ガイジン差別
       
混血児のことを関西では、あいのこって言います。
ぼくは差し控えなければならないとされている、「差別用語」も使います。
用語を変えてみたところで差別がなくなるわけではありませんでしょうし、差別の本質を見失うとおもうからです。
女中も差別語ですか?
女中って言葉はお手伝いさんより意味としては上等な言葉ですよね?
女中って、それより下の階級に下女、「おさんどん」がありますから、そんなに低く見た差別語ではなくなったように思えるんですがね。
         
ぼくは神戸で育ちましたから、アイノコって言葉にはあまり敏感ではありません。
子どもの頃には国籍と関係なしに友達もいましたし、特に華僑の同級生が多かったですから、華僑と日本人のあいだにできた子供ってザラでした。
ところが、戦時中、僕は六甲山の裏にある田舎町に疎開していたんです。
ここでは猛烈な差別をうけましたね。
ただの差別ではなく、命にかかわるほどの迫害を。
この疎開先は金物の職人町でして、けんかの道具は手作りの刃物。
だいたい、宿題をしてくるのが、気に入らなかったらしい。
それに手を挙げて答えるのも。
だいたい「おはようございます」なんて挨拶する変な奴も、気にいらなかったらしい。
       
ぼくは、その後、神戸に帰ってきてからは、ガキ大将ですごしましたから、田舎でもたいしたイジメにあったわけではないはずですが、土地の連中からは「迫害」されました。
でも、味方になってくれるのもいまして、いまだに仲良くしている親友もできましたがね。
        
なんで、こんなくだくだしいことから話を始めたかといいますと、先日クリステル・チアリさんが、「アイノコ」っていじめられた話をしていまして、これで思い出したんですわ。
彼女なんか美人でしょう。
いじめるっていっても可愛い女の子に対する「やっかみ」でしょうね。
別に混血児でなくても、日本ではほんのささいな異質で、いじめにあうことがありますね。
だいたい、日本人ってみんな混血でしょう? 人種的には。
             
私のいます、神戸なんて新興の港町ですから、播州出身者が比較的多いといいますが、西日本のさまざまな地方からの人たちがいます。
となると、「これみんな同じ日本人って」いうほど人種的にはさまざま。
身長だってさまざま。皮膚の色も、顔も同じ人種とはいえないほどさまざまですよ。
          
この「さまざま」の話ですが、僕はフランスでは日本人に見てもらったことがありません。むかしパック旅行したとき、用意された貸し切りバスに乗ろうとすると
「このバスは日本人専用!」
って断られたことがあります。
ながらく、友達から酒のサカナにされましたね。
で、なに人に間違われたかというと、たいていベトナム人。
下手なフランス語の片言をしゃべるのは、旧植民地の人間にきまっているらしい。
      
ところで、フランスってヨーロッパの例にもれず、多言語国家でしょう。
昔は多言語でしたから、各地から来る学生の共通語としてラテン語がつかわれたんですよね。
「聞き慣れないラテン語が使われていた区域」って意味の「カルチェ・ラタン」って言葉まで残っていますね。
方言といえば、たとえば、西海岸のほうではブルトン語。
僕らが学校で習うのはパリを中心にしゃべられるイル・ド・フランスの標準語(方言?)です。
            
だからブルトン人はイルドフランス方言は片言しかししゃべれないのかと思いますが、きれいなフランス語をしゃべるそうです。
どうして、きれいなフランス語をしゃべるかといいますと、フランス語の塾があるんですってね。
ついこのあいだまで、学校でブルトン語をしゃべると怒られたらしい。
これに比べるとアメリカでは下手な英語をしゃべっても外国人と間違われることがない、って言いますね。
なぜかと言うと、変な英語をしゃべっても、そんな英語をしゃべる田舎があると思うらしい。
アメリカ人でも国際経験のある人のばあいは、インド風のピジン・イングリッシュとかスペイン語なまりの英語だと外国人ってすぐわかるらしいけど。
 
外国語っていえば、うちの細君がいつもボクをバカにする噺。
むかしシャモニーの土産物屋で、ミニチュアのカウベルを買おうとしたんですが、細君、いつものデンで、ややこしいことをいいだしたんですわ。
「このベルトの柄が気に入った。ベルの絵柄はこれがいい。付け替えさせろ」っていいはじめまして、僕は「わずか500円のものに、ウルサイことを言いだしたな」っておもったけど、命じられるまま店のおばさんに交渉したんです。
もちろん、フランス語らしきもので。
おばさん「付け替えると、後が売れなくなる」って、断るんです。
それもモットモって、納得して引き下がりました。
  
待っていたカミさん、おばさんに日本語だけで交渉しはじめました。
おばさん弱って、しぶしぶ付け替えなくれました。
「ね、できたでしょう?」
おばさん言葉が通じないから、弱って付け替えに応うじたんでしょうね。
      
で、カミさんの自慢になります。
「うちの亭主のフランス語より、私の日本語のほうが通じた!」って。
そうかも、知れない。
トホホ。