木の話
        
ボクの家のあたりは震災地ですので、周りで木造家屋が次々と建っています。
木造家屋の骨組みはプレカット。プレカットって字のとおり予め工場とかでカットされていること。
あれは、年々便利になっています。
工務店が間取り図と投影図を作図して、ファックスで送ると直ちにコンピューターが読みとって材木をカットして、木組みを作るところまで来ているんですってね。工場での加工時間は数十分とかいいますね。
     
プレカットで木組みを作っているのは一部の大量生産の建て売りだけかと思っていましたが、大工さんがコツコツと木組み細工しているのなんて、ほとんどないらしい。
そりゃあ、建築費用が抜群に廉すくなったでしょうね。
で、このプレカットって、もう10年も前かららしいので、木組みの出来る大工さんも少なくなっているし、弟子に仕込むこともないらしいので、伝統的な工法は途絶したと考える方が、家を建てるときには無難だそうです。
      
今でも大工さんが、コツコツと木組み細工しているのは、宮大工さんくらいでしょうか?
宮大工さんって云うと西岡常一さんですが、あの人の話を読むと、嬉しくなりますね。
木に対する態度はほとんど哲学か、宗教ですね。
あんな人に家を建ててもらったら素敵だろうなぁ、って思いますが、寺社建築は民間住宅とは根本的にちがうんですってね。
      
まず、使う木か違う。樹齢1000年以上の檜。樹齢1000年を越える檜って、木曽にもないらしい。
だのに、台湾にはあるらしい。ありがたいなぁ。
 
ところで、法隆寺の五重塔は1300年前に造られたままなんですって?
僕は何度か造り直されてきたのかと思っていました。
樹齢1300年の檜は材になっても、更に1300年生きているんだそうですね。
西岡さんは名匠だけあって謙虚な人ですから「今の大工では及びもつかない」って書いておられますが、飛鳥白鳳時代の匠って凄いんですね。
       
仏教建築の伽藍の形式は、唐から渡ってきたとしても、建物の様式は日本独特なんですって。日本は多雨地帯ですから軒を深くしなければなりません。唐とは約3倍の軒幅が法隆寺では造られているんだそうです。
こんなことを知っただけで、法隆寺に行く楽しみがふえました。
       
寺社建設では奈良時代風に礎石の上に柱を据えています。この礎石は当然整形した真四角の石を使うべきだと思いますが、自然石そのままを使うとか。
        
なぜ整形した石を使わないで自然石を使うのかを聞いて「なるほど」と感心しました。
自然石の上面は平らではないですよね。これが重要なことらしい。
礎石に接触する柱下部は石の面に沿って波打つように細工します。これが地震とか強風で建物がねじられる時に、力の方向を分散するらしい。
               
柱の基部が複雑な曲線の表面を持つ礎石に乗っていると、西岡さんの表現では「余裕がある」、素人的に言いますと掛かる力の方角が分散される、ってことになる。
         
次は木のクセ。
木には育った場所によりクセがありましょうね。「木組みは癖組み」っていうほど木のクセで、それぞれ使い方を工夫するものらしい。
       
僕たちが、薬師寺とかを訪ねて、目にはいるのに斗(ます)があります。
斗って柱の上についていて、桁や肘木を受ける四角な受け木。軒の下には、飾りのようにして何十個も並んでいます。
あれ皆同じ大きさ、形かと思っていたら、違うんですって。使う木の癖に応じて、わざわざ違う形にしてあるそうです。ボクは知らなかった。
         
今度、大きな社寺建築を訪ねる機会があれば、よく見よう。
一列に並んでいる柱にしても、違わせてあるんだそうです。木の癖に応じて。
だから、全体として調和がとれていて美しい、って常岡さんは言っています。そんな、ものかなあ。
       
寺院建築では、南を向いて育った木はやっぱり南を向けて使うものらしい。
ここも民家とは違うんですね。
基礎石に乗っている構造ではそうなるけど、コンクリートの基礎に固定されている民家の構造では木の癖をせめぎ合うように使うのが原則です。木の南面、表って言いますが、を反対側同士につかって、そる力をせめぎ合わせます。
        
宮大工さんは樹齢300年の木は切られても300年生きている、って言ってるけど、これは木が呼吸出来るように使った場合のこと。
今の都会の民家のように、防火構造として塗り込めて窒息させれば、樹齢50年の木では瞬く間に死んでしまうのでしょうね。
    
初めのプレカットの話に戻りますが、コンピューターは木の癖なんて判らないですし、高速の機械で切断された材木の切り口はボサボサ。これを、もし木が呼吸出来るようにハーフチェンパー風に露出して使えば、雨に弱いでしょうしね。まあ、木造の家を造るのは、今は難しい時代になりましたね。
      
こんなことを、知ったかぶりに書いていたら、1300年前の飛鳥白鳳期に建てられた法隆寺、薬師寺を訪ねたくなってきました。次の休みには、行こう。
あなたもどう?