イソップの宙返り・54
    
鳥とキツネ
鳥が肉を攫ってきて、木の上にとまっていました。
これをキツネが見て、肉をせしめようとしまして、お世辞をタラタラと言いました。
「偉躯堂々、見目麗しいお方。声さえあれば、王になれるでしよう」
鳥はお世辞に乗って、高々と声を張り上げましたので、くわえていた肉を落としてしまいました。
キツネは、まんまと肉をせしめましたとサ。
寓意・考えのたりない人に、この話はあてはまる。
        
極東の凡俗の考えまするに・・・
この話は、伊曾保物語にありまして、「誉め殺し」の話。
むかし、総裁になろうとした某を、ヤクザが、嫌がらせに宣伝カーで、誉めて回ったことがありましてね。
ヤクザに誉められると、これ悪イメージでしょう。
派閥のボスが、これをやめさせた、とか、やめさせなかった、とかが話題になりまして、それ以来「誉め殺し」は、こんな意味に使われました。
      
ですが、本来の「誉め殺し」は、マキアベリも、孫子も言っている、政敵をつぶす高等戦術。
まあ、初歩的な「誉め殺し」は、人は誉められて嬉しいはずはないですから、何でもいいから、オベンチャラを言っていると、周りの取り巻きが我がちに同調してくる。
その内に本人が人格崩壊してくる。これを待つ。
         
もう少し手が込んでくると、例えば相手の文芸の教養でも誉めれば、どんどん文芸趣味に陥って政治をないがしろにする。
これを狙う。
        
この戦術は、ゴルフでは、よく使われる戦術ではあります。
クラブ競技あたりで、マッチプレーになると、相手が飛ばし屋だと簡単。
スタート前に「立派な体格ですね。よく飛ぶんでしょうなぁ?」なんて、フェィントを掛ける。
でも、クラブ競技あたりに出てくるモサは、一度では乗ってこない。
最初のティショットを意識的に、相手の後ろに置く。
せいぜい相手が優越感にひたれるほどの後ろにね。
セカンドが、10ヤード後ろからでも、何の差がないとわかっていても、内心は「ヨッシャ」なんて気になってくる。
ところが、10ヤード後ろから打ったのがピン絡みだと、カリカリしてくるはず。
それで、乗らない相手だと、セカンドショットをグリーン手前に足らずを打つのまで、いるそうですね。
       
ストローク・プレーだとそれほどでもないのに、マッチプレーだと断然強い人は、こんな単純な煽てに乗らない、冷静な性格なんでしょうね。
でも、本格的な「誉め殺し」は、こんな単純なものではないですからね。
この程度の戦術が使えないと政治家にはなれないものらしい。
       
でもねぇ、亭主をバカにする女がいるでしょう?
あれ、「くさし殺し」になるのよね。
隠居した亭主を、古い流行語の「濡れ落ち葉」なんて、いまだに使う人がいるけど、あれは心筋梗塞を引き起こして、あとで寝たきり介護地獄に落ちるからね。
やっぱり、単細胞な亭主は誉め上げるのが無難だと思うよ。
オネガーイシマス。