。
まあ、場所も盛り場をちょっとはずれた、家賃も安い店舗を、家具調度そのままで使える「居抜き」を買いましてね。
肉の仕入れも、六甲山の裏手にある、安いうまい肉問屋からの仕入れ。
友達のクチコミもあって、地味ながらボチボチはやっています。
ええー、関西でいう「ボチボチ」ですから、客足が絶えないとまでは言えないでも相当はやっていること。
         
この人のやりかたは、ステーキ専門。
やって来たご贔屓連は、「エビとか魚を置くべきだ」って言うんだけど、牛肉の、それも中級のヘレ1種類だけしか、頑として置かない。
「肉の味しか自信がない」のが、その理由。
これは、食べ物屋で、損をしない鉄則らしいですねぇ。
食べ物屋で、損が出るのは食品の売れ残り。
ヘレ肉1種類だと、しかも肉だから、保存をうまくすると、売れ残りはでないですねぇ。
          
上等の肉を割安で、提供できますもんねぇ。
ですが、エビとかの海鮮類が食べたいときとか、肉が嫌いなメンパーがいるときには、行けない不便があります。
で、ボチボチにしかはやることはなかったけど、その内に、「旨い肉くわせるでぇ」が評判になり、地味ではありますが、そこそこ流行っています。
        
まあ、もう一人の方は有名病グルメ。
言うまでもなく、この反対をしてしまった。
家賃の高い表通りで、贅沢な内装にしました。
やって来た、友達のリクエストに応じて、海鮮類の料理を置きました。
素人の仕入れベタも重なって、売れ残りが出て、古くなった前日の材料を使いだしたから、さっぱりダメになりました。
はじめは、千客万来だったんですがね。
       
脱サラで骨董屋で成功した人に、硯だけしか扱わない人がいます。
この人、趣味で書を永くやっていまして、書家の友達も多いのが幸いしたんでしょうが、凝り性ですから、硯を見る目だけは大した物だったらしい。
素人が骨董屋を始めると、まあ、気の毒なほど、プロのカモにてっていますもんねぇ。
         
イソップは、寓意として「似合わないことに飛び込む者は失敗する」って言うけど、これは真理かも知れない。