神戸食物事情
 
神戸のお菓子屋さんの老舗にユーハイムってのがあります。
戦後、ユーハイム・コイフエクトっていう商号で新しいお菓子メーカーが出来ました。
まあ、当然裁判沙汰になりましたが、ユーハイムってのは、よくある苗字でもあり、「区別できる、紛らわしくない」ってことになりました。
        
まあ、いわば偽物的なブランドですよね。
ところが、老舗のユーハイムの方は、古典的なバターこってり。
一方、新興の方は今風といいますか、日本風のあっさり味なんですね。
例えば、パリで本格的なフランス・ケーキを食べて、しつこくって、うんざりした経験あるでしょう?
だから、神戸では、新しいコンフエクトのケーキも、それなりに人気があります。
  
次は、チョコレートの話
神戸では、チョコレートはゴンチャロフってことになっていました。
ところが、白系ロシア人のゴンチャロフさんは、商標登録なさってなかったらしい。
今は、ゴンチャロフさんとこは、コスモポリタンって名前になって、新興の方はゴンチャロフ製菓って大量生産の大会社になっています。
これが又、新のゴンチャロフ製菓のチョコレートの方が日本人向きで、人気がある。
ね? 神戸ッ子って、節操がないでしょう?
           
神戸では、口コミが盛んなんですよ。
昨日できた店でも、安くって旨ければ、すぐ流行りますね。
一方、老舗でも味が落ちれば、口コミが、あっというまに広がります。
    
神戸では変なことで自慢するんですねぇ。
同じ時計を、自分のは、どんなに安く買ったか、って自慢する。これ昔からそうでした。
あるとき、東京人が、「これは百貨店で正価で買ったから値打ちが違う」って自慢したのをビックリしたことがありました。
    
だから、ある店にいって高くって不味い目に遭ったら、人にバカにされるから、他の街では黙っているでしょう?
ところが、神戸人は「俺、馬鹿な目に逢った」って言ってまわるんですワ。
ですから、老舗といっても、神戸ッ子の口コミには油断できない。
   
反対にいいところは(?)、神戸人は知ったかぶりを言うんですねぇ。
店に行って、パリのどこそこの店では、どんな味だったかとか、おまえの店の味が最近落ちた、とかを知ったかぶりで言うんです。
この手の話は、たいてい素人のデタラメですが、10に1つくらいは、参考になる話があるっていいます。
10に1ッの真実の聞き分けができる眼明きの料理人は、どこに行っても成功するって、いいますね。
だから神戸で成功した食べ物屋は東京でも成功してますね。
            
東京では、不味くなったと思ったら黙って、二度と来てくれなくなるらしい。だから東京では食べ物商売は難しいって言いますね。
お菓子の味の好みって、時代とともにどんどん変わるものでしょう、知ったかぶりでもいいから、文句を言ってくれると、店のほうは聞く耳があるかぎり、ありがたいことでしょうねぇ。
            
パンの話
神戸のパンの老舗はフロインド・リーフなんですね。
ところが、今は煉瓦窯で、薪で焼いているのは阪急岡本にある一軒きりになりました。
神戸ッ子でも薪窯で焼いたパンの味にこだわる人は少なくなりました。
本格的なパンはよその街の方が多いでしょうね。これはちょっと淋しい。
       
灘の酒の話。
昔、江戸では上方から運ばれるお酒が「下り酒」って珍重されたとか。船で江戸へ運ぶ途中、遠州灘でもまれて熟成して一段と美味しくなったと言いますね。
だから、わざわざ富士山の見えるところまで運んでいって、往復させる方法まで考え出されたとか。
「富士見」って一段と高くなって値打ちがでたそうです。
これと似たような話。
今でも神戸ビーフってネーム・バリューがありますでしょう。
       
