イソップの宙返り・50
       
野菜と大地
農民が野菜に水をやっていると、通りかかった人が訊きました。
「野の草は水をやらなくても、よくはびこり頑健なのに、野菜は弱いのはなぜか?」
農民が言うのに、
「大地は野の草には母、野菜には継母だからサ」
寓意・継母に育てられる子供は、実の母親に育てられる子供とは同じようには育たないのだ。
           ☆     ☆       
極東の凡俗といたしましては・・・
先ずはじめに、この話、ボクは聞いたことがあるんですが。
あなたは、どうですか?
調べてみると、1600年頃に翻訳された伊曾保物語にあるらしいから、日本の童話でも、伊曾保物語を忠実に訳したのにはあったんでしょうね。
       
この話は継母を実母と、えらく差別していますね。
でも、実母でも子供を虐待死させるのもいれば、継母でも実の親以上に慈しんで育てる方もいらっしゃいますよね。
            
それで思うのですが、「子供を慈しんで育てる遺伝子がある。ところが親を孝養する遺伝子はない」っていう説があります。
             
ところが、この慈しんで育てる遺伝子って、わりあいはずれ易いものらしい。
          
人間だけでなく、まったく子育ての気のない母親犬っているでしょう?
時々、動物園で、チンパンジーの母親が子供を育てないから、飼育係が自宅に連れて帰って抱いて育てている話がよくありますね。
      
で、子育て遺伝子は、我が子にだけ限定されるものではないらしい。
そう言えば、哺乳類のなかには、子供達を集めて保育園のようにして、まとめて育てるのがありますね。若い雌なんかが助手みたいにして、一所懸命育てていますね。
           
慈しんで育てるのは、自分の子供だけに限らないのは、保母さんの中には自分の子供以上に熱心に育ててくださる人がいますね。
まあ、子供好き遺伝子が濃厚だからこそ、保母さんになられるんでしょうがね。
         
最近は離婚が増えていますから、こんなことを以前から深刻に観察してきたんですが、継母でも慈しんで育てている人って多いですよ。
          
離婚といえば、離婚をするときに、どうしても子供を育てたいっていう女性がありますね。
こんな女性って多いみたいですね。
でも、女性の中には、離婚に際して「引き取りたくない」って言う人もあるみたい。
で、女性は子供を慈しむ遺伝子が濃厚で、男は希薄だなんて決めつけない方がいいみたいだし、人によっては子供に執着の強い遺伝子がある、なんてのも決めつけるのも、どうもおかしいようですね。
        
ボクの経験したケースに、こんな人がありました。
一回目の結婚に失敗しまして、その離婚理由が「夫が、退屈で野卑である」でした。
子供が1人いましたが、これを夫のほうに任せての離婚。
当時、私は「退屈で野卑なんて、離婚理由にされたら、日本の男はたいてい離婚されるでぇ」なんて思いましたねぇ。
それに、こんなエエカゲンな理由で、子供を置いて離婚するオンナなんて、「子供が可愛くないのかなぁ? とか、子供を慈しむ遺伝子が欠落しているんかなぁ?」って思いましたね。
            
ところが、ところが、この人再婚しまして、それも子供の2人ある人と、後ほど自分の子供も2人出来まして、この4人の子供を大事に育てられました。
           
となると、この人は子供を慈しむ遺伝子が欠落していたんではないんですよね。
その後気をつけていると、これによく似たケースって、よくあるんですよ。
こうなると、人間の場合、子供を慈しむのは遺伝子からくる本能ではないように思えるんですがね。
         
話が、反対側からの話になりますが、子供の方から親を慕うとか、敬慕するのは、どうかなぁ? 遺伝子に支配される本能とは関係ないのかなぁ。
まず、幼児の時にもらわれた子供でも、実の親が別にいるって知ると、むしょうに慕いますね。
養母に、どんなに慈育されててもね。
こんなケースよくあるでしょう?
           
はじめの話の子育て遺伝子説に戻りますが、子供が親を養生しようとする遺伝子はないって言っていますね。
だから、「孝行させるためには倫理が必要である」って書いています。
でも、先ず、子供を慈育するのは本能とは言えないとなると、今度は反対に倫理観念がないと親孝行しないものだ、と断定はできないと思えるんですがね。
          
お嫁さんが夫の父親を、実父以上に親身に介護していらっしゃるケースもあるし、そこまでいかなくっても、夫の介護をしっかりやっている人って多いでしょう?
これを慈しむのは、組み込まれた単なる本能とはいえないのでは?
まあ、人間の精神活動を遺伝子で説明する説には限界がありますわなぁ。
            
それにしても、「親孝行をする、したい」って言う若者が、アメリカでは70%、日本では30%しかないなんて言うのには、ガックリしますねぇ。
でも、親子の情が薄いのが、日本人の民族的な遺伝子だとは思いたくない。