イソップの宙返り・51
        
竪琴弾きの歌手
下手くそな竪琴弾きがいました。
漆喰塗りの家の中で歌っていましたので、自分の歌に聴き惚れて、陶然としていました。自惚れがこうじて劇場に出演しました。
あまりの下手さに、聴衆に石を投げつけられて追い返されましたとサ。
寓意・自分では一廉のものだと自惚れていても、人前にでて初めて真価がわかることがあるものだ。
☆     ☆
極東の凡俗といたしましては・・・
歌をうたうのは、何時もお風呂と決めておりますです。ハイ
でもね、お風呂で歌うと自分の声に聴き惚れて、陶然としません?
あれはエコー効果とか申すものだそうですね。
               
一時はやったカラオケ・バーに行くと、このエコーとやらで陶然として歌っている人がいましたよね。
陶然がこうじて、マイクを独占して離さないのまで、出てきましてね。
なんぼエコーでも上ずった声は、どうにもならないのにね。
「人の振り見て我が振りなおせ」って諺がありますが、さすがの破廉恥なボクもカラオケだけはやめました。
でも、ボクが歌わないとなると、よっぽどの音痴だと思われるらしく、「歌え、歌え」と無理強いするのを楽しみにするのまで出てきましてね。
          
それで、音痴学については、ちょっと研究しましてね。
ボクの友達にピアノの上手が2,3人いますが、これが歌をうたうと例外なく音痴。
不思議でしてね。ボクも下手なピアノを弾きますので、
「これは、ひょっとして、ピアノを弾くのと関係があるのではないか」
と思い始めまして。
           
喉で出る声は口蓋に反響します、させますが、これは外から耳に達するのと、口蓋から直接聴覚に達するのがあるそうで。
まあ、そういうものかも知れません。
そうなると、ピアノの音は外から、自分の声は口蓋から聞こえますから、これで音程がくるうのかとも思ってみたりして・・・
             
本を見ると「耳を塞いで、歌ってみよ」とか書いてありますが、やってみても同じようにしか聞こえないのですから、これは正真正銘の音感障害者なんでしょうねぇ。
        
少し前のことになりますが、タクシーに乗っていると、ラジオから、嫌らしい気取った声の男が、何やら要領の得ない話をしているのが聞こえてくるんですわ。
ところが、話の内容が、聞いたことがあるんですねぇ。
エエッ、先週取材を受けて喋った自分なんですよ。
         
帰ってから、テープレコーダに声を入れて聞いてみると、自分の声とは思えない高い声なんです。ラジオから聞こえて来た、あの声。
カミさんに「これ、ボクの地声とは違うように聞こえない?」「テープレコーダが安物んなんかな」って訊くと、
「イエ、あんたの声よ」って言うんですわ。
そうすると、やっぱり、あの嫌らしい声は紛れもなく自分の声だったんですねぇ。
        
お風呂の反響と、口蓋のエコーで美声だと思っていたのは思い上がりで、人様のお耳に達していたのは、高い、あの嫌らしい騒音だったのですねぇ。
でもねぇ、日曜日のお昼の「素人のど自慢」にまで出てくる救いようのない音痴がいるでしょう?
あれは、ボクと同じような音感障害症に思えて来る。
以上が、ボクの悲しい音痴学でした。
           
研究した割には、音痴はちっとも治りませんで、相変わらず家のお風呂で、のど自慢しています。
イソップじゃあないけど、今度は竪琴でも買ってきますか・・・
(なんじゃ、そりゃあ)