神戸ビーフって言えば「大井肉店」が有名です。何しろ日本で最初の牛鍋屋ですからね。
大井肉店は、名古屋の明治村の入った正面に古い煉瓦造りの建物が移築されていますから、皆さんもご存じでしょう。でも、あれ、丸儲けなんですよ。
表の市道を拡張した際に、旧店舗の補償金が出たんです。補償金がでた直後、明治村から買いたいって話が出て、取り壊ち費も要らず、丸儲け。
先代が生きていた頃には、よく冷やかしたもんです。しかも、宣伝費まで丸儲け。
    
宣伝費の丸儲けの話なら「剣菱」。
歌舞伎の「助六」(助六所縁の江戸桜)では舞台にコモ被りがずらっと並びます。あれ今では宣伝費は払っていないみたい。宣伝費丸儲け。
         
寄り道。
稲荷寿司と巻き寿司と詰め合わせた弁当のことを助六って言うでしょう。
あれ、助六のあいかた(敵方)の太夫の名前が揚巻。揚げと巻きの洒落。
それにしても、あんまり、賢くなる寄り道ではなかった? ゴメン
     
もとに戻って、神戸ビーフのことだけど、あれ「下り酒」と同じで、肉を神戸で積み込んで1週間もするとかも(醸)されて、柔らかく旨くなったのが評判の始まりだと言いますね。
醸して旨くするためには、屠殺するときに血抜きをとことんはしないで、残すのがステーキ用肉のノウハウ。
ところが、血を残して醸すと、どす黒くなります。見た目が悪い。
今どきは、ステーキでも鮮やかなピンク色でないと東京あたりの田舎もんは承知しない。
この田舎もん趣味が例によって全国制覇したから、すき焼き肉だけでなく、ステーキ用肉までコクがなくなってしまいました。
          
神戸ビーフのノウハウは今や全滅。
何のことはない、新興ビーフ産地とちっとも変わらなくなりました。
以上は神戸ッ子の泣きごとでした。

                
神戸の住民
えー、神戸の住民には市民税を払ってないのがいまして、裏山のイノシシ君。
東灘区の裏山に保久良山ってのがあります。
        
神戸名物の早朝登山の名所でして、標高は200メートル。ここには代々子供を連れた母親猪が居ります。出てくるんではなく、いつも「居り」ます。
昼 登る人はおにぎりでも持って出掛けたいのですが、イノシシにやるのは自然破壊になりますので、弁当も使えません。それに食料を持っていると襲われるから危険ですし。
          
猪の母親にすれば、子供にせがまれて山中から出てくるようですが、土日には早朝から鳥居の脇の石積みの上に頑張っています。
「お母ちゃん。どっか連れてって」となって、「じゃあ、動物園へ」
で、人間を観に来てるらしい。
     
ところで、猪君で困ったことがあります。
ゴミ収集の日に、前日からゴミ袋を出す人がいると、里に下りてきて、街路いっぱいに撒き散らかすんです。春のこんな時期に山に餌がないわけではありません。タケノコとか新芽がたっぷりあるんですが、特定の雄がゴミあさりにやってくるんです。夜間、時には昼間、堂々とやってきます。
このデブ猪は山の自然食品より、インスタント物が好きらしい。不健康な食事になれると、自然の健康食が合わなくなるのは人間と同じらしい。
そんなことから、ボクらは野生動物と身近につき合っています。
         
先日 京都の嵐山に出てきた熊が射殺されました。可哀想でしたね。
でも、出てきてタケノコを食べていたのは、嵐山から嵯峨野に抜けるテレビ映像でお馴染みの竹藪の中。
観光客が大勢通る嵐山銀座のど真ん中。それに付近には市営住宅とか住宅の多いところ。
「麻酔銃を使って動物園にでも・・・」とかの投書があったらしいけど、巧くいかないで、傷ついて暴れることになると大変危険。射殺もやむを得なかったように思えます。
         
以上は、毎日、半野生の猪君と、街中でつき合っている神戸市民としての感想でした。