イソップの宙返り・11
          
狐と面
キツネが彫物師の仕事場に入り込んで、クンクン嗅ぎ廻っているうちに、喜劇役者の面を見つけて、言った。
「何だ、こいつは、深刻な顔をしている割に、頭がカラッポだぞ」
寓意・押し出しは堂々としているけど、心はからっきし、って人がある。
        
極東の凡俗が考えまするに・・・
苦渋に満ちた顔をした人は、何となく、知恵にあふれた、思慮深い人に見えますね。
これを逆手に取ると、頭がカラッポの人間は、深刻な顔をするのも、世渡りの手かもしれませんね。
そういえば、「3年片頬」って、言葉がありますよね。
男は3年に一度、片頬だけで笑うものだと、いう教え。
だから、男は、むやみに笑うものではない、ってことになる。
まあ、健康にわるいだろうなぁ。
極東の島国、日本のこと、には「笑う門には福きたる」って諺がありますがね。
ギリシャでも、深刻な顔をしているヤツには、頭カラッポ人間が多いって考えられていたのかなぁ。
いつの間にか、「人もある」を「多い」に変えちゃった。
        
食わせ者
貧しい男が重い病に罹り、「命を救ってくださったら、百頭の牛の生贄を捧げます」と誓いました。
神様は、こいつを試してやろうとして、命を助けてやりました。
この男は本物の牛が買えないので、小麦粉で牛の形を作って、祭壇で焼きました。
         
神様は、こっちから一杯喰らわせてやろうと、男に夢のお告げを送りました。
「海岸に行くと、千ドラクロア銀貨になるであろう」と。
男が海岸に行くと、海賊に捕まり、千ドラクロアで売り飛ばされてしまいましたとさ。
寓意・うそつきには報いがある。
        
極東の凡俗は、こんな風に感じまする。
神様に、出来ない誓いをした男もわるいけど、「苦しい時の神頼み」なんだから、何にも、奴隷に売られるような酷いめに遭わさんでも、ええやんか。
小麦粉にしたって、貧しい男には百個も作るのは誠意でしょうに・・・
日本では、「貧者の1灯」ってのがありますがね。
愛と優しさの国では、1灯しか祀れなかったからって、貧者に報復する神さんなんていないよね。
       
それにしても、ギリシャの神様は酷い神さんですね。
だから、アテナイの丘の上にあるパンテオン神殿だって、誰も祀らなくなって、廃墟になったんかなぁ。
信仰が廃れて、廃墟になったのは、住民が入れ替わったせいらしいけどね。
      
それにしても、なぜ、子供にこんな恐ろしい事を教えるのかなぁ。
嘘を決定的に悪だと教える社会と、「嘘も方便」っていう社会の違いかなぁ。
        
炭屋と洗濯屋
店をかまえる炭屋が、近くに住み着いた洗濯屋に、「一緒に住めば経済的だ」とか色々の理由を挙げて誘った。
洗濯屋が断って言うのに。
「そいつはダメだ。儂が白くしたものを、あんたは炭で黒くするだろうから」
寓意・似たもの同士でないと共同作業はできない。
        
日本にも、「似たもの夫婦」って、諺がありますね。
でも、「組み合わせの妙」とも言う。
あんまり、同じ性格の夫婦って、必ずしも上手くいかないことが多いみたい。
         
こんな考えの違いは、民族の成立に関係する、って説があります。
ヨーロッパでは、他民族が入り交じっていますから、人の性格遺伝子の振幅の幅が大きいけど、日本は閉鎖された島国なので、人の個性が比較的単一だといいます。
そうかも、知れない。
だから、日本では、個性の違う者が組み合うのも、個性の振幅の違いからは、ヨーロッパでは似たものになるのかも知れない。
          
民族で遺伝子が違うのを無視する考えに、「アメリカでは、子供が16才になれば、独立させるのに、日本では、何時までも甘やかせる」って、これを教育論の基本に据える人があります。
東洋人はネオテニー(幼児進化)が進んでいます。
幼児進化ってのは、人間はチンパンジーと共通の祖先を持っていますが、体毛が少なくチンパンジーの幼児みたいでしょう。
それに、生まれてすぐには歩けない。
とりわけ、東洋人は体毛が少ないことからもわかるように幼児進化が進んでいる部分があります。
         
余談ですが、東洋人が全ての面で、白人とか、黒人より進化しているわけではありません。哺乳類の体毛は本来直毛。
巻き毛は幼児進化からみると直毛人種より、進化の度合いが高いことになります。
だから、進化は人種によりデコボコ。
進化の方向が違って、今日に至っています。ただ、それだけのこと。
     
話を、東洋人のネオテニーに戻しますが、幼児進化の進んでいる東洋人に、アメリカ人に多いアングロサクソンの風習である、少年を早期に独立させる風習を押しつけたり、これを理想とするのは、どんなもんでしょうかね。
欧米崇拝の単純アホ人間に思える。