イソップの宙返り・6
     
キツネとブドウ
腹をすかせたキツネがブドウの木の下を通りがかりました。
ブドウの房を見て、何度も飛びつきましたが、とれませんでした。
あきらめて立ち去りがけに独り言。
「まだ熟れていない」
寓意・力不足でできないことを時のせいにする人があるものだ。
         
極東の凡俗が考えまするに・・・
時宜ってことがありますね。
オイルショックの頃に、プラスチックの製造過程で出るカスから、石油をとりだすプラントを計画した人がありました。
このプラスチックのカスは廃棄するのに公害を起こしていましたから、公害防止になりますし、オイルが不足して日本の産業がピンチになってましたから、一挙両得の名案でした。
しかも、社会的に意義のある事業。
このオイルショックは深刻だったんですよ。
政府は石油貯蔵タンクを造り、石油公団まで造ったんですからね。
            
ところが、この人のプラントが完成してランし始める頃には、オイル価格は暴落。
プラスチックの製造過程が改善されて、カスが出なくなっていました。
プラントは、そのまま立ち腐れ。
それから、しばらくして地方自治体はゴミの分別収集を始め、プラスチックの石油再生も事業に乗るようになりました。
あの時には「まだ熟れていなかった」んですね。
          
シッポのないキツネ
キツネが罠にかかって尻尾を失いました。
自分だけがシッポがないのは恥ずかしいので、みんなにもシッポがなくなるようにしようとしました。
「シッポなんて重いだけで役にたたないから、シッポをきった方がいい」
って勧めましたが、言われた他のキツネはこういいましたとさ。
「シッポがないのが、そんなに良いことなら、皆に勧めないだろうよ」
寓意・善意からでなく、自分の都合でひとに忠告するヤツがいる。
            
極東の凡俗が考えまするに・・・
気の利いたことを考えつかないから、落語の咄にしーよおう。
江戸落語に「大山(おおやま)詣り」ってのがありますね。
ボクは行ったことがないのですが、神奈川県の伊勢原にあるとか。
商売繁盛とバクチにご利益があるとかで、むかしは町内で講をつくって年詣りにいったものだそうで。
町内には一人や二人酒癖のわるいヤツがいるものでして、この咄では、おなじみの熊公が、それ。
出る前に、「こんど暴れる者は頭を剃る」って約束ででかけました。
てっきり、熊公が湯殿で大暴れ。寝ている内に丸坊主にして、一行はほおったらかして出発してしまいます。
目が覚めてこれを知った熊公は、何しろ暴れ者ですから、敵討ちも穏便なものではありません。
一行より先に町内にとんで帰って、一行のおカミさんを集めて、こんな話をします。
「金沢八景の見物のついでに、米ヵ浜の御祖師さんへお詣りしようとしたところが、急に嵐になって舟が沈んでしまって、おれ一人が助かったんだ。
それで供養に、頭を丸めたってわけ。皆ンなも尼さんになって、百万遍をはじめよう」
てんで、一行のおカミさん17人を剃髪させてしまったお咄。
寓意も「酒癖のわるいヤツを旅の仲間に入れるな」
イソップの「尻尾のないキツネ」の話と関係ないかなぁ